上 下
6 / 42

6

しおりを挟む
「両陛下、本日はお話があって王宮へ罷り越したのです」

「あら、何かしら」

 優雅に、そして美しい所作で以ってお茶を楽しまれる王妃様。

 ごめんなさい。
 本当に申し訳御座いません。
 お二人方には本当に可愛がって下さったと言うのに、よもやこの様なお話をする事になるとは……。

 
 でも幾ら敬愛する両陛下だからと言ってこのまま貴方とキャサリン王女殿下の件をなかった事にしてしまうのは、私自身と致しましても到底無理なのです。
 何も知らなかったままならばいざ知らず、真実を知ってしまった以上貴方とはもう生涯を共にする事は出来ないのです。
 たとえ王族だからとは言え近親相姦を無視する何て私には出来ないのですから……。


「両陛下にお願い致します。私と王太子殿下との婚約を解消若しくは破棄の何れでも構いません。どうか此度の結婚の儀をなかったものとして頂きたいのです」

 この一言でほんわかムードなお茶の時間は一変しました。
 まあ仕方ないでしょう。
 それも覚悟の上なのです。
 あとは出来得る限り穏便に、事を大きくせずにまた野心家の両親を抑えつつ婚約をなかったものにしなければ……。

 
 確かに婚約破棄若しくは解消をしたとしても私は傷物令嬢として将来に期待は出来ないでしょう。
 野心家の両親にしてみればお金を湯水の様に使いいらぬ虫が付かない様に最高の商品として育ててきたのですもの。
 傷物となればその商品価値はどの様に下がる事でしょうね。

 でも私はそれでも構わないのです。
 同じ顔の人間を愛する貴方の妻になるくらいならば私は直ぐにでも世を捨て、修道女として生涯を静かに暮らしたいと思うのです。
 
 利用し利用される様な貴族の世界よりもその方が私にしてみればある意味幸せなのでは――――と、両親へ訴えて以来何回となく考えてしまうのですから……。

 ですので陛下方もどうか私の切なる願いをどうかお聞き届――――。

「駄目だ!! 婚約をなかった事に等する訳にはいかない!!」
「そうですよリズ、ようやく貴女を娘として迎えられるところまで来たと言うのにです。私達夫婦はをどれ程待ち望んでいた事かっ、ねぇお願いリズ。考え直して頂戴な。エセルは貴方の夫となるべく生まれてきたのですもの。ねぇリズ、エセルには貴女しかいないのよ」

 優しく諭す様に王妃様が語り掛けてくれます。
 本当にお優しい王妃様。
 あの様な事がなければきっと私は王妃様をと、心より呼びたかったでしょう。
 しかし知ってしまった以上もう知らない私には戻れないのです。

「申し訳、御座いません……私には、殿下の妃にはなれない……のです」

 まだ本当の理由をお話してはいません。
 この段階では単なる私個人の我儘でしかないでしょう。
 臣下である私の我儘。

 貴方にひと時でも恋をしたと思い込んでいた少女の、貴方へ最初で最後の贈り物です。

 どうか私を悪者にして婚約を破棄させて下さいませ。
 そして貴方とキャサリン王女の件は墓場まで持って参ります。
 ですから新たなるご婚約者となられるご令嬢の為にも、キャサリン王女と穏便にお別れして下さいね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...