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第九章 二人の真実
12 空へと飛び立ちますわ!
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「ハァッ、ハァッ。どうにか、撒けましたわ」
悠太はドミニクの作った一瞬の隙をついて、囲みを突破し宮殿の二階へと逃げのびた。ドミニクがうまく引き付けているのか、追っ手の姿は見えない。
「ドミニク様、大丈夫でしょうか……」
後を追ってこないドミニクに、悠太の不安は尽きなかった。このまま一人、逃げ続けてもよいのだろうか。後ろ髪を引かれる。だが、ここでドミニクを探しに戻れば、せっかく囮を引き受けたドミニクの覚悟を、踏みにじる結果にもなる。
悠太は頭を振り、気持ちを切り替えた。とにかくドミニクを信じ、脱出経路を探さねばと。
「ここのテラスから、壁伝いに何とか降りられそうですわね」
悠太は外に出られそうな場所を見つけ出した。壁には手掛かりになりそうなツタやレンガの出っ張りがある。身軽なこのアリツェの体なら、何とか降りられなくもなさそうだ。
「アリツェ! 無事かい!」
と、そこに息せき切らせてドミニクが駆けつけた。パッと見た感じ、けがなどはない。
「あ、ドミニク様! よかった、ご無事でしたのね」
悠太は安堵の表情を浮かべて、ドミニクを迎えた。
一人であの囲いを突破するとは、さすがはドミニクだった。おそらくは、他者にはない何か特殊な技能才能を持っているのだろう。
「ちょっと奥の手を使わせてもらったよ」
ドミニクは「あまり使いたくはなかったけれど、今は、生き残ることが最優先だし、仕方がないね」と呟いた。
やはりドミニクには隠された何かがある。詳しく聞いてみたいが、さすがに敵地でそのような余裕はない。まずは、脱出が最優先だった。
「このまま壁伝いに脱出を考えておりますの。行きましょう、ドミニク様!」
テラスの外の壁を指さしながら、悠太はドミニクの手を引いた。
「ちょっと待って。さっき導師部隊の残りが外へ駆けていくのを見た。壁を伝っている間に襲われる危険性があるよ。あの爆薬を集中的に投げつけられたら、ちょっとマズい」
ドミニクは頭を振り、悠太を止めた。
となると、どこから脱出すべきだろうか。まずは一階へ抜ける手段を探すべきだろうか。
悠太が腕を組んで考え込んでいると、突然、肩に小さな鳩が止まった。
『やっと見つけたっポ。ご主人』
脳裏に突然言葉が響き渡った。この感覚は、ペスの念話と同じだった。
「あら? 何かしら……」
悠太は何やら懐かしさを覚えた。この声に、聞き覚えがあった。
『ルゥだっポ。お久しぶりだっポ、ご主人』
そう頭に響き渡るや、鳩が頭を悠太に擦り付けてきた。
「あら、ルゥでしたの。……これはちょうどいいですわね。さっそく働いてもらいますわ!」
声の主、首元がぼんやりと玉虫色に輝いている小さな鳩は、かつてVRMMO『精霊たちの憂鬱』でカレル・プリンツ――悠太が従えていた、使い魔のルゥだった。
飛行タイプの使い魔であるルゥが加わった結果、新たな選択肢が増えた。
悠太はさっそくルゥを使い魔登録し、精神リンクを確立させた。以前自らのステータスを確認した際に、二匹目の使い魔を持てるだけの精霊使いの熟練度がたまっているのは確認済みだった。
「ドミニク様、精霊術で空を飛びますわ。しっかりとわたくしに捕まっていてくださいませ!」
ルゥに風の精霊術を施せば、悠太の身体自身に翼を纏わせられ、自ら飛行が可能になる。テラスから飛び立てば、追っ手を気にせずに宮殿を脱せるだろう。
「え? え? 空を飛ぶ!?」
ドミニクは目を丸くしている。
「さあ! 早くわたくしの腰に!」
悠太は戸惑うドミニクを急かし、腰に手を回すように告げた。
「わ、わかったよ!」
ドミニクは恐る恐るといった様子で悠太の腰に手を回す。密着する形になったので、悠太はドミニクの心臓の鼓動をしっかりと感じた。
やはり、悠太に嫌な感情は湧き起らない。男に密着されているのにもかかわらず……。
昨晩感じた懸念を思い出し、悠太は少し気が滅入った。本当に、思考や感情がアリツェに寄ってきているのだろうか。肉体に合わせて、人格が徐々に女性化していくのだろうか。
恐ろしい考えを振り払うべく、悠太は頭を振った。ダメだ、今はよそ事を考えている場合ではないと、そう無理やり自分に言い聞かせて。
「お願いしますわ、ルゥ」
『合点承知だっポ!』
悠太は風の精霊術をルゥに施し、ルゥの力によって自らの背に翼を纏わせた。
理屈はよくわからないが、この翼を纏うと体が軽くなった感覚を得られる。ゆっくりと翼をはためかせると、徐々に体が浮き上がり始めた。
