105 / 140
第五章 忘れられし過去の記憶
16
しおりを挟む結論から言えば勝利を得たのは妾である。
ただし辛勝。
その言葉通り辛うじて若しくは未来へ引き延ばしたのやもしれぬ。
己が身の内に秘めし力を限界まで練り上げ、その力で以って相手を封じる。
それこそが神々の戦い――――。
先ずオズを含め神以外の生命体には何が起こっているのかすらわからぬだろう。
空高く彼らへ影響が及ばぬ様にと配慮をしたのだが、結果は酷い有様……だったわ。
そう思い出した。
全てを思い出したわ。
私はエルネスティーネの心と肉体を以ってこの世へ誕生した女神イルメントルートの最期の魂の欠片であり希望。
お母様やお祖母様、曽お祖母様にその前の……このファーベルク王国が建国されてより誕生した女児の魂と共にイルメントルートの魂の欠片は常にこの世界の安寧と平和を願っていた。
トルテリーゼの力を何とか封じると共に、彼女によって肉体を奪われてしまった乙女と共にあの場所へ封じたの。
それを行うだけで精一杯だった。
抵抗するリーゼを何とか封じめようとする最中も、彼女は出来得る限りの抵抗を示した。
その抵抗が昔語りで伝えられていた大災厄。
リーゼの闇の力は凄まじかった。
私の女神としての力を吸い取るだけでなく、精神体としての私を自らの身の内へ吸収しようとしてきたわ。
勿論私は必死に抵抗しつつ何とかリーゼの力を抑え込もうと必死だった。
リーゼはその隙を突いて闇の、負の力を目に見えないくらい……簡単に言えば鱗粉の様にこの世界中へと飛散させた。
流石にそこまで細かく飛散させられれば如何に私が女神だとしてもそれら全てを回収する事は不可能。
また私自身それらを身の内へ取り込めば、リーゼの闇の力が私の身の内で増殖すれば私は内側より彼女に吸収されてしまう。
ただ脆弱なる存在達はリーゼが飛散させた鱗粉サイズの闇の力何てものを見る事は出来ない。
神である私だったからこそ視認出来たのだもの。
だから彼らは知らず知らずその身の内へと闇の力を取り込めば、次から次へと病へ侵され命を失ってしまった。
一人二人ではなく数え切れない数の人間や動植物達の命が失われていったの。
海は黒く濁れば海中に住む生命体達は死するしかなかった。
大地もよ。
多くの植物は枯れ、病と食糧難に飲み水までもが侵されてしまった。
私の世界を取り巻く大気ですら闇の力で汚染されてしまった。
渾身の力を使いトルテリーゼを封印した私は女神として最早不完全だった。
力を限界まで行使しただけでなく、リーゼの持つ闇の力で私自身も無傷では済まなかったの。
満身創痍。
でもまだ完全に女神としての力は失われてはいない。
私は最期の力を振り絞りこの世界を出来得る限り浄化したわ。
紺碧に輝く海と緑なす大地、懇々と清水を湧き出す泉に海へと向かって流れる川の全てを浄化したわ。
病に苦しむ人間や動物達も無事に回復したわね。
ただ一度失われてしまった命だけは女神と言えど復活させる事は出来ないし許されはしない。
そうしてほぼほぼ人間と同じくらい脆弱な存在になってしまった私はオズと夫婦になったの。
不老不死ではなくなり残りの寿命は人間と同じ時しか生きられなくなった私を、オズは喜んで受け入れてくれたわ。
少し複雑な気分だったけれど、でも人間として生きてみればまた違った幸せを感じる事が出来たの。
勿論不便な事は沢山あったわ。
先ずしっかりと肉体と魂を定着させれば私自身の身体が重いと感じたの。
今まで重さなんて感じた事もなかったのにね。
然もオズが無体を働いた翌日なんて指先一つ動かす事も何て億劫なのって思ったものよ。
その時ばかりはオズを随分と恨めしく思ったわね。
それと同時に泣きたいくらいに幸せだった事も……。
何れも神として生きていれば恐らく何一つ知り得なかった感情と体験だったわ。
23
お気に入りに追加
2,678
あなたにおすすめの小説
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる