上 下
104 / 140
第五章  忘れられし過去の記憶

15

しおりを挟む


 決着をつけると決めたものの先ず神である妾とリーゼは人間達の様に武器を用いての戦いはしない。
 
 また感情のままに争う行為程低俗なものはない。
 妾達神と呼ばれし一族は人間や他の生命体より優れたる存在。
 
 全ての者より超越した存在、至高なる者が神なのである。

 抑々妾達には感情となるものが存在しない。
 リーゼの、妾を慕うてくれる想いが異質であり新鮮だったのだ。
 故に妾自身もリーゼを寵愛したのやもしれぬ。


「決着? お姉様は私を滅すると仰るのですか。実の妹でありイルメントルート、貴女の唯一の半身である私を滅すると?」

 信じられないと、リーゼはふるふるとかぶりを左右に振る。
 だが同時に自信に満ちた意志の強い瞳で以って妾を見据えるのだ。

 妾にリーゼを滅する事は出来ぬ……とな。


 随分と侮られたものだ。
 成体へと進化を遂げたばかりのリーゼに侮られる様な弱き存在ではない。
 確かに大姉様や大兄様方の様な母と父に次ぐ力を妾は有してはいない。
 抑々神々の中で争い等起こりようもなかったのだ。

 つい最近までは……な。

 故にお互いの力量と言うものすら関心がない。
 また神の力に強弱は関係はない。
 父より託されし世界を清く正しく導き育てる事こそが妾達神の生きる意味なのだから……。


 しかし今その平和は目の前にいるリーゼによって破壊されてしまったのだろう。
 正直に言えば神界の現状が気にならない訳でもない。
 神界にいただろう母と父、多くの兄弟神の安否が気になる。
 とは申せ闇を纏うリーゼがここにいると言う現実が全てを物語ってもいる。

 恐らく誰もリーゼを止める事は不可能だったのだと――――。

 これは本気を出さなければ妾だけでなく妾の世界、いやありとあらゆる全てが虚無へといざなわれる。
 
 妾の命を対価に果たして何処までリーゼを滅する事が出来るのか。
 譬え滅する事が出来なくともだ。
 妾の全てを懸けてでもリーゼの力を封じそうして未来へ、リーゼを滅する者が現れるまでの時間稼ぎをしなければいけない!!


「お姉様、とても怖いお顔をなさっておいでですわ」
「それをそなたが申すのか」

「どうかご安心を。私は貴女を決して滅しはしない。愛しき存在なのですもの。だから少しだけ大人しく、えぇ貴女の目の前で全てが終わるまで静かにして頂くだけですわ」
「戯けた事を申すのも大概にしろリーゼ。観念をするのはそなたの方ぞ」

 そうしてお互いに、ほぼ同時に大地を蹴れば空高く昇っていく。

 あの場で気を練り上げる事も出来たのだがしかし傍にはオズがいた。
 二柱同時に気を練り上げれば問答無用でその場にいるだろう者達は一瞬にして死してしまうだろう。
 地上にいるオズがゴマ粒の様に見えるくらい高く飛翔したこの場所ならば、それでも多少の被害はあるやもしれぬが先ず死する事はないだろう。

「本当にあの様な屑に御心を傾ける等あってはなりませんわ」

 私が今直ぐ目を覚まさせて見せます……とリーゼが自身の気を練り上げていく。

「余り姉を見縊みくびるではないぞ」

 そう妾は何としてもだ。
 妾の生命を賭してでもオズとこの世界を護ってみせる!!

 こうして妾とリーゼの生死を賭けた戦い……と言うものが始まったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。  ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。  夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。  夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。   愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?  国の事業に絡んだ政略結婚だから?  早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。 『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』 『この子はあのひとの娘です』  自分と結婚する前に、夫には子供が居た……    王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。  個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……     *****  ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。 ⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。   具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。   自衛をお願いいたします。  8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。  他サイトでも公開中です

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...