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好きになっちゃダメだって、わかっちゃいるけど……

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「ごめんなさい……。私の腕が未熟なばっかりに」

 さすがにへこんだ。なぜだか、いつもはできる一定リズムの槌打ちができなかった。不甲斐なさすぎる。

「レンカ、どうしたの? 最初見せてくれたときは、きちんと一定のリズムで叩けていたじゃない。相槌が不慣れな点を考えても、レンカの腕でこれだけ失敗するなんて」

 ユリナが「レンカ、もしかして、どこか具合が悪いんじゃないの?」と、心配そうに私を見ている。

 具合……うん、悪くないはず。

 でも、本当に悪くない? さっきから、胸が締め付けられるように苦しいじゃないか。カレルの姿が目に入ると、心臓が跳ね上がって、腕の動きが一瞬鈍るじゃないか。

 だから、さっきから失敗の繰り返し。どう考えても原因はこれだ。この現象が解消されない限り、いくらやってもダメだと思う。

 でも、どうやって解消するのさ。私には、どうしたらいいかわからないよ。だってこれって、カレルが好きになっちゃったからだよね。

 私は完全に頭が混乱した。

「レンカ? どうしたの、固まっちゃって。やっぱりどこか具合が悪いんじゃ……」

 ユリナが気づかわし気に私の肩に手を触れた。

「わ、私は! 私はどこも、悪くなんかないよっ!」

 私は自分の醜態にあまりにもバツが悪くなり、ユリナの手を払うと、立ち上がって工房の外へと走り出していた。

「ごめんね、ちょっと頭冷やしてくる!」

 吐き捨てるように叫ぶと、私はヴィーデの街の喧騒の中へと突っ込んでいった。

「バカみたいバカみたいバカみたいっ! 私、何やってるんだ!」

 人ごみをかき分け、私は街の郊外へ向けてどんどんと走った。

「カレルに恋心を抱いた? ほんとバカみたい! いくら想ったところで、ユリナに勝てるわけはないのにっ!」

 強引に走り抜けるので、何回も人にぶつかり、怒声を浴びせられる。が、私は気にしない。今はただ、走りたかった。

「こんな歳で初恋? は、バカの極みだよね。それで、今まで積み上げてきた生産の腕まで鈍らせて。私はいったい、何がしたいんだっ!」

 息が切れる。疲労で足がもつれそうになる。でも構うもんか。私はひたすら、門に向かった。

「挙句の果てには、私自身の問題に依頼者を巻き込んで、あまつさえ、こうして依頼者をほっぽりだしたまま逃げ出して。そんなの、生産職失格じゃない!」

 街の門が見えた。私はそのまま門を通過し、街の東側に位置する小高い丘を登り始めた。

「一人で勝手に恋に舞い上がって、勝手に自滅して。本当にバカみたいっ!」

 丘を登りきったところで、私は足を止めた。膝に手をつき、乱れた呼吸を整える。

 さっと吹き付ける風が、汗ばんだ頬を叩いた。急速に体の熱は奪われたけれども、高ぶる心の熱は、一向に奪われる気配がない。

「好きになっちゃダメだって、わかっちゃいるけど……」

 脳裏に浮かぶのは、うれしそうに微笑みながらカレルにしな垂れかかるユリナの姿。

「でも、好きになっちゃったものは、仕方がないじゃない……」

 次に浮かぶのは、熊に襲われ絶体絶命のところを助けに入ったカレルの姿。

「私、どうしたらいいんだろう」

 千々に乱れる心が私を翻弄し、もう何も考えられなくなっていた。
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