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第十二章 悪役令嬢爆誕
1 いまさらあの性悪な『聖女』様に奪われるだなんて……
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アリツェとドミニクは深く愛しあっていた。聖女クリスティーナからの横やりにも、ドミニクはまったくなびく様子はなかった。
だが、最終的には二人は別れ、ドミニクはクリスティーナと結ばれる道を選び取った。
いったいなぜ、このような事態になったのか。話はアリツェとドミニクとの婚約の儀の直後にまでさかのぼる――。
婚約の儀を終え、アリツェは自室でくつろいでいた。朝から準備で忙しく動き回っていたが、ようやく取れた休息だった。
寝起きから何も口にしておらず、空腹のためにお腹がクゥッとかわいらしく鳴る。用意されたサンドウィッチに手を伸ばし、やっとお腹を落ち着かせられた。
(おい、アリツェ)
軽く食事を終えて紅茶を飲んでいると、悠太が話しかけてきた。
(お前、ドミニクと本当にこのまま結婚するつもりか?)
悠太は少し不機嫌そうだった。
「あら、悠太様。まだそのような話をなさるのですか? いくら優里菜様の件があきらめきれないからと、少々しつこくはありませんこと?」
先日の悠太との口論を思い出し、アリツェはため息をつく。
(いや、まぁそうなんだが……。ただ、その件とは別に、一つ思うことがあるんだ)
悠太は言葉を濁したものの、すぐに気持ちを切り替えたのか、話を続けた。
「何でございますか? 一応、お伺いいたしましょう」
また愚痴ではないかと疑う気持ちもあったが、アリツェは素直に耳を傾ける。
(クリスティーナからの話、あれ、受けたほうがフェイシア王国のためにならないか?)
「……して、その真意は?」
悠太が何を言いたいのかわからず、アリツェは首をかしげた。
(世界崩壊を防ぐには、精霊教がもっと強くなる必要がある。であれば、フェイシア王国の王子であるドミニクと、ヤゲル王国の王女であるクリスティーナが結婚すれば、両国の結びつきはより強くなって、精霊教の勢力もより一層精強になる)
「ヤゲルの使節団の方がおっしゃっていた妄言と同じ内容ですわね。将来的に連合王国に発展させると」
最初に聞いたときは一笑に付した馬鹿げた提案だった。
「まさか悠太様は、あの一晩で無理やり考えたと思われる粗雑な提案を、受け入れるべきだとおっしゃるので?」
アリツェは口調に棘を含ませ、悠太に詰問する。
(発端はクリスティーナのわがままからのものかもしれないけれど、この世界に精霊を満たし、大地の余剰地核エネルギーを減らすためには、悪くない提案だと思ったんだよ)
「それは悠太様が、わたくしとドミニクとの結婚をどうしても辞めさせたいと願っているからこそ、そのように思われるだけなのではありませんこと?」
これまでの悠太の発言を思えば、アリツェは素直に聞き入れられなかった。アリツェは悠太の優里菜への想いの一端を知っているので、悠太がその想いにとらわれて、正常な判断が下せていないのではないかと睨んでいた。
(アリツェにそう疑われても仕方がないのはわかっている。でも、別にオレはドミニクを嫌っているわけではない。というか、最近おかしいんだ。オレもドミニクを見ると……)
急に悠太は押し黙った。
「悠太様?」
アリツェは怪訝に思い、沈黙する悠太に問い返す。
(すまん、今の話は忘れてくれ。……とにかく、ヤゲル側の提案をもう一度じっくりと考える価値はあると、オレは思うんだ)
アリツェの言葉に、悠太は再び話し始めた。
忘れてくれと言われても、アリツェは悠太の様子の変化が気になった。なぜなら、アリツェはここ最近、たびたび感じていたからだ。悠太の態度が何やらおかしいと。
「そう申されましても……。わたくしドミニクを愛しております。いまさらあの性悪な『聖女』様に奪われるだなんて、耐えられませんわ」
たとえ悠太が私情を抜きにして提案をしているのだとしても、アリツェは到底承服できなかった。
ドミニクと出会って約一年、これまで育んできた想いを、ぽっと出の性格の悪そうな女にかき乱されるだなんて、いくら温厚なアリツェでも許せなかった。
(しかし、この件でフェイシア王国とヤゲル王国の関係が悪化したらどうする? 確かに非があるのはクリスティーナだ。人の婚約者に横から手を出してきたんだからな)
「そうですわ! まったく、恥知らずもいいところですわ!」
一国の王女であり、精霊教の『聖女』でもある女性がしていい行動ではないと、アリツェは思う。
(だがな、非はどうあれ、ヤゲル王国王女からの、ヤゲル王国を代表しての親善使節からの正式の提案だ。むげに断れば、どうなるかがわからない。正直なところ、クリスティーナの本国での立場がオレたちには不明だ。万が一、クリスティーナがヤゲル王の溺愛を受ける王女であるならば、クリスティーナの誇りを傷つけたなどと難癖をつけられ、友好関係が崩れかねないぞ)
悠太は持論をつらつらと重ねた。
だが、最終的には二人は別れ、ドミニクはクリスティーナと結ばれる道を選び取った。
いったいなぜ、このような事態になったのか。話はアリツェとドミニクとの婚約の儀の直後にまでさかのぼる――。
婚約の儀を終え、アリツェは自室でくつろいでいた。朝から準備で忙しく動き回っていたが、ようやく取れた休息だった。
寝起きから何も口にしておらず、空腹のためにお腹がクゥッとかわいらしく鳴る。用意されたサンドウィッチに手を伸ばし、やっとお腹を落ち着かせられた。
(おい、アリツェ)
軽く食事を終えて紅茶を飲んでいると、悠太が話しかけてきた。
(お前、ドミニクと本当にこのまま結婚するつもりか?)
