103 / 140
第五章 忘れられし過去の記憶
14
しおりを挟む狂って……いる、のか。
ケタケタと嗤うその姿が最早異形でしかない。
怖い……と素直に思った。
それは大神である父と混沌の母へ抱く畏怖や畏敬とは同じ様でいて全く異なったもの。
恐怖や怖れと言ったものを遥かに凌駕する感情。
言葉で言い表す事の出来ない全てを超越した――――無を志す者と言う存在なのか?
「恐れる事はありませんお姉……いえ、妾が半身イルメントルート。妾はまだ無としては未熟なる存在。一刻も早く完全なる者となる為にここへ来たのです。イルメントルート、貴女の煩悩の源でもあるこの世界を無へと帰す事で貴女の心を有なるものより無へと変えていきましょう」
「な……⁉」
煩悩とは失礼な!!
妾の想いの全てと申し直せ!!
「妾の半身よ何も恐れる事はない。さぁ妾の手を取り、精神体と言う概念を捨て一つとなるのです」
狂っているのかと思えばだ。
あたかも至極当然の様に言ってのける。
まるで妾の考えやあらゆるものの存在全てが悪であるのだと、その思考までも塗り替えられそうに……。
「しっかりしろルル!! お前が喰われてどうする。俺が喰う前に他の者に喰われるんじゃない!!」
「な、なな何を申して!?」
チッと悔しそうな舌打ちの音がリーゼより漏れ聞こえた。
どうやらオズの阿呆な一言により妾は寸でのところで助かったようだな。
「お黙りなさい屑にも劣る脆弱なる人の子よ」
リーゼは右手を前へと突き出せば、そのまま何かを掴む動作をしたと同時に――――⁉
「うぐぅぅぅぅぅぅ!!」
「止めよリーゼ!!」
オズの左肩……衣服を着ておる故に普通には見えぬが、恐らく呪は紋様と成し確実に奴の身体を蝕んでおる。
その証拠に今のリーゼの攻撃により紋様は下は掌へ、上は顎まで一気に広がってしまった。
猶予はない。
速やかにリーゼを取り押さえ解呪を施さなければオズは死……ぬのか?
あの憎まれ口しか叩かぬ阿呆な男が死ぬ。
妾の手の届かぬ所へ、そうなれば何時もの様に会う事も出来なくな……。
オズがこの世界よりいなくなる、ただそれだけの事が妾にはどうしても受け入れ難かった。
これまで気の遠くなる時間の中で生命体は数え切れない生と死を繰り返してきた。
今この瞬間まで妾はその事を普通に理であるのだと自然に受け入れておった。
ましてそこに一切の疑問すら抱いた事すらもなかったのにだ。
なのにどうしてオズだけが受け入れ難い?
オズと他の生命体の一体何が違う。
わからぬ、妾には全くわからぬ。
ただわかっておる事はオズを失いたくはない!!
その為ならば妾は――――。
「決着を付けようリーゼ。だが妾はそなたと一つになる心算は毛頭ない」
現時点ではっきりしている事。
それは妾はリーゼの番ではない。
そしてリーゼそなたは今を以って妹に非ず。
我ら神々の敵ぞ!!
21
お気に入りに追加
2,698
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える
Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。
ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。
夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。
夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。
愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?
国の事業に絡んだ政略結婚だから?
早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。
『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』
『この子はあのひとの娘です』
自分と結婚する前に、夫には子供が居た……
王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。
個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……
*****
ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。
⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。
具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。
自衛をお願いいたします。
8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。
他サイトでも公開中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる