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終章   エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来

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 ほわ、ほわする。
 
 身体の中からほわほわと心地の良い温かさを感じるわ。
 あの纏わりつく様で冷たくねっとりとしたものがじわじわと身体の内部へ沁み込んでいく状態が堪らなく嫌だった。
 物凄く嫌なのに自分ではどうしようも出来なくて、身体の力もと言うのか元気もなくなって思考がどんどん悪い方向へ行っていたと言うのによ。

 今はその反対なの。

 強く願った瞬間、まるで春の陽だまりの中にいるように感じられたの。
 萎んでいた気持ちも急上昇して今は元気いっぱい。

 何より心だけでなく身体が軽い!!

 噛まれた右肩も痛くはない。
 
「エル、もう大丈夫ですね」
「はいジーク様。直ぐにジーク様の傷の手当ても……」

『ぅっ、おぉぉぉぉおおおおおおおお⁉ 何なのだこの力は一体!? 妾、の力が跳ね返されたのか?』

 
 黒闇の闇で作り出されていたトルテリーゼが戸惑いそして苦しんで、いる?
 
 出て行ってほしいと願ったけれど、その願いの何処にトルテリーゼが苦しむのだろう。
 
『おおおおおおおおおおおおおお』 

 これは確実に苦しんでいる。

 その証拠に私達のいるこの黒闇の闇に覆いつくされた空間がゆらゆらと大きく波打ち始める。
 ぽたりぽたりと落ちていた雫も今では空間の揺れに倣ってぶんぶんと勢いをつけてあちこちへ飛んでいく。
 これはこれで非常に危ない。


「エルこちらへ!!」
「で、でも先にジーク様の手当てを!!」
「俺の事はどうでもいい。今は目の前の敵に集中しましょう」
「でも……」

 ジーク様の仰る事は理解できる。
 世界を護る為にはそれが正しいとわかっている。
 だけどジーク様の怪我がとても気掛かりで、貫かれた所より出血が止まる様子はないどころかどくどくと流れているのよ!!

 この状態を放置してはいけないって言うのは子供でも分かる。

「せめて応急処置をしましょう。と伝手リーゼが苦しんでいる今ならその時間はあるは――――」
「苦しんでいる今だからこそです。この機を逃さず畳みかけるのです」

 わかっている。
 わかっているのに何だろうこの不安な気持ち。
 ジーク様は正しい。
 
「大丈夫ですエル。俺は何があろうと貴女から離れはしません。だから安心して攻撃へ集中して下さい」

 あちこちから血を流し痛くて堪らない筈なのにどうして、優しくこんな風に微笑まれたらもう何も言えない。

 なら私の取るべき道は一つ。

 一分一秒でも早くトルテリーゼを滅しなきゃ。

「わかり、ました。で、でも闘いが終われば絶対に治療しましょうね」
「はい勿論ですエル」
「……ず、ずっと傍に、いて、下さい、ねって言うか、この闘い限定です!!」

 そうよ、だって一人でトルテリーゼに立ち向かうのは怖いのだもの。
 こ、これは必要不可欠な事であってそ、その深い意味では……!?

「ふふ、了解ですエル」

 一瞬驚いた表情を成されたジーク様。
 でもその一瞬後ふわっと柔らかで、とても嬉しそうに破顔一笑されたの。
 
 どきどきが止まらない。
 発熱した時の様に顔が何やら熱い?

「おや、顔が真っ赤ですよエル」

「き、ジーク様の目の錯覚です!!」
「ふふ、そうですね、今だけは錯覚と言う事にしましょう」

 何かその物言いにムカつく。
 でも同時に楽しくて嬉し、い。

 こんな時なのに私はとても幸せに感じていた。
 その幸せな気持ちを沢山心に込めて願ったの。

 私の愛する世界を護りたい。
 どうかこの世界を護って!!
 

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