【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki

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第五章  忘れられし過去の記憶

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 結論から言えば勝利を得たのは妾である。

 ただし辛勝しんしょう
 その言葉通り若しくはのやもしれぬ。

 己が身の内に秘めし力を限界まで練り上げ、その力で以って相手を封じる。

 それこそが神々の戦い――――。


 先ずオズを含め神以外の生命体には何が起こっているのかすらわからぬだろう。
 空高く彼らへ影響が及ばぬ様にと配慮をしたのだが、結果は酷い有様……だったわ。

 


 そう思い出した。
 全てを思い出したわ。
 
 私はエルネスティーネの心と肉体を以ってこの世へ誕生した女神イルメントルートの

 お母様やお祖母様、曽お祖母様にその前の……このファーベルク王国が建国されてより誕生した女児の魂と共にイルメントルートの魂の欠片は常にこの世界の安寧と平和を願っていた。

 トルテリーゼの力を何とか封じると共に、彼女によって肉体を奪われてしまった乙女と共にあの場所へ封じたの。

 それを行うだけで精一杯だった。
 抵抗するリーゼを何とか封じめようとする最中も、彼女は出来得る限りの抵抗を示した。
 その抵抗が昔語りで伝えられていた大災厄。

 リーゼの闇の力は凄まじかった。
 私の女神としての力を吸い取るだけでなく、精神体としての私を自らの身の内へ吸収しようとしてきたわ。
 勿論私は必死に抵抗しつつ何とかリーゼの力を抑え込もうと必死だった。
 リーゼはその隙を突いて闇の、負の力を目に見えないくらい……簡単に言えば鱗粉の様にこの世界中へと飛散させた。

 流石にそこまで細かく飛散させられれば如何に私が女神だとしてもそれら全てを回収する事は不可能。
 また私自身それらを身の内へ取り込めば、リーゼの闇の力が私の身の内で増殖すれば私は内側より彼女に吸収されてしまう。

 ただ脆弱なる存在達はリーゼが飛散させた鱗粉サイズの闇の力何てものを見る事は出来ない。
 神である私だったからこそ視認出来たのだもの。
 だから彼らは知らず知らずその身の内へと闇の力を取り込めば、次から次へと病へ侵され命を失ってしまった。

 一人二人ではなく数え切れない数の人間や動植物達の命が失われていったの。


 海は黒く濁れば海中に住む生命体達は死するしかなかった。

 大地もよ。
 多くの植物は枯れ、病と食糧難に飲み水までもが侵されてしまった。

 私の世界を取り巻く大気ですら闇の力で汚染されてしまった。

 渾身の力を使いトルテリーゼを封印した私は女神として最早不完全だった。
 力を限界まで行使しただけでなく、リーゼの持つ闇の力で私自身も無傷では済まなかったの。
 
 満身創痍。

 でもまだ完全に女神としての力は失われてはいない。
 私は最期の力を振り絞りこの世界を出来得る限り浄化したわ。

 紺碧に輝く海と緑なす大地、懇々と清水を湧き出す泉に海へと向かって流れる川の全てを浄化したわ。
 病に苦しむ人間や動物達も無事に回復したわね。

 ただ一度失われてしまった命だけは女神と言えど復活させる事は出来ないし許されはしない。

 そうしてほぼほぼ人間と同じくらい脆弱な存在になってしまった私はオズと夫婦になったの。

 不老不死ではなくなり残りの寿命は人間と同じ時しか生きられなくなった私を、オズは喜んで受け入れてくれたわ。
 少し複雑な気分だったけれど、でも人間として生きてみればまた違った幸せを感じる事が出来たの。

 勿論不便な事は沢山あったわ。
 先ずしっかりと肉体と魂を定着させれば私自身の身体が重いと感じたの。
 今まで重さなんて感じた事もなかったのにね。

 然もオズが無体を働いた翌日なんて指先一つ動かす事も何て億劫なのって思ったものよ。

 その時ばかりはオズを随分と恨めしく思ったわね。
 それと同時に泣きたいくらいに幸せだった事も……。

 何れも神として生きていれば恐らく何一つ知り得なかった感情と体験だったわ。
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