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第十章 皇子救出作戦
6 あの司教の悪だくみは許せませんわ
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「しかし、精霊が大地の生命力を吸い出して、枯らしてしまうか……。まったくよくできたでたらめを考えたものよ。実際は、真逆なのにな」
大司教の言葉を察すると、世界再生教側も精霊術の本来の効果を知っていたようだ。精霊は決して、大地を枯らす存在ではないと。
でたらめを教え込み、帝国国民に流布する。何と罪深い連中だろうか。
「ハッハッハ、そう褒めないでくだされ」
ザハリアーシュは高笑いを上げた。
悠太は不快感がこみあげてくる。精霊をわざと汚すとは、許せないやつらだった。
「一時はラディムに疑いを持たれたこともありました。ある日突然、頭の中に女の声が響き、精霊は善だと言ってきたなどと私に相談をしに来ましてな。私は一笑に付し、教会で祈りを捧げさせたのですが、その際に、マリエという娘に作らせた精神に作用するマジックアイテムをラディムに投げつけ、思考を少々操作してやりましたぞ。あの後、すっかりラディムは従順になりましたな」
ザハリアーシュはずいぶんと手の込んだ工作までしていたようだ。口ではラディムのためと言っておきながら、裏では真逆の行動をとっている。お近づきになりたくないタイプの人間だ。
「まぁ、お前の悪知恵のおかげで、帝国はほぼ我々の手中に収まった。あとは、憎きフェイシア王国攻略だが」
「プリンツ辺境伯は、今のところ動きを見せておりませんな」
ひそかに領軍を整え、フェイシア国王に対し王国軍の編成を依頼しているフェルディナントの動きに、どうやら世界再生教はまだ気づいていないようだ。
「だが、ムシュカ伯爵の反乱に同調して、兵をあげる危険性もあるのではないか?」
さすがに大司教まで上り詰めた男だ。嗅覚が鋭い。
「確かに、あり得る話ですな。それに、ラディムの救出を企てている可能性もあるかもしれませんぞ。なにしろ、ラディムはプリンツ辺境伯の甥ですからな」
大司教の指摘に、ザハリアーシュも納得したようだ。
「……ザハリアーシュよ。ふと思ったのだが、もしかしたらムシュカ伯爵は、プリンツ辺境伯とすでに渡りをつけておるのではないか? それで、我が帝都を挟み撃ちにしようと企てている、と」
鋭い指摘だった。まさに、大司教の懸念するとおりに、フェルディナントもムシュカ伯爵も動いている。この大司教は曲者だ。今後も注意する必要があるだろう。
「考えすぎではないでしょうか……とは言えませんな。可能性、大いにありますぞ。であるとすると、すでにプリンツ辺境伯は動き出しているかもしれませんな」
「不味いな……。ラディムをプリンツ辺境伯に奪われるのは危険だ。奴は皇位継承権第一位の皇子だ。相手に渡れば厄介だぞ」
大司教は当然の帰結として、フェルディナントやムシュカ伯爵たちにとってのラディムの重要性も認識していた。
どうにも不味い流れだった。悠太たち反乱側の意図が、ある程度正確に知れてしまったことになる。
ラディム救出を急がなければならないし、また、決して失敗は許されない。
「仕方がありません。皇帝を説得して、処刑の日時を早めましょうかな」
ザハリアーシュは恐ろしい内容を口にした。これは、何としても今夜で決着をつけないと、最悪の結果になりかねない。
「それが無難だな。では、後は頼んだぞ、ザハリアーシュ。私はいったん大神殿へ戻る」
「承知いたしました。吉報をお持ちできるよう、善処いたしますぞ」
そこで二人の会話が終わった。悠太はすぐさまペスに戻るよう指示を出した。
「……いったいなんですか、これは!」
悠太は思わず、握りしめたこぶしで床を叩いた。
「アリツェ、どうしたんだ?」
ドミニクは訳が分からず、不安げに悠太の顔を覗き込んだ。
「あまりにもひどい内容で……。わたくし、この込み上げる怒りを、どこにぶつければよいのでしょうか!」
「落ち着いて、アリツェ。本来の目的を見失ってはダメだよ。まずはラディム救出だ」
ドミニクは悠太の両肩をガシッとつかみ、鋭く見つめてきた。
「は、はい……。すみません、ドミニク様。世界再生教のあまりにも非道な仕打ちに、わたくしつい……」
ドミニクのまなざしに、悠太は急速に怒気が抜けていくのを感じた。
(う、まただ……。なぜだかドミニクの顔を見ていると、怒りとは別の感情がこみあげてくる。なんなんだ、いったい……)
ここ数日感じている違和感。やはり、アリツェの人格に引っ張られているのだろうか。悠太は必死に頭を振り、邪念を振り払った。
「アリツェ?」
悠太の様子にドミニクは首をかしげた。悠太は慌てて、「なんでもないですわ」と両手を振った。いけない、今はそれどころではない。
「ザハリアーシュの会話の詳細は、あとで聞かせてもらう。今は時間もあまりない。伯爵たちが不利になる前に、さっさとラディムを連れ帰ろう」
確かに、今はラディム救出が最優先だ。悠太は頬を軽く叩き、気を入れなおした。
「急ぎましょう、ドミニク様。ザハリアーシュの部屋には世界再生教の大司教がいます。会話も終わったので、間もなく部屋から出てくるはずですわ。見つかる前に、お兄様の私室に向かいましょう」
悠太は立ち上がり、ドミニクに手を差し出した。