そのまま腰をつかんでいるドミニクの腕に手を添えて、悠太はテラスから空へと飛び立った。
悠太はドミニクの作った一瞬の隙をついて、囲みを突破し宮殿の二階へと逃げのびた。ドミニクがうまく引き付けているのか、追っ手の姿は見えない。
「ドミニク様、大丈夫でしょうか……」
後を追ってこないドミニクに、悠太の不安は尽きなかった。このまま一人、逃げ続けてもよいのだろうか。後ろ髪を引かれる。だが、ここでドミニクを探しに戻れば、せっかく囮を引き受けたドミニクの覚悟を、踏みにじる結果にもなる。
悠太は頭を振り、気持ちを切り替えた。とにかくドミニクを信じ、脱出経路を探さねばと。
「ここのテラスから、壁伝いに何とか降りられそうですわね」
悠太は外に出られそうな場所を見つけ出した。壁には手掛かりになりそうなツタやレンガの出っ張りがある。身軽なこのアリツェの体なら、何とか降りられなくもなさそうだ。
「アリツェ! 無事かい!」
と、そこに息せき切らせてドミニクが駆けつけた。パッと見た感じ、けがなどはない。
「あ、ドミニク様! よかった、ご無事でしたのね」
悠太は安堵の表情を浮かべて、ドミニクを迎えた。
一人であの囲いを突破するとは、さすがはドミニクだった。おそらくは、他者にはない何か特殊な技能才能を持っているのだろう。
「ちょっと奥の手を使わせてもらったよ」
ドミニクは「あまり使いたくはなかったけれど、今は、生き残ることが最優先だし、仕方がないね」と呟いた。
やはりドミニクには隠された何かがある。詳しく聞いてみたいが、さすがに敵地でそのような余裕はない。まずは、脱出が最優先だった。
「このまま壁伝いに脱出を考えておりますの。行きましょう、ドミニク様!」
テラスの外の壁を指さしながら、悠太はドミニクの手を引いた。
「ちょっと待って。さっき導師部隊の残りが外へ駆けていくのを見た。壁を伝っている間に襲われる危険性があるよ。あの爆薬を集中的に投げつけられたら、ちょっとマズい」
ドミニクは頭を振り、悠太を止めた。
となると、どこから脱出すべきだろうか。まずは一階へ抜ける手段を探すべきだろうか。
悠太が腕を組んで考え込んでいると、突然、肩に小さな鳩が止まった。
『やっと見つけたっポ。ご主人』
脳裏に突然言葉が響き渡った。この感覚は、ペスの念話と同じだった。
「あら? 何かしら……」
悠太は何やら懐かしさを覚えた。この声に、聞き覚えがあった。
『ルゥだっポ。お久しぶりだっポ、ご主人』
そう頭に響き渡るや、鳩が頭を悠太に擦り付けてきた。
「あら、ルゥでしたの。……これはちょうどいいですわね。さっそく働いてもらいますわ!」
声の主、首元がぼんやりと玉虫色に輝いている小さな鳩は、かつてVRMMO『精霊たちの憂鬱』でカレル・プリンツ――悠太が従えていた、使い魔のルゥだった。
飛行タイプの使い魔であるルゥが加わった結果、新たな選択肢が増えた。
悠太はさっそくルゥを使い魔登録し、精神リンクを確立させた。以前自らのステータスを確認した際に、二匹目の使い魔を持てるだけの精霊使いの熟練度がたまっているのは確認済みだった。
「ドミニク様、精霊術で空を飛びますわ。しっかりとわたくしに捕まっていてくださいませ!」
ルゥに風の精霊術を施せば、悠太の身体自身に翼を纏わせられ、自ら飛行が可能になる。テラスから飛び立てば、追っ手を気にせずに宮殿を脱せるだろう。
「え? え? 空を飛ぶ!?」
ドミニクは目を丸くしている。
「さあ! 早くわたくしの腰に!」
悠太は戸惑うドミニクを急かし、腰に手を回すように告げた。
「わ、わかったよ!」
ドミニクは恐る恐るといった様子で悠太の腰に手を回す。密着する形になったので、悠太はドミニクの心臓の鼓動をしっかりと感じた。
やはり、悠太に嫌な感情は湧き起らない。男に密着されているのにもかかわらず……。
昨晩感じた懸念を思い出し、悠太は少し気が滅入った。本当に、思考や感情がアリツェに寄ってきているのだろうか。肉体に合わせて、人格が徐々に女性化していくのだろうか。
恐ろしい考えを振り払うべく、悠太は頭を振った。ダメだ、今はよそ事を考えている場合ではないと、そう無理やり自分に言い聞かせて。
「お願いしますわ、ルゥ」
『合点承知だっポ!』
悠太は風の精霊術をルゥに施し、ルゥの力によって自らの背に翼を纏わせた。
理屈はよくわからないが、この翼を纏うと体が軽くなった感覚を得られる。ゆっくりと翼をはためかせると、徐々に体が浮き上がり始めた。
そのまま腰をつかんでいるドミニクの腕に手を添えて、悠太はテラスから空へと飛び立った。
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