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終章   エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来

28  彼女達の選んだ決断

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 ふわふわと私は今漂っている感じかしら。

 全く身体の重さを感じないのって不思議。

 でもここは何処、なのかしら?


『ここは世界の境界線。または次元の境界とも言うのかもしれない』

 エル、ネスティーネ?

『そうよ。私はかつて貴女だったものよ』

 貴女だったもの、なんてそれは可笑しいわ。
 だって私達は皆で一人のエルネスティーネでしょ。

『えぇそう、そう思ってくれる貴女だからこそ私達は全てを託したの。だからこそこの子は、リーゼは元の姿を取り戻したのよ』

 元の姿?

『えぇ本来のリーゼのあるべき姿。私もそして母イルメントルートもその事実を知ったのはつい今し方なの』

 えーっとそれって。

『リーゼは混沌の母よりその大いなる力を封印され、成体の状態で誕生した特異な神よ。彼女は何れ神々が暴走するかもしれない未来の為に創られし存在。暴走した神々達が全ての世界を崩壊させない為にね』

 ではリーゼがずっと幼いままだったのは……。

『貴女の考える通りよエル。リーゼこそが全ての有を無に帰せし虚無。虚無こそがトルテリーゼのあるべき姿。でもこの子の真の力を顕現させるのは今ではない。叶うならば私は永遠にその日がこない事を願ってもいる。でもこれは私の決める事ではないわ。全てはあらゆる世界に生きている物達のこれからにかかっている。その瞬間が訪れるまでまで私はこの子と共にあるわ』

 そっか。
 そうよね。
 これから生きていく物達によって未来は築かれて……って?

 ん?
 そこは当然私も一緒よね。
 だって私達は皆で――――。

『ごめんなさいね。もう定員オーバーなのよ』

 な、何が定員オーバーなのよ!!
 冗談も大概に……。

『では立ち入り禁止とでも言うべきかしら』

 な、何で⁉

『残念ながらここより先へ肉体は立ち入る事が出来ないの』

 ではこの身体を出ればいいの?

『それも不正解』

 一体何を言っているの。

『エル、貴女も知っての通り世界を出入り出来るのは精神生命体でなければいけないの。精神生命体は人間よりも更に高次な存在。然も神と言えばその最高次の世界にいるものなのよ』

 そんな事を言われなくても今更なんだと言うの。

『ここにいる精神生命体は私とリーゼ。因みに貴女は人間の器を持つ人間のエル』

 だから身体を出ればいいだけ……!?

『察しが良くて嬉しいわ』

 でもそれでは!!

『いいのよエル。私とヘルムートの交わった時は既に過去のもの。少しだけとは言え彼の魂にも触れる事が出来たからそれだけで十分』

 でも!!

『今は貴女よエル。貴女は今確実のこの時代を生きている女の子。貴女の未来はまさにこれから紡がれていく。過去の亡霊である私達に貴女の未来を摘む事は許されない。また神として存在していくとしても容認できない。だからね、貴女は元の、本来貴女がいるべき場所へお戻りなさい。そして誰よりも幸せになるの。当然私達の力は回収させて貰うわね。それと記憶もよ。ただの人間の女の子に神や色々な記憶や力何て必要ないでしょ』

 エル、ネス、ティーネぇ。

『泣かないの。あ、そうそう折角金の聖女になったのだから当然オールマイティーな魔法は行使出来るわよ。これは頑張てくれた分のご褒美。さぁお行きなさい。貴女の還る場所へ。沢山の幸せと素敵な未来を楽しんでね』

『ありがとう小さな姉様』

 優し気な笑みを湛えたエルネスティーネと彼女に甘えるように抱き付き私へ手を振るリーゼ。
 眩い光が私を包み始めると徐々に彼女達の姿が霞んでいく。
 完全に光に包まれれば、小さなリーゼとエルネスティーネは優しく私を元の場所へと送り出してくれたの。