「そんな大物がいたのか!? なるほど、ザハリアーシュが導師部隊の指揮をほっぽり出すわけだ。大司教の歓待の方が重要だろうしな」
ドミニクはうなずきながら、差し出された悠太の手を取って立ち上がった。
「では、引き続き、ペスお願いしますわ」
ペスの風の精霊術で改めて気配を消し、奥のラディムの私室を目指した。
大司教の言葉を察すると、世界再生教側も精霊術の本来の効果を知っていたようだ。精霊は決して、大地を枯らす存在ではないと。
でたらめを教え込み、帝国国民に流布する。何と罪深い連中だろうか。
「ハッハッハ、そう褒めないでくだされ」
ザハリアーシュは高笑いを上げた。
悠太は不快感がこみあげてくる。精霊をわざと汚すとは、許せないやつらだった。
「一時はラディムに疑いを持たれたこともありました。ある日突然、頭の中に女の声が響き、精霊は善だと言ってきたなどと私に相談をしに来ましてな。私は一笑に付し、教会で祈りを捧げさせたのですが、その際に、マリエという娘に作らせた精神に作用するマジックアイテムをラディムに投げつけ、思考を少々操作してやりましたぞ。あの後、すっかりラディムは従順になりましたな」
ザハリアーシュはずいぶんと手の込んだ工作までしていたようだ。口ではラディムのためと言っておきながら、裏では真逆の行動をとっている。お近づきになりたくないタイプの人間だ。
「まぁ、お前の悪知恵のおかげで、帝国はほぼ我々の手中に収まった。あとは、憎きフェイシア王国攻略だが」
「プリンツ辺境伯は、今のところ動きを見せておりませんな」
ひそかに領軍を整え、フェイシア国王に対し王国軍の編成を依頼しているフェルディナントの動きに、どうやら世界再生教はまだ気づいていないようだ。
「だが、ムシュカ伯爵の反乱に同調して、兵をあげる危険性もあるのではないか?」
さすがに大司教まで上り詰めた男だ。嗅覚が鋭い。
「確かに、あり得る話ですな。それに、ラディムの救出を企てている可能性もあるかもしれませんぞ。なにしろ、ラディムはプリンツ辺境伯の甥ですからな」
大司教の指摘に、ザハリアーシュも納得したようだ。
「……ザハリアーシュよ。ふと思ったのだが、もしかしたらムシュカ伯爵は、プリンツ辺境伯とすでに渡りをつけておるのではないか? それで、我が帝都を挟み撃ちにしようと企てている、と」
鋭い指摘だった。まさに、大司教の懸念するとおりに、フェルディナントもムシュカ伯爵も動いている。この大司教は曲者だ。今後も注意する必要があるだろう。
「考えすぎではないでしょうか……とは言えませんな。可能性、大いにありますぞ。であるとすると、すでにプリンツ辺境伯は動き出しているかもしれませんな」
「不味いな……。ラディムをプリンツ辺境伯に奪われるのは危険だ。奴は皇位継承権第一位の皇子だ。相手に渡れば厄介だぞ」
大司教は当然の帰結として、フェルディナントやムシュカ伯爵たちにとってのラディムの重要性も認識していた。
どうにも不味い流れだった。悠太たち反乱側の意図が、ある程度正確に知れてしまったことになる。
ラディム救出を急がなければならないし、また、決して失敗は許されない。
「仕方がありません。皇帝を説得して、処刑の日時を早めましょうかな」
ザハリアーシュは恐ろしい内容を口にした。これは、何としても今夜で決着をつけないと、最悪の結果になりかねない。
「それが無難だな。では、後は頼んだぞ、ザハリアーシュ。私はいったん大神殿へ戻る」
「承知いたしました。吉報をお持ちできるよう、善処いたしますぞ」
そこで二人の会話が終わった。悠太はすぐさまペスに戻るよう指示を出した。
「……いったいなんですか、これは!」
悠太は思わず、握りしめたこぶしで床を叩いた。
「アリツェ、どうしたんだ?」
ドミニクは訳が分からず、不安げに悠太の顔を覗き込んだ。
「あまりにもひどい内容で……。わたくし、この込み上げる怒りを、どこにぶつければよいのでしょうか!」
「落ち着いて、アリツェ。本来の目的を見失ってはダメだよ。まずはラディム救出だ」
ドミニクは悠太の両肩をガシッとつかみ、鋭く見つめてきた。
「は、はい……。すみません、ドミニク様。世界再生教のあまりにも非道な仕打ちに、わたくしつい……」
ドミニクのまなざしに、悠太は急速に怒気が抜けていくのを感じた。
(う、まただ……。なぜだかドミニクの顔を見ていると、怒りとは別の感情がこみあげてくる。なんなんだ、いったい……)
ここ数日感じている違和感。やはり、アリツェの人格に引っ張られているのだろうか。悠太は必死に頭を振り、邪念を振り払った。
「アリツェ?」
悠太の様子にドミニクは首をかしげた。悠太は慌てて、「なんでもないですわ」と両手を振った。いけない、今はそれどころではない。
「ザハリアーシュの会話の詳細は、あとで聞かせてもらう。今は時間もあまりない。伯爵たちが不利になる前に、さっさとラディムを連れ帰ろう」
確かに、今はラディム救出が最優先だ。悠太は頬を軽く叩き、気を入れなおした。
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「そんな大物がいたのか!? なるほど、ザハリアーシュが導師部隊の指揮をほっぽり出すわけだ。大司教の歓待の方が重要だろうしな」
ドミニクはうなずきながら、差し出された悠太の手を取って立ち上がった。
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