【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki

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終章   エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来

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 この千年もの長き時間の中でただの一度として考える事はなかった。

 母イルメントルートの成しえなかった最大の禍根を娘であるエルネスティーネが何時の日か、私と母の力に耐え得る事の出来る肉体を持つ娘の誕生だけを一日千秋の想いでこいねがった。

 そう全てはこの世界の、引いては祖母神であられる混沌の母と祖父の大神により生み出されているであろう様々な世界を護る為と言う大義。

 イルメントルートの最初の娘として誕生した私は言わば人間との混血。
 確かに神の力は弟よりも多くを受け継いではいた。

 だがそれだけ。
 どの様に力を受け継ごうとも所詮私は神ではない。
 私は母の愛し愛しんだこの世界の住人の一人でしかない。
 また同時に幾ら母の力を受け継ごうとも封じられたトルテリーゼに私自身が敵う事はないと、封印の祈りを捧げる際に小さな祠へ赴いた時に僅かながらに漏れ出る彼の者の気を感じ取り察してしまったのだ。

 小さき祠へ封じられているとは言えトルテリーゼは母と同じ神なのだと!!
 
 半神半人の私と全く異なる存在。
 また私がトルテリーゼに対する劣情を抱いている事をトルテリーゼは知っている。
 祈りを捧げる私へ憐憫に似た情……馬鹿なっ、個々の感情や様々なるしがらみを超越した精神体こそが神なのだ。
 母は先の戦いにより神としての生を終え、父オズヴァルトの妻となる事で新たなる人間として様々なる感情が芽生えたと聞いた。

 確かに神としての名残なのであろう。
 我が母イルメントルートの感情表現は一種独特とも言える。
 そして娘の私はやはり母に似て弟に比べ感情を表現する事が苦手だ。

 話が逸れた。
 トルテリーゼは母と同じ神。
 だから憐憫と言った感情は普通に持ち合わせてはいない……筈。
 しかし祠より放たれるものは確かに無力な私を憐れむと言った感情。

 悔しい、封じられた者にまで同情される程に私と言う存在は脆弱……なのか。

 あぁじわじわとトルテリーゼに侵食され、私の心は何処までも重く、そして黒く染まりながら深淵の底へと向かって更に堕ちていく。


 トルテリーゼの闇の影響なのであろうか。
 良くない事ばかりを考えてしまう。

 いや、これらは何れも真実。

 遠い昔私自身が心の中で蓋をした想い。
 トルテリーゼの指摘通り千年後に誕生したエルネスティーネの輝かしい未来を奪う現実を突きつけているのは他の誰でもない私なのだ。
 
 千年前より脆弱な心故に千年もの時を経て今エルに惨い現実を突きつけている私は、トルテリーゼよりも罰せられるべきなのだ。
 
 そうこのまま私の意識と言う名の記憶が消失してしまえばエルは普通の娘として生きて行ける……筈。

 私さえ消えれば……エル、許してくれとは言えない。
 
 このまま私は目覚めた記憶と共に消えるからどうかエル、そなただけは幸せ……。

『ふざけないで!!』
『エルネスティーネええええええええええええええええ』



 昏い、黒闇の闇の中。
 深淵の底よりも尚昏い闇の底。

 光なんてものは到底届く筈もなく、私の意識の大半はトルテリーゼの闇に呑み込まれていたと思う。
 
 トルテリーゼの力なのか若しくは今更ながらに自らの脆弱さを気づいただけではない。
 我が血を受け継ぐエルへその重責を負わせてしまった事に対しての罪悪感もあるだろう。
 兎に角私はトルテリーゼの闇の力に取り込まれつつもそれへと同調し自己憐憫に耽っていた。

 そう本来の目的も忘れこのまま闇の中で埋没しようとした刹那、目の前に射し込んできた眩い一条の光と共に相変わらず元気のよいエルの怒った声に……。


 私は何時までも貴女のものですよ。
 また貴女は何時までも私のものです。

 私達は二人で一つ。

 忘れないで下さいよ。
 次にまた出逢う時は少しだけ、えぇ今よりも男らしくなりましょうかねぇ。


 ああ……ト!!
 
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