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終章   エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来

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『ねえ、さま?』

 繋ぐ手をぎゅっと強く握り、不安げな表情で私を見上げるリーゼ。

 この子をもう暴走させる訳にはいかない。

 一緒にいると約束をしたの。

 二度と寂しい思いはさせないしさせたくはないだから……。


「生き返ってよかったですジーク様」
「エ、ル」

 しっかりしてエル。

「でもまだお怪我は完全に治癒出来てはいないみたいですね」

 私は両の手を握り合わせると願う。

 どうかジーク様の怪我が治ります様に……と。

「こ、これ、は!?」

 ジーク様のお身体全体がキラキラと輝けば、あっと言う間に彼の身体にあっただろう傷の全てが回復した。
 でも失った体力はまだ戻ってはいない。
 
「まだ急に起き上がってはいけませんよジーク様。傷は治っても体力の回復は出来ていませんからね」

 そう私はジーク様の体力の回復を願わなかったわ。
 何故なら全てを回復させてしまえば恐らくジーク様は私を止めるだろう。
 
「な、らばエル、どうか俺の、傍にいて下さい。俺の、傍に貴女がいないと不安なのです。何故か、貴女が遠い場所へ行く、様な気がして……」

 切なげな、それでいて大人の色気を駄々洩れ状態で懇願するジーク様が最強過ぎて怖い。
 
 こんな、もう最後なのにこの方は何時だって私を……。
 
 ダメよエル。
 絶対に涙を見せてはダメ。
 
 笑顔よ。
 笑顔でジーク様とお別れをするの。
 私を思い出して下さる時は最高の笑顔の方がカッコいいじゃない。

「ジーク様、大変申し訳ありませんが私は、貴方と共にいる事は出来なくなりました」

 笑ってエル。

「な、にを? 一体何を仰っている、のですかエル?」

 私の表情筋と目に力を込めてやり通すのよ。

「この度私はここにいるリーゼと共にこの世界を去る事にしたのです。だから貴方とは共に生きる事は出来ません」

 頑張って。

「リーゼとは……まさか大魔女トルテリーゼの事なのですか?」

『姉様……』

 いけないリーゼが不安がっている。

「……この子は私の大切なリーゼです」
「俺を、捨てるのか?」

 幼いリーゼを抱き締めるとジーク様の美しいお顔は歪み、悔しそうで今にも泣いておしまいになるのかと思う程に切なさを滲ませた表情に、私の胸がキリキリと痛んでしまう。
 
 そんなお顔をさせたくはない。

 大好きなジーク様を苦しめたくはない。

 でもリーゼを一人には出来ない。

「さよ、ならですジーク様」
「い、駄目だ!! 俺は貴女と離れはしない!!」

 体力が回復していないのに、本来ならまだ身体を動かす事さえ出来ない状態なのにも関わらず、ジーク様は形振り構わずと言った様に這う様にしてこちらへと向かってこられる。

 その御姿がとても痛々しい。

「ダメですよ、無理をすれば体に負担がかかります」

 私は両の手を握り合わせる。

「やめ、ろ。止めてくれエル!!」

 後で思い切り泣くわ。
 だから今だけ涙を絶対に流さない。

「どうかジーク様を、王宮の皆の元へ……」

 安全に……と心の中で願った。

「嫌だ、エル!! 俺は貴女と――――⁉」

 ジーク様のお身体を中心として光が現れ輝き始める。

『いい、の?』

 まだ置いていかれると不安に思っているのかしら。

 だから安心をさせる様に私はリーゼを抱き上げる。

「さぁ一緒に還りましょ」

 あるかどうかもわからない神界へ。

「――――エル!!」

 私達とジーク様はほぼ同時にイルクナーの地より姿を消した。

 ジーク様は家族の元へ。

 私達は新たな贖罪と言う名の出発の為に。

 
 今度こそさようならジーク様。


 ※次はいよいよ最終話となります。
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