上 下
114 / 272
第十章 皇子救出作戦

4 再び潜入いたしますわ

しおりを挟む
 深夜、悠太とドミニクは、ペスを引き連れて宮殿の裏手に回った。一旦物陰にひそみ、侵入のタイミングをうかがう。

「最初の侵入経路自体は、失敗した前回と一緒だね。ちょっと、不安だなぁ」

 ドミニクがポツリとこぼした。

「オーッホッホッホ! ドミニク様、弱気だなんてらしくないですわ。今回は伯爵様の陽動もありますし、何より、わたくしたちが宮殿の見取り図をしっかりと頭に叩き込んでおります。失敗するはずが、ありませんわ!」

 悠太は高笑いを上げて、ドミニクの不安を吹き飛ばそうとした。

「まぁ、アリツェがそういうのなら、たぶん大丈夫なんだろな」

 悠太の姿を、ドミニクは苦笑を浮かべながら見つめている。

「お任せあれ、ですわ!」

 薄い胸をそらしながら、悠太はポンと胸板を叩いた。

『ご主人、そろそろ頃合いだっポ。今なら大分、正面側に衛兵がひきつけられているっポ』

 そこに、念話でルゥからの報告が入った。

「ドミニク様、ルゥから連絡が入りましたわ。どうやら、侵入のタイミングが到来したようですわ」

「よしきた! お互い、頑張ろうか」

 悠太とドミニクはうなずきあうと、ペスの精霊術で気配を消して、勝手口から宮殿に潜入した。






「ルゥの言うとおり、確かに衛兵の姿はないですわね。精霊術の行使の気配も見受けられませんわ。導師部隊もおそらくは、正面に回っているのでしょう。今のうちに、さっさとお兄様を救出しましょう」

 悠太は慎重に周囲の様子を探ったものの、敵対する者の気配は感じなかった。ペスの鼻も、特に危険な臭いは感じていないようだ。

 ゆっくりと慎重に、エリシュカに教えられた地下牢への階段へと歩を進めた。

「確か、この階段だな。地下牢へ続くのは」

 ドミニクが指す先に、ぽっかりと開いた地下への階段がある。

 悠太は意を決し、周囲を警戒しながら階下へと降りた。






「妙だぞ、誰もいない……」

 ドミニクはきょろきょろと地下牢の周囲を見回している。

「もしかしてわたくしたちの意図をつかんで、先に別の場所に移送されたのでしょうか?」

 地下牢には誰も捕らえられていなかった。ただ、ここ最近まで使われていた形跡は見受けられたので、直近までラディムがいたのは間違いないだろう。ペスからも、わずかにラディムの匂いが残っていると伝えられた。

「不味いな。ということは、ボクたち、嵌められている可能性があるよ」

 ドミニクはクシャっと顔をゆがめた。

 このタイミングでのラディムの移送……。どう考えても、先日の悠太たちの侵入を受けての措置だろう。いずれ、再びラディム奪還にくると見込んでの。

 であれば、この地下牢に何らかの罠が仕掛けられていたとしても、不思議はなかった。

「とりあえず、ここに留まるのは悪手ですわ。いったん、台所まで戻りましょう」

 触らぬ神に祟りなし、そんな言葉が悠太の脳裏に浮かんだ。下手に地下牢を探り、何らかの罠が発動されると大変だ。ここはさっさと引き返すべきだった。






 台所まで戻った悠太たちは、今後の方針を考え、頭を抱えた。

「さて困ったぞ。伯爵の陽動もそれほど長く持つとは思えないし、急がないといけない」

 気ばかりが急く。

「ですが、お兄様の居場所がさっぱりですわね」

 悠太はエリシュカから預かった簡易の宮殿見取り図を開いて、何かヒントはないかと考え込んだ。地下牢に捕らえられているとの情報以外、ラディムの現状についてはまったく分かっていなかった。その地下牢にいない以上、いったいどこを探せばよいのだろうか。

 悠太はそこでふと、かつて子爵邸に捕らえられた時を思い出した。

「……エリシュカ様からいただいた見取り図を確認しているのですが、二階のお兄様の自室を調べてみませんか?」

「自室に軟禁かい? どうだろう……」

 悠太の提案に、ドミニクは渋面を浮かべた。

「大した根拠があるわけではございませんの。でも、わたくしがかつて逃走の末に子爵に捕らえられた時、わたくしの自室に軟禁されましたわ。ですので、もしかしたらお兄様も、と」

 可能性は薄いかもしれない。しかし、ほかに思いつく場所もなかった。

「まぁ、ほかに手がかりもないし、アリツェの言うとおりにしてみよう」

 ドミニクも妙案が浮かばなかったのか、悠太の意見に賛同をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...