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第五章 帝国の皇子
9 邪教に負けるわけにはいかない、だが……
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一つの教会での取り締まりが済むと、すぐに別の教会に踏み込む。
「ちくしょう、こんなところで捕まってたまるか!」
血の気の多そうな男性信者が、捕縛をしようとした警備兵にこん棒で襲い掛かった。
「抵抗するなら、こちらもそれなりの対処をさせてもらうぞ!」
警備兵たちは手に持つ棒で迎撃に出る。場に緊張感が漂い始めた。
「これでもくらえっ!」
多少は武器の心得があるのだろうか、こん棒を持つ男性信者の動きは滑らかだった。狙うは警備隊長ただ一人。
勢いに任せて突進してくる男の表情は、鬼気迫るものがあった。
ゾワリとラディムの背筋が凍る。
「チッ! 致し方ない、抜剣だ!」
想定以上の反抗に、警備隊長は舌打ちをした。棒での威嚇はやめ、本格的に制圧に入るようだ。
部下ともども全員長剣を抜剣した。部下は襲い掛かってくる男以外の信者たちを牽制する。決して邪魔はさせない、動けば切る、と言わんばかりに刀身をみせつけた。
一方、狙われている警備隊長は、落ち着いた様子で迎撃態勢に入る。
さすがに訓練を受けた兵にはかなわなかったのか、男性信者の持つこん棒は瞬く間に警備隊長の長剣ではじかれ、反動で男は床に倒れこんだ。
隊長はすぐさまその背を足で強く踏みつける。「グゥッ」と倒れこむ男がうめき声をあげた。立ち上がろうとする男を制するため、隊長は何度も男の脇腹へ蹴りを入れた。
「この悪魔!」
脇から甲高い女の悲鳴が聞こえた。と同時に、部下の一人に突進していく若い一人の女。
「おとなしくしろっ!」
慌てて傍に立つ別の部下の一人が、長剣の柄で女の背を激しくたたいた。
「ギャッ」
女は床にたたきつけられる。ピクピクと痙攣した後、そのまま意識を失ったのか、何の反応もなくなった。
「これ以上の抵抗をするのであれば、残念ながらこちらもそれなりの対処をしなければならないぞ!」
隊長が語気を強めて叫ぶ。と同時に、長剣の刃を足元の男の首筋にあてた。
(いくら反抗的とはいえ、ここまでするのか……)
丸腰の女性にも容赦はなかった。初の現場で、しかも九歳にはなかなか刺激が強かった。
「ここで根絶やしにしなければ、また同じことの繰り返しになる。皆、躊躇するな!」
隊長が部下に檄を飛ばした。部下は頷いて、座り込む残りの信者を囲んだ。先ほどの教会の時とは違い、無抵抗の者にも武器で背を打ち据えたりと、かなり強引だった。今しがたの男女の信者の行動をみて、この教会の者たちは実力行使に出てくる可能性があると踏んでの対処なのだろう。
(ダメだ、見ていられない)
さすがに老婆や自分とそう年齢の変わらないであろう少年少女が、棒で打ち据えられている姿を見るのは忍びなかった。思わず、ラディムは目を瞑った。
「ラディム! 目をそらすな!」
隣に立つベルナルドからの厳しい叱責が飛んだ。
「し、しかし陛下……」
勘弁してほしかった。すでに、ラディムの心は現実に追いついていない。
「ギーゼブレヒト家の人間が、ここで目をそらしてはいけないのだ! わかるな?」
「は、はい……」
家名を出されては、ギーゼブレヒトの人間としての誇りを持つラディムに、拒絶はできなかった。
しぶしぶと、目を開いた。
――その日、同じ光景を三度、別の教会で見せられた。ラディムはぐったりと精神的に消耗した。
「ちくしょう、こんなところで捕まってたまるか!」
血の気の多そうな男性信者が、捕縛をしようとした警備兵にこん棒で襲い掛かった。
「抵抗するなら、こちらもそれなりの対処をさせてもらうぞ!」
警備兵たちは手に持つ棒で迎撃に出る。場に緊張感が漂い始めた。
「これでもくらえっ!」
多少は武器の心得があるのだろうか、こん棒を持つ男性信者の動きは滑らかだった。狙うは警備隊長ただ一人。
勢いに任せて突進してくる男の表情は、鬼気迫るものがあった。
ゾワリとラディムの背筋が凍る。
「チッ! 致し方ない、抜剣だ!」
想定以上の反抗に、警備隊長は舌打ちをした。棒での威嚇はやめ、本格的に制圧に入るようだ。
部下ともども全員長剣を抜剣した。部下は襲い掛かってくる男以外の信者たちを牽制する。決して邪魔はさせない、動けば切る、と言わんばかりに刀身をみせつけた。
一方、狙われている警備隊長は、落ち着いた様子で迎撃態勢に入る。
さすがに訓練を受けた兵にはかなわなかったのか、男性信者の持つこん棒は瞬く間に警備隊長の長剣ではじかれ、反動で男は床に倒れこんだ。
隊長はすぐさまその背を足で強く踏みつける。「グゥッ」と倒れこむ男がうめき声をあげた。立ち上がろうとする男を制するため、隊長は何度も男の脇腹へ蹴りを入れた。
「この悪魔!」
脇から甲高い女の悲鳴が聞こえた。と同時に、部下の一人に突進していく若い一人の女。
「おとなしくしろっ!」
慌てて傍に立つ別の部下の一人が、長剣の柄で女の背を激しくたたいた。
「ギャッ」
女は床にたたきつけられる。ピクピクと痙攣した後、そのまま意識を失ったのか、何の反応もなくなった。
「これ以上の抵抗をするのであれば、残念ながらこちらもそれなりの対処をしなければならないぞ!」
隊長が語気を強めて叫ぶ。と同時に、長剣の刃を足元の男の首筋にあてた。
(いくら反抗的とはいえ、ここまでするのか……)
丸腰の女性にも容赦はなかった。初の現場で、しかも九歳にはなかなか刺激が強かった。
「ここで根絶やしにしなければ、また同じことの繰り返しになる。皆、躊躇するな!」
隊長が部下に檄を飛ばした。部下は頷いて、座り込む残りの信者を囲んだ。先ほどの教会の時とは違い、無抵抗の者にも武器で背を打ち据えたりと、かなり強引だった。今しがたの男女の信者の行動をみて、この教会の者たちは実力行使に出てくる可能性があると踏んでの対処なのだろう。
(ダメだ、見ていられない)
さすがに老婆や自分とそう年齢の変わらないであろう少年少女が、棒で打ち据えられている姿を見るのは忍びなかった。思わず、ラディムは目を瞑った。
「ラディム! 目をそらすな!」
隣に立つベルナルドからの厳しい叱責が飛んだ。
「し、しかし陛下……」
勘弁してほしかった。すでに、ラディムの心は現実に追いついていない。
「ギーゼブレヒト家の人間が、ここで目をそらしてはいけないのだ! わかるな?」
「は、はい……」
家名を出されては、ギーゼブレヒトの人間としての誇りを持つラディムに、拒絶はできなかった。
しぶしぶと、目を開いた。
――その日、同じ光景を三度、別の教会で見せられた。ラディムはぐったりと精神的に消耗した。
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