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終章   エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来

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「エル目を開けてごらんなさい」

「じーくさま?」

 何が起こったのかなんてわからなかった。
 何故なら私はギュッと固く瞳を閉じて強く願っていたのだもの。
 だからジーク様に促される様に瞳を開いてみれば――――⁉

「光、っている?」
「あぁこれは皆全て貴女から放たれたものですよ」

「……これ、が?」



 きらきら。
 
 本当にきらきらなの。
 視界いっぱいに入ってくるのはお星様が散りばめられた様な光景。

 空だけではないわ。

 辺り一帯、大地や大気なんて括りが最初からなかったかの様な大小様々な光の粒がある、わ。
 それらが単体で光りを放つのもあれば、互いにぶつかりそこからまた新たな光が弾け出すの。
 
 まるで光の洪水。

 この光の洪水が最初は私とジーク様の周りだけだったのが、少しずつ輪が広がる様に大きくなって何処までも広がっていく。
 そうしてこのイルクナーを覆っていた青紫の濃い瘴気がそれと共に少しずつ浄化され、視界がゆっくりとクリアになっていくの。

 また浄化されていくのと同時にほわほわと私の心は、身体が温かくなっていく。

 これで世界を護られたのかな。
 イルメントルートとエルネスティーネの願いは叶え……!?

『ぉおおおおおお……妾は断じて、認め、ぬ!! じょう、か等受け入れぬし、されて堪るものかっ!! わ、妾はっ、妾はまだ手に入れてはおらぬ!! 姉様を手に入れる為に妾はっ、長き時をかけて力を取り戻したのだっっ。だから妾はまだ諦めぬ!!』

「トルテリーゼ……」

 そう叫ぶトルテリーゼには先程まであっただろう肉体は存在しない。
 何故ならアーデルトラウトの肉体がないから……。

 渾身の力で私の肩へ噛みついた時に彼女の肉体は死を迎えたの。
 あの瘴気の濃い場所で既に朽ちていた肉体が生命活動を止めてしまえば、瘴気の餌食となり一瞬で塵と化す。

 だから今のトルテリーゼにはこの世界での器は存在しない。
 今は封印されていた小さな祠を取り巻く一番濃い瘴気を彼女の精神体が纏う様にして何とかその形を保っている。

 人形ではなく、靄の様なものでね。

 ただしその力は浄化されつつあるとは言えまだ未知数。

 とは言え精神生命体だけではこの世界へ長くは留まれない。
 今まではコリンナの肉体と言う器のまま封印されていたからこの世界に留まる事が出来た。
 そして解呪した時はアーデルトラウトの肉体を依り代としていた。
 でも今はその何れも存在しない。

 このまま浄化されていくのか、あるいは最後の攻撃へ転じるのか何てわからない。
 
 可能ならば……。


「っエル、大丈夫です。何があろうと貴女の御身は私が……っ、何があろうとも護ってみせます!!」

 嘘、嘘嘘嘘嘘……!?

 陽光が射し込んできた状態になって初めてジーク様へと振り返るれば、余りの事で言葉を発する事が出来なかった。

 同時にずっと隣にいて気付かなかった自分自身を責めた。

「何故、どうして……!?」

 出血と怪我の痛みでジーク様の顔色は悪いを通り越し、今はもう顔中に脂汗を滲ませても尚ジーク様のエメラルドグリーンの瞳は輝きを失ってはいない。
 瞳の輝きを失っていない事に安心したけれどううん、これって怪我をする前よりももっと輝きを放っていらっしゃるのってもしかしなくてもジーク様はマゾなのですか?

 以前読んだ物語のマゾっぽい人と似ておりますわよ。

「……ったく、ふぅ。状況が状況なので余り突っ込みませんがエル、貴女今良からぬ事を考えていたでしょう」

 あれ?
 何故に分かったのかしら。

「あ、い、べ……」

 否定をしようとしたけれど何もいい訳らしい言葉が思い浮かばない。
 それよりも今直ぐに治療をしなければ!!

「ふふ、少し貴女らしさが……戻ってきましたね」
「私……らしさ?」
「そう明るくて、無邪気で、天真爛漫、貴女を知れば、誰もが愛さずにはいられない」
「ほ、褒め過ぎです!!」

 優しいエメラルドグリーンの双眸で見つめられると可笑しいわね。
 なんだかとても所在なくと言うのか、胸の辺り……心臓がまたどきどきと高鳴ってしまう。
 おまけに頬が、ううん頬だけでなく身体中がじわじわと熱くなる。

 ジーク様へこんな気持ちを抱く事なんてなかったのに。

 でも何故かす、好きとか嫌いとか関係なくジーク様のエメラルドグリーンの瞳から逃れられない?

「全てが終わった、らでいいので、どうか私との事をゆっくり考えて、頂けません、か?」
「な、何を言って……」

 いやいや今は世界を懸けた最終決戦の筈。
 トルテリーゼはまだ消滅してはいないのにを私達っては一体何をしているの⁉

「ほんの少し、でいい。貴女の心の中に、私と言う男がいた事を、忘れ、ないで……」

 その言葉を最後にずるりとジーク様の身体はゆっくり崩れ落ちていく。

「じ……く様?」

 床に力なく横たわるジーク様の身体には何時の間にだろう。
 左胸が大きく貫かれ、おびただしい出血で床を、当然傍近くにいた私の足元も赤く染められていた。

「う……そ、嘘、嘘だよね? あ、あぁそうこれは夢よ。夢に違いないわ。然も悪夢決定よね。そうよ殺しても絶対に死なないジーク様が死ぬなん、て悪夢以外ない、でしょ? 前回はと言うのかアーデルトラウトとトルテリーゼの力によって捻じ曲げられた記憶の中で死んだのは私、だったのにっ、今度はジーク様って冗談も休み休みにして欲しいわ。ねぇもうジーク様、この様な質の悪い悪戯はもうお止めください。ほ、本当に早く目を覚まして下さらなければっ、ジーク様呼びからジークヴァルト様呼びへと、変、更しま、すから……っっ!!」

 ゆさゆさとジーク様の大きなお身体を震える両手で必死に揺らした。

「ジーク様起きて下さい!!」

「ジ、ク様お願い起きて!!」

「おね、がいだからっ、ねぇ目を開け、てよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


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