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第五章 忘れられし過去の記憶
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しおりを挟む蠱惑的な笑みを湛えたリーゼは己が真の姿へと変えていく。
アッシュブラウンの長い髪にオズと同じ紺碧の瞳を持ったコリンナと言う娘はもう何処にも存在してはいない。
妾達と話を、いや意見の交換なのか?
兎に角だ。
リーゼと話をしている間に少しずつコリンナの肉体はその内に潜むリーゼのものへと塗り替えられてしまった。
露わにしたのは青毛交じりの金色の艶やかで長く伸びる髪。
完全にあどけなさが消えてしまった金の瞳。
この場所にいるのは5歳児未満の子供ではなく、手足がすんなりと伸び切った色香を纏う成熟した女であった。
それが今では毒々しい鮮血の様に赤い毛の交じる青い髪。
金の瞳には血の様に赤い瞳孔。
纏う衣は漆黒よりも尚暗い黒闇の闇色。
恐らくこれ程に闇の色が似あう者はいないだろうと、不思議な事を思ってしまったのだが……。
「そなたは一体何者になったのだ。まさか邪神になった訳ではないな」
我ら神族の中で抑々邪神という概念はない。
それらは皆人間が勝手に描いた妄想。
神と言う存在は常に中立。
中立故に多くの生命体はその時々によって我ら神族を聖なる者若しくは邪なる者と勝手に区別をする。
何時の時も自分達にとって利となるものが善であり、害となるものは悪。
ほんに勝手で、身勝手な考え方だと思うておるのは今も変わらぬ。
これまでも多くの兄弟よりその様な話は聞いておった。
だからこそ妾も妾の世界において常に中立を貫いていた。
万人に好かれたいとは思ってはおらぬ故に、人間や動物達の思想へ制限は一切加えてはおらぬ。
まぁ偶に自分こそはこの世界で唯一絶対なる者と、己が世界の思想や思考へ一種の制限を植え付けている阿呆な兄妹もいなくはない。
だが度が過ぎたる者は何時の間にか淘汰されていた。
あぁそうだった。
妾も例外をつい最近作ってしまったな。
オズに対し妾は人間としてその姿を現しておったわ。
コホン、少し話が逸れたな。
そう言う訳で邪神なる者は存在しない。
だが目の前のリーゼは……。
「ふふ、確かに私は邪神ではありませんわ。でも私はあの日大切なる貴女に裏切られたと知り絶望してしまったのです。その絶望より生み出されし力は無。有よりも無は絶大なる力を持つのです。私は多くの神々を我が大いなる力でもって無へと帰せしました。さぁ今度は愛しいルルお姉様、貴女の番ですわ」
「リーゼそなた⁉」
「大丈夫ですわお姉様。安心して私へ、その愛しき御身をお委ね下さいませ。決して他の神々の様に無へ帰す訳ではないのです」
「では一体何をすると言うのだ」
嫌な予感しかしない。
熱に浮かされうっとりとした眼差しのまま甘く愛を語る様にリーゼは、そして歌う様に囁いた。
「私とルルお姉様は一つとなり全てを無にする虚無となるのです。混沌すらも存在しない完全なる無ですわ。あらゆる世界も全てを無へと帰するのです。それこそが私とお姉様の愛は唯一無二の至上なるものとなるです」
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