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第十五章 再会

9 お兄様の素体はどこかおかしいですわ

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 驚愕の表情を浮かべながら、ラディムが固まった。

「どうしましたの?」

 アリツェは訝しみ、ラディムの顔を覗き込む。

「私にも……ステータスが見えた……」

 信じられないといった様子で、ラディムはぽつりとつぶやいた。

「おかしいですわね……。技能才能を持っていない場合には、絶対に見えないはずなのですが」

 ヴァーツラフからの説明では、確かにそういっていたはずだ。だからこそ、わざわざボーナスポイントを消費してまで『ステータス表示』の技能才能を取ったのだ。

「え? なんだって? うん、なるほどね」

 ラディムはうつむきながら、何やらぶつぶつと独り言を言っている。どうやら優里菜と会話をしているようだ。

「優里菜が言うには、なんだか私の身体がおかしいと」

 ラディムは顔を上げ、アリツェに向き直った。

「どういった意味ですの?」

 外から見た感じでは、特におかしなところは見られない。優里菜はいったいどんな違和感を抱いているのだろうか。

「優里菜がヴァーツラフの指示のもと作った素体と、違っている点がいくつか見受けられるって」

「具体的にいいますと?」

 素体設定時に確認できた項目は、ステータスの成長限界と成長速度、出自、そして技能才能だ。そのいずれかに、何らかの問題でもあったのだろうか。

「なぜだか私の体は、優里菜の設定したはずの技能才能を持っていないみたいだ」

「おかしいですわね……」

 アリツェも腕を組んで考え込んだ。アリツェの身体は、悠太の設定したとおりのステータスや技能才能を持って生まれている。ならばなぜ、ラディムの身体は優里菜の設定どおりに生まれていないのだろうか。ここでもやはり、双子になった弊害が現れている?

「本来であれば、私は四つの技能才能、『神童』、『威圧』、『魅力向上』、そして『槍術才能』を持っているはずなのだが……」

「『神童』はわたくしと同じですわね。残りは違いますが」

 アリツェの持つ技能才能は『神童』、『ステータス表示』、『読解』、『健啖』、『ショートスリーパー』の五つだ。ラディムの技能才能が四つということは、どうやら出自をAにしたのだろう。そのため、同じ両親から生まれつつも、帝国皇子として育ったようだ。

「『威圧』と『魅力向上』については、正直よくわからん。第一皇子という立場のせいで、この二つの技能才能の純粋な効果がいまいち測れないんだ」

「たしかに、判断は難しそうですわね」

 ラディムの考えにアリツェも同意した。元々第一皇子という、とりわけ高い身分を持って生まれた以上、『威圧』とは関係なしに相手は平伏するし、『魅力向上』などなくとも地位に惹かれて寄ってくるものは多いだろう。そういった意味では、この二つの技能才能は出自Aとはすこぶる相性が悪いとアリツェは思った。ただ、逆に、一般庶民が成りあがるには便利な技能才能にも思えるが。

 このあたり、完全に優里菜の選択ミスだろう。

「で、問題なのが『槍術才能』になるわけだが……。槍を修練しても、剣や体術と技能の成長速度が大して変わらない気がするんだよな。わざわざボーナスポイントを振ってまでスキルを取ったはずなのに、おかしいだろう? それに、母が槍の名手のユリナ・カタクラだったのだ。その点を踏まえても、槍の腕前の向上速度が他の武器と変わらないのは、どう考えてもおかしい」

「確かにそうですわね……」

 優里菜の弁によると、ラディムの素体の能力に疑問を感じるきっかけになったのが、この『槍術才能』だったという。幼少時から武器の修練を積まされていたラディムだが、数ある武器の中でも一番適性があったのが剣で、今も剣のみを継続して修練している。本来のラディムの才能を考えれば、ここは剣ではなく槍であるべきなのだ。

「そこに、この『ステータス表示』の技能才能だ」

 今回の『ステータス表示』が、優里菜の疑問を確信に変えたらしい。

「もしかして、わたくしのスキル構成とまったく同じになっている?」

 優里菜は選択しておらず悠太は選択している『ステータス表示』を、ラディムが持っている。このことから導き出される推論は、何らかのシステム的なバグで、ラディムの技能才能がアリツェと同一になっているのではないかというものだ。双子という事実が、その可能性を補強している。

「考えられなくはないな。アリツェはほかに何を取った?」

 ラディムは唸り声をあげ、腕を組んだ。

「わたくしは、『神童』、『ステータス表示』、『読解』、『健啖』、『ショートスリーパー』の五つですわ」

「なるほど……。であるならば、私の体はアリツェと同じ技能才能を持っていそうだ。いくつか思い当たる節がある。とくに、『読解』と『ショートスリーパー』に」

 アリツェの睨んだとおりのようだ。

「六歳くらいの頃から、大人向けの歴史書を読み漁っていたからな。間違いなく『読解』のスキル持ちだろう。それに、以前から人よりも睡眠時間が少なくて済む気がしていたんだが、『ショートスリーパー』のせいだったのか……」

 ラディムはしきりにうなずいている。

「とすると、本来の優里菜様の転生素体はどこへ行ったのでしょうか? それに、わたくしとお兄様が双子とはいえ、まったく同じ技能才能というのもおかしな話ですわよね。男女の双子は、双子と言ってもあくまで、『同時に生まれた兄弟』でしかないはずですわ」

 アリツェは悠太の記憶から引っ張り出した双子の知識を脳裏に思い描いた。

「そうだよな……。一卵性ではないはずだから、ここまで特徴が一致するのはおかしい。一卵性であるならば、性別も同一でないとおかしいよな」

 ラディムの言葉にアリツェも首肯する。

 一つの受精卵が、何らかの原因で二つに分裂してできるのが一卵性の双子だ。であるならば、性別を決める『性染色体』部分も含めて同一にならなければおかしいので、必然的に一卵性の双子は性別が同じになる。

「わたくしたちの出生の秘密は、もうすべて解き明かせたと思っておりましたが、どうやらまだ何かありそうですわね……」
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