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本編
第一話
しおりを挟むわたくしはカトリン・ゾフィーネ・アーベル。
ローレンツ侯爵家の出戻り娘?
いやいやそこは出戻りおばさんかしら。
娘というにはね、だってわたくしはもう43歳ですもの。
あれは今から十年前の事。ある日突然元夫と離縁を言い渡され、その日の内に実家へ戻ったから。
元婚家であるラーケン伯爵家には18歳で嫁いだわ。当然の事ながらその結婚は政略的なもので、そこに1㍉の愛情なんてものは存在しなかった。それでもわたくしなりに愛情はなくともよ。せめて夫婦、そうして近い将来子を生す事で少しずつ家族として信頼を築き上げれるだろうと思っていたの。そう少なくとも初夜の夜に元夫より宣言される前までは……ね。
『私には愛する女性がいる。だから貴女とは形だけの夫婦でいたい』
行き成りの告白。そして言いたい事だけを伝えれば、わたくしの返事を待つ事なく夫婦の寝室より去っていった元夫。何も知らない18歳の新妻となったわたくしは何も出来なかった。
まぁそこは普通にそんなお馬鹿な事を言われた女性側としては吃驚するでしょうし泣き叫びたくもなるわね。
抑々好きな女性がいるならば婚約を受け入れるなってね!!
お花畑過ぎる元夫に怒りを通り越して呆れて何も言えなかった。
普通ならば即離婚案件よ。
でもわたくし達は平民ではなく貴族。
領地領民の為ならば、愛や恋よりも先ず契約と義務と責任を重視する生き物。
わたくしとて女ですもの。自由恋愛を夢見た事がないとは言わない。ただそれは子供時代の話。貴族として生きるならば慾や権利を主張する前にまずは義務と責任を負わなければいけない。それこそが貴族と言う生き物。常に己を律する事こそが美徳とされている。わたくしは幼い頃よりそう教えられて育ってきたけれど元夫は違ったみたいね。
確かに一定数?
うーん稀に……かしら。
残念な事に我慾へ忠実な貴族も存在するわ。
私腹を肥やす貴族の風上にも置けない者達がね。あぁそれから運命の人だと声高に叫んでは、三文芝居よろしくといった具合に舞踏会場で婚約破棄を宣言する者も偶にいる。でもまさかわたくし自身の身へそれが降りかかるとは、新婚初夜まで気づく事が出来なかったわたくしも大概阿呆だわ。
それ以降所謂白い結婚状態の生活が始まり元夫とは月に数度、夫婦で参加する夜会でのみ顔を合わせていたわ。
わたくしは本宅、元夫は王都内にある別宅で愛人と共に暮らしていた。
幸いな事に本宅の使用人達との関係はとても良好だったわ。皆わたくしの事を気遣ってくれていたし、結婚をし執務をわたくしへ放り出し愛欲に耽る当主への忠誠なんてものは次第に薄れていったみたい。
慣れない執務で右往左往するわたくしは皆に助けられ何とか領地経営を行った。とは言え白い結婚なのだから三年経てば離縁が出来る。屋敷の皆には悪いけれど両親と相談し三年だけの我慢だと思い頑張る事にしたの。
あれはちょうど結婚して後三ヶ月で三年という日だった。
忘れもしない嵐の酷い夜だったわ。わたくしは何時もと変わらず湯あみを終え、ソファでお茶を飲みながら今日あった事、明日からの予定を考えてから就寝した。
そうしてうとうとと眠り始めた時にそれは起こったわ。
夢現の中で執拗に身体に触れる嫌な感触と荒い息遣い。暗闇の中でわたくしはいやいやと首を振り拒絶する。勿論抵抗をしようとしたわ。でも何故か手や足は自由に動かす事の出来ない状態で、夢にしてはなんて酷いものなのだろうと思った瞬間意識がクリアになったわ。
今起こっている事が現実何だと。
暗闇なのは明かりを消しているから。
そして今わたくしは自身の部屋の寝台の上にいるけれどもわたくし一人ではない。
わたくしの上に跨る何者かが存在している。
暫くすると暗闇にも目が慣れてきた。
耳元で荒い息遣いと乱暴な手つきでわたくしの身体に触れるのは――――元夫だった。
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