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終章 エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来
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しおりを挟むアーデル一人の罪でないのは明らか。
千年もの間イルクナーに住まう者達はそれぞれに少しずつ、きっと本人達の自覚もないままに他の土地よりも祝福の恩恵を受けた奢りがあったのね。
また最初のイルクナーの者達の様に何時までも清廉な心を持っていれば、この地は今この様な変貌を遂げてはいなかった。
長い年月を掛けて少しずつ、まるで呼吸をするかの様に傲慢になっていく者達の心の中へトルテリーゼは息を殺し密やかに忍び込んでいたのね。
歴代の魂の欠片を持つ金と銀の聖女達へ気づかれない様に……。
「こ、ここ、まで、漸……くここ、まで来た、のだ」
ほんの少しかもしれない。
痛みが和らいだのかまたのろのろと起き上がると、アーデルはゆっくりと腐敗した身体を重怠げに引き摺る様な動作で確実に一歩ずつ私へ向かって歩みを進める。
「もう動かないで。トルテリーゼは私が必ず滅するから、だから――――⁉」
私はただもう間もなく死に逝く彼女の心を宥めようと思った。
純粋に可哀想だと思ったの。
それと同時に自分の至らなさを責める。
もっとこの地を、もっと早く力を溜めてトルテリーゼを滅すればよかった。
百年毎の封印で事足りると、時間が掛かっても大丈夫だと思い込んでいた自身の慢心に反吐が出る。
これは長く人間として生きてしまった事の罪……なのだろうか。
人間としてあり得ない姿になり果てたアーデルを見る度に、私は今考えるべきではない事をつらつらと考えそして猛省する。
ここへ赴く際心に一分の隙も作らないと、トルテリーゼの闇の力は精神への干渉を得意としている。
私自身神として精神的な部分を多く占める者にしてみれば、トルテリーゼの闇の力は脅威でしかない。
なのに私はほんの一瞬、アーデルへ同情した事によりその隙を作ってしまった。
『ふふ、貴女は昔から脆弱なる者へとても優しかった』
その刹那心へ直接語り掛けてくる声は紛れもなくトルテリーゼのもの。
また目の前に、突如視界へ飛び込んできたのはアーデル。
今し方の様な覚束ない足取りではなく、俊敏に動く様は現役の騎士以上の身体能力。
でも腐敗した肉体である事に変わりはない。
無理な動きをした為にアーデルの右腕は肩の付け根より引き千切れ、ボトリと重い音と共に落ちてしまった。
左の腕も最早時間の問題と言った感じで肘より下はぷら~んと皮一枚で垂れ下がっている。
肉体はもう限界に達している。
アーデルの死は目前。
なのにどうして彼女はこの様な動きを――――⁉
「やっと、だわ。これ、で私は……なれ、る!!」
「な、に?」
一体何になれると言うの?
意味が分からない。
私は訳が分からないと言った具合に戸惑えば、朽ちている身体で精一杯の、恐らくこれは心よりアーデルは妖艶な笑みを湛えると――――……っ⁉
がぶり
「きゃああああああああああ」
頭部に思い切り勢いをつけアーデルは笑みを湛えたまま私の右肩へ強く嚙みついた。
噛みつかれた右肩より全身へと突き刺さる痛みと衝撃が走る。
人間の歯とは到底思えない、まるで肉食獣の持つ鋭い牙の様なものがぶすりと突き刺さる、それに酷似した感覚。
どさり
その勢いでアーデルの首より下の肉体は地面へと崩れ落ちていく。
アーデルの頭だけが私の右肩へきつく噛み付いたまま離れようとはしない。
次の瞬間齧り付かれた右の肩よりとろりと粘着性のある何かが、同時に真冬の氷河の底よりも冷たいものが私の身体の中へと、流れ込んで……きた、わ。
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