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終章 エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来
13 Sideジーク
しおりを挟む『力になるとは言え本当に微々たるものなのですがね。多分私はこの時の為に……でしょうね』
声の主は相変わらず姿を見せる事はない。
俺の身体へ直接語り掛けるこの口調、妙に馴れ馴れしい話し方も最初は苛つきもしたのだが今は普通に受け入れて入れている。
だが軽い口調話し掛ける一方で何処か寂し気に感じてしまうのは俺の気の所為なのか。
いや、今はそれよりもエルの元へ急がなければ!!
「転移が出来るのであれば是が非ともお願いしたい。どうか俺をエルの許へ送って欲しい」
はっきり言って正体不明。
味方なのか敵であるのかさえも判断出来てはいない。
『おや、警戒はもういいのですか?』
「俺自身に対しての警戒よりも先ず俺はエルの許へ行く事を選ぶ」
そう譬えここで刺されようともだ。
這いずりながらでもエル、貴女の許へ駆けつける。
『ふ、いいでしょうどうかご安心を。ジークヴァルト、貴方をエルネスティーネの許へ送り届けますよ』
「有り難い!!」
これで直ぐにでもエルの許へ駆け付け護る事が出来る。
『では早速、事は急いております故に』
「あぁお願いする」
馬上にあった俺の身体は一瞬にして眩い光へと包まれ――――。
『どうか私の大切な姉でありエルネスティーネであったあの御方の魂を受け継ぎ、我が母イルメントルートの魂と力を受け継いだ貴方の大切なエルネスティーネを護って下さい』
光に包まれたと同時に心へと響く優しくも切ない願い。
「…………」
俺は声の主へと何かを話し掛けようと試みるけれど、何故なのか言葉を発する事が出来ない。
『いいですか、よく聞いて下さいね。貴方のエルは……』
時間にしてほんの一瞬。
だがその与えられる情報量は千年分。
いや、それ以上か。
俄かには信じられないと言うのか、とてもではないが受け入れ難い内容ばかり。
でも何故か自然と、素直に納得も出来た。
そして恐らくこの内容をまだたった9歳の幼いエルは既に理解し受け入れているからこそ、一人でトルテリーゼの元へ向かったのだろう。
その事を思うと俺は胸が痛む。
まさか夢物語だと思っていた神が存在したのも驚きだが、大厄災を招いたとされる大魔女が実在しただけでなく、大魔女ではなく闇落ちした神で然も現在イルクナーで封印されている。
またその封印を解く一端を担っていたのが友人であり相棒のアーデルだと言う事実に驚愕を覚えた。
いやそれだけではない。
記憶の何処かで常に感じていたアーデルへ抱く不可解且つ理解し難い感情……ではないな。
俺自身はアーデルに対し恋情を抱いた事はない。
だがエルを想う度に何時も心の何処かでアーデルの影を感じていた理由も、これで漸く理解が出来たのやもしれないな。
ただアーデル自身が何を想い誰を愛そうとも俺には関係はない。
俺が愛するのはこの世でただ一人エルネスティーネだけ!!
それ以上でも以下でもない。
この気持ちだけは誰にも譲らないし譲る心算等毛頭ない。
『良かった。私のこの選択は間違ってはいないようですね』
心より安堵したかの様に吐き出された吐息。
「待ってくれ、貴方は一体どうして俺を……」
少しずつ遠くなっていく声に俺は振り向いたと思う。
そしてその声を追い掛けようとした。
『駄目ですよ。ここより先は生者が踏み入れてはならない』
「生……者?」
少し寂しそうな声。
『そう貴方は生者。そして私は……既に生を手放せし者』
だからなのか。
声の主からは生きている人間にある筈の生活音や気配と言うものが一切感じられなかった。
「では貴方は一体……」
『うーん困りましたねぇ、出来れば内緒と言う事で謎の人物と言う登場で済ませたかったのですが……』
何故ここでその様なふざけた事を……って?
『気が付きました? いや~自分でもまさかの驚きですよ。でも私自身の願望の強さの表れなのかもしれない』
貴方は何時もヘラヘラしてばっかり。
少しは男らしくなればいいのに……。
不意に閉ざされていた記憶の蓋が開かれる。
今度、えぇ今度生まれ変わってまた貴女と出逢う時は少しでも男らしく、そうですね……お姫様を護る騎士にでもなりま、しょうか。
私の愛するエル、エルネスティーネ。
私の愛しき妻……。
前世の記憶の封印が解かれるのと同時に心の中がぶわっと熱くなる。
記憶の蓋が開かれると同時に溢れ返る想い。
「こ、これは……⁉」
『これで貴方もイルメントルートの息子として、ほんの少しですが神としての力が解放されましたよ』
「俺、が神の力……!?」
『さぁタイムリミットです。どうか私達の大切なエルを今度こそ護り抜いて下さい。そして今、この時代を生きるエルネスティーネと幸せに生きて下さいね』
目的地へ到着したのだろう。
俺を包む光は少しずつ霧散していく。
それと同時に俺を笑顔で見送るヘルムートが笑顔で立っていた。
母親譲りの赤毛交じりの金色の流れる様な髪に、父王オズヴァルト譲りの紺碧の海を思わせる青い瞳を持つ長身痩躯の姿。
ああ忘れようとも忘れられない。
エルネスティーネの兄であり、また夫として彼女を護り死んだ過去の俺だ。
「絶対にエルネスティーネを、エルをこの命を賭しても助けてみせるよ」
だから死んで迄出てくるな。
俺は光の示す方へ向かって歩き出す。
今度こそトルテリーゼお前を滅しなければいけない。
エルの為。
そして世界の安寧の為に――――。
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