 ありがとう。
 さようなら何て言わないよ。
 また何時か私達は再会するものね。
 だからそれまで……。








「……なさま。旦那様。だん、はぁジークヴァルト坊ちゃま」

「あ、いや済まない。それでどうしたグスタフ」
「どうしたでは御座いません。もうそろそろ王都の、騎士団へお顔をお出しになられては如何でしょう」

「そう、だな」

 あれからもう一年と言う月日が流れた。
 最初の頃はエルへの想いをそれぞれ口にしていた。

 だが半年も過ぎた頃だろうか。
 少しずつエルについての話をしなくなってしまった。

 別に緘口令を敷かれている訳でもないのに……な。

 あの娘馬鹿な宰相と姪馬鹿な陛下でさえだ。
 今ではエルが本当に俺達の中に存在していたのかと、時折不安に陥ってしまう事もある。

 まぁ俺は他の者とは違い、毎回見事にエルの記憶から抹消されてしまっていたからな。

 そして今現在俺の執務机の上には山と積み上げられた釣書がある。
 エルの姿を見かけなくなった噂をし始めたのと同時に送りつけてくる無神経な貴族達。

 騎士団へ向かえば令嬢達が群がり迷惑であると直接伝えたのにも拘らず、厚顔ぶりを発揮し力づくで追い出すまで付き纏ってくる。
 また王宮でのイベントへ半ば強引に出席をさせられればだ。
 今度は令嬢だけでなく貴婦人からの秋波までもが飛んできて鬱陶しい事この上ない。
 腹に据え兼ね無視をすれば既成事実を作ろうと媚薬を何度も仕掛けてくる。

 エルを失い精神的に辛い状態なのにさらに追い打ちを仕掛ける相手の何処に魅力を感じると言うのだ。 
 そう言う事もあり現在は体調不良と届けを出し、療養の為我がシュターデン領で過ごしている。

 言ってみれば引き籠りだ。

 だが仕事はしている。
 それに届を提出した際、両陛下とライン殿下は何も言わず了承してくれた。
 確かに何時までも厚意に甘えてはいけないのも十分理解はしている。
 また公爵家には後継が必要で、婚約者不在の今新たなる婚約者を迎えねばならない事も頭では理解している。

 でもだ!!
 俺はずっとエルだけを見つめて来ていたのだ。
 エルに俺を一目でもいいから覚えて欲しい。
 あの愛らしくも美しい菫色の瞳に俺を映したいとずっと願っていた。
 これで最後かと思った時になってエルからの思いもしなかった彼女からの愛の告白を聞いて俺の心は舞い上がったよ。

 もうこれで死んでも悔い……はしっかり残るな。

 名実共にエルの婚約者になれたのだと喜んだのも束の間、エルは世界を護る為に俺を捨てた。

 ポイっとな。

 エルにとって俺の存在とは何だったのかと問い質したい。
 いや9歳の少女が頑張って最善を出した答えと言うかだ。
 普通に世界と天秤に掛けられればポイ捨てされるの俺だ、な。


 わかってはいるのだ。
 エルは何も悪くはない。
 エルの行動は正しかったのだと。
 だが捨てられた俺の気持ちもわかって欲しい。
 そしてもうそろそろ前へ向いて歩いていかねばいけな――――っ⁉

 突如目の前に現れたのは眩いばかりの光の珠。

 最初は手に握れる程に小さなものだったのだが、それが少しずつ大きくなっていく。

「だ、旦那様っ⁉」

 この現象に驚愕するグスタフ、だけではなく俺もだ。
 だが同時にある事へ期待してしまう。

 キラキラと輝きを放ちながら光は大きくなりそして……。

「――――エルっ!!」

 俺はその光の中心でまるく両膝を抱え眠る愛しい、この世の何よりも大切で愛おしい存在へと手を伸ばす。

 そっと光に包まれる彼女の身体を引き寄せ大切に俺の腕の中で抱き締める。

「……っ、ん……」

 光は俺がエルをしっかり抱き締めているのを確認するかの様に静かに消えていく。

 でも俺の愛しいお姫さまはまだ夢の中らしい。

 早く、少しでも早く貴女の菫色の美しい瞳に映してくれ。

 そして可愛らしくも甘い声で俺の名を読んで欲しい。

「旦那様、この御方は一体……もしかしてこの御方が?」
「あぁ俺の、俺だけの大切なお姫さまだよ」

 グスタフは王宮とキルヒホフ侯爵家へ連絡すると言い脱兎の如く駆けだしていった。
 そろそろ年齢も考えて行動してほしいものだな。

 さぁこれから何をしようか。
 俺達の時間はこれからなのだから。

 先ずはお姫さまが目覚めるのを待ち、それから俺の名を呼んでもらおう。
 そして彼女に似合うドレスと装飾品を送りそれから……。


「じ、くさま?」

 ゆっくりと菫色の瞳が開かれそうして――――。

「お早う俺のお姫様」



                               おしまい






 ※最後まで読んで下さり有難う御座います。
  今話で完結とさせて頂きます。
  本当に完結迄時間は掛かりましたが、これも皆さまの応援により無事掻き終える事が出来ました。
  
  番外編を少し、以前の序章を載せさせて頂こうと思います。
  前回は出だしからショッキングな内容だったので今回は簡単に纏めようかと思いましたけれども、やはりそれなりにあの序章も気に入っていたので番外編として載せさせて頂きますね。

  これからもどうぞ宜しくお願いします。
  (人''▽`)ありがとう☆

                              Hinaki



 
 
 
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