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終章 エルネスティーネ、彼女の選んだ決断と未来
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しおりを挟む私は九年前キルヒホフ侯爵家息女、エルネスティーネ・イザベラ・イェーリスとしてこの世へ誕生した。
ただ私は普通の、何処にでもいる9歳児ではない。
ほんの数ヶ月前までは時間が巻き戻ったとか、未来は婚約者にこっ酷く裏切られた可哀想な令嬢となる。
だからもし夢ではなく本当に時間が巻き戻ったのであれば今度は絶対に同じ轍は踏まず、この馬鹿げた婚約を何とか回避した後は、自由で自分らしい人生を送ってみせると誓っていたわね。
でもそれこそがよ。
この普通にあり得ないだろう体験こそがトルテリーゼの功名な罠だったのだと爪先程にも気づかなかったわ。
まさか誕生と同時に次元と時間軸を歪ませていただなんて、流石に記憶を全て取り戻すまで気づけない。
心が歪んでしまったトルテリーゼらしく、歪んだ空間と時間軸によって誕生したばかりの無垢な私は記憶だけでなく、彼女の望む疑似体験をさせられてしまった。
きっと今回も現状を嘆き自身の望みを渇望し、それでも劣情を抱いてしまう様な者を前回同様その肉体と心を最大限に利用したのでしょうね。
本当に醜悪で趣味の悪い行い。
いえ、千年という時間によって更に磨きがかかったのかしら。
ともあれ私はその悪趣味な罠にまんまと引っ掛かってしまった。
まぁ何時までもそんな事を考えても建設的ではないし、それにトルテリーゼの罠へと引き摺り込まれたのは何も私一人だけではないわ。
そうもう一人……ジークヴァルト様だ。
ただ彼は私程ではないにしても色々な意味合いで引き摺り込まれたと言うのか、はっきり言って被害者……よね。
歪めらた偽装空間で精神体だけとは言え、普通の人間が精神崩壊もせずによく持ち堪えたもの。
あの精神共に胆力は称賛ものだわ。
ただしひと時とは言え悪意に満ちた偽装空間の中で脆弱な存在である人間へ、何の代償もない訳はない筈。
今はまだ、これより先ジークヴァルト様の身体若しくは精神に何らかの異常はきたすかもしれない。
叶う事ならば一人の人間として、これより先どうか平和で幸せな人生を送って貰いたい。
神々の、はっきり言って一方的に仕掛けられた愚かな諍いによって護られるべき対象である人間が巻き込まれるだなんてあってはならないものだもの。
そう今の私はエルネスティーネと言う一人の人間ではない。
女神と人間の混血として最初に生まれたエルネスティーネの記憶と、女神の力を色濃く受け継いだ力を記憶と一緒に取り戻した。
また母であるイルメントルートの記憶と魂に、母の影と呼ばれし者達によるお母様の力の残影もこの身に受け入れる事が出来た。
今の私は人間でありながら神の力を有する存在。
これこそ母イルメントルートが長き時間を掛け、密やかにそして粛々と行っていたもの。
最盛期のイルメントルートよりも強大な力を宿した私の使命は勿論、全ての元凶であるトルテリーゼとトルテリーゼの贄となった人間の魂ごとを滅しなければいけない。
私の全生命と力を懸けて封じるのではなく、今度こそ完全に滅する。
その為に私はこの世界へ誕生した。
悔いはない。
何故なら私がエルネスティーネである限りこうなる事を自ら望んでいるのですもの。
だから私は毅然とした態度で前へと進む。
「「「エル!!」」」
「ただいま戻りましたエーベルお兄様にラインお兄様、そしてジークヴァルト様」
私は彼らの許へ戻れば笑顔で声を掛ける。
「心配したよエル」
「心配……した」
「もう一人で行動はしないで下さいエル」
胸の中が何とも言えずじんわりと温かくなる。
あぁ私は今生においてもとても愛されている。
多幸感にも似た想いを感じると同時に胸の、心の奥でチクリと痛みが走る。
場合によっては私は彼らを、ジークヴァルト様を悲しませてしまうのかもしれない。
出来ればこれ以上辛い思いをさせたくはない。
はぁ何とも悩ましい問題……だわ。
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