悠太は少し不機嫌そうだった。
「あら、悠太様。まだそのような話をなさるのですか? いくら優里菜様の件があきらめきれないからと、少々しつこくはありませんこと?」
先日の悠太との口論を思い出し、アリツェはため息をつく。
(いや、まぁそうなんだが……。ただ、その件とは別に、一つ思うことがあるんだ)
悠太は言葉を濁したものの、すぐに気持ちを切り替えたのか、話を続けた。
「何でございますか? 一応、お伺いいたしましょう」
また愚痴ではないかと疑う気持ちもあったが、アリツェは素直に耳を傾ける。
(クリスティーナからの話、あれ、受けたほうがフェイシア王国のためにならないか?)
「……して、その真意は?」
悠太が何を言いたいのかわからず、アリツェは首をかしげた。
(世界崩壊を防ぐには、精霊教がもっと強くなる必要がある。であれば、フェイシア王国の王子であるドミニクと、ヤゲル王国の王女であるクリスティーナが結婚すれば、両国の結びつきはより強くなって、精霊教の勢力もより一層精強になる)
「ヤゲルの使節団の方がおっしゃっていた妄言と同じ内容ですわね。将来的に連合王国に発展させると」
最初に聞いたときは一笑に付した馬鹿げた提案だった。
「まさか悠太様は、あの一晩で無理やり考えたと思われる粗雑な提案を、受け入れるべきだとおっしゃるので?」
アリツェは口調に棘を含ませ、悠太に詰問する。
(発端はクリスティーナのわがままからのものかもしれないけれど、この世界に精霊を満たし、大地の余剰地核エネルギーを減らすためには、悪くない提案だと思ったんだよ)
「それは悠太様が、わたくしとドミニクとの結婚をどうしても辞めさせたいと願っているからこそ、そのように思われるだけなのではありませんこと?」
これまでの悠太の発言を思えば、アリツェは素直に聞き入れられなかった。アリツェは悠太の優里菜への想いの一端を知っているので、悠太がその想いにとらわれて、正常な判断が下せていないのではないかと睨んでいた。
(アリツェにそう疑われても仕方がないのはわかっている。でも、別にオレはドミニクを嫌っているわけではない。というか、最近おかしいんだ。オレもドミニクを見ると……)
急に悠太は押し黙った。
「悠太様?」
アリツェは怪訝に思い、沈黙する悠太に問い返す。
(すまん、今の話は忘れてくれ。……とにかく、ヤゲル側の提案をもう一度じっくりと考える価値はあると、オレは思うんだ)
アリツェの言葉に、悠太は再び話し始めた。
忘れてくれと言われても、アリツェは悠太の様子の変化が気になった。なぜなら、アリツェはここ最近、たびたび感じていたからだ。悠太の態度が何やらおかしいと。
「そう申されましても……。わたくしドミニクを愛しております。いまさらあの性悪な『聖女』様に奪われるだなんて、耐えられませんわ」
たとえ悠太が私情を抜きにして提案をしているのだとしても、アリツェは到底承服できなかった。
ドミニクと出会って約一年、これまで育んできた想いを、ぽっと出の性格の悪そうな女にかき乱されるだなんて、いくら温厚なアリツェでも許せなかった。
(しかし、この件でフェイシア王国とヤゲル王国の関係が悪化したらどうする? 確かに非があるのはクリスティーナだ。人の婚約者に横から手を出してきたんだからな)
「そうですわ! まったく、恥知らずもいいところですわ!」
一国の王女であり、精霊教の『聖女』でもある女性がしていい行動ではないと、アリツェは思う。
(だがな、非はどうあれ、ヤゲル王国王女からの、ヤゲル王国を代表しての親善使節からの正式の提案だ。むげに断れば、どうなるかがわからない。正直なところ、クリスティーナの本国での立場がオレたちには不明だ。万が一、クリスティーナがヤゲル王の溺愛を受ける王女であるならば、クリスティーナの誇りを傷つけたなどと難癖をつけられ、友好関係が崩れかねないぞ)
悠太は持論をつらつらと重ねた。
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