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第五章  忘れられし過去の記憶

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「ほぉこれが牢屋なるものか」

 これも初めて目にしたし、こうして入る事も出来たぞ。
 まさか僅か一日にしてこれ程色々なるものを体験するとは思わなかった。
 だが同時にこの様なもので妾を捕獲している心算なのか……とも思う。

 抑々この世界は妾の育みしもの。
 故に妾を害する事はない。
 妾が世界を害する事はあっても――――だがしかし妾はそれを善しとはしない。

 
 かちゃり


 ふむ珍しい体験故にしっかりと観察を行えばもうここに用はない。
 妾は閉じられた扉へそっと手を翳せば扉が開いていく。
 そうして妾はその場より立ち去った。
 



 ただ一度だけ、そう思うていたのにどうやら妾は思っていた以上自身の育みし世界へ興味を持っていたようだ。
 気づけば二度三度と当然の様に妾は世界の中へと入っていく。

「オスオスと呼ぶな!! 俺が動物にでもなった気分になる」
「ふむ、だが動物と人間、であろ。そこに余り大きな違いはないであろう。妾は別に差別等してはおらぬ。どちらも、おぉそうだ、この世界そのもの全てをを妾は愛しんでおる」

「はぁ、お前と話していると頭が可笑しくなると思うのは果たして俺だけなのