上 下
129 / 140
終章   エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来

23

しおりを挟む


 青白いのは顔、だけではなかった。
 首に掌、あの蛇の様なモノの攻撃によって裂けた服から垣間見える肌の全てがそうだった。
 
「お願い、一人にしないでっ!!」

 先程まで光り輝いていたエメラルドグリーンの瞳が今は固く閉じられいる。
 私は一瞬止まりかけた涙がまたじわじわと溢れ始めるのを感じながらそっと、ううん結構がっつりと大きくて重いジーク様の手を両手で抱え込む。

 温かい。

 まだ温か、い……よぉ。

 この温かい手で何度も護って貰っていた。
 なのに私は何時もジーク様と距離を取ろうと意地になっていた。

 だって、だって仕方がないでしょ。
 記憶になかったのだもの。
 それにあの二人より捻じ曲げられ、埋め込まれた記憶があったのだもの。
 
 誰だって悲しい恋はしたくはない。
 大人でなくとも子供だってそのくらいちゃんとわかる。
 
 だから今度こそ運命を変えたいって。

 必死に回避しようとしているのにそれでもジーク様は何時も、何度も追い掛けてくるし、抑々子供の私に大人のジーク様が想いを寄せるって世間的に色々アウトでしょ。
 なのにそんな事を少しも構わなくて、大人の癖に私と同じ年齢の少年の様に必死になられる所が……すっ⁉

 好き?

 一つの言葉の存在によって悲しみに染まる心がぽかぽかと温かくなっていく。
 ジーク様の瞳がもう二度と開かれる事はないとわかっていても私の心の中で芽生えた想いはゆっくりと花開く。

 涙は決して枯れない。
 私はこの世で最も大切な御方を護る事が出来なかった。
 もっと早く自身の気持ちに気づけばよかった。
 ジーク様へ私の気持ちを告げられる事が出来ていたのならもしかしてジーク様は死なな……ってそれは多分変わらないよね。

 でもジーク様との関係はまた違ったものになっていたのかもしれない。


 辛い。
 辛いよぉ。
 ジーク様がいないだけでどうしてこんなに辛いの?

 世界は護ったのにどうして?

「ねぇジーク様答え、てよっ」

 お願い!!

 あ、そうよ。
 私の力は想いなのでしょ。
 願えば叶えられるのでしょ、だったら……。

『……無駄だ。死者を生き返らせる事は出来ぬ』

「トルテ、リーゼ?」

 青紫の靄の様なものがゆっくりとこちらへ向かっている。
 多分間違いなくあの靄はトルテリーゼの精神生命体。
 直ぐにでもトルテリーゼを、今度こそ完全に滅さなければいけないと思うのに――――。

『妾、ならばその身体を生かす事が出来ようぞ』

 その一言が胸に突き刺さってしまった。
 絶対に怪しいって頭ではわかっている。
 でも、でもジーク様がまた笑って下さるのなら、『エル』って呼んで下さるならって想いが過ってしまったの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。  ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。  夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。  夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。   愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?  国の事業に絡んだ政略結婚だから?  早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。 『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』 『この子はあのひとの娘です』  自分と結婚する前に、夫には子供が居た……    王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。  個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……     *****  ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。 ⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。   具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。   自衛をお願いいたします。  8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。  他サイトでも公開中です

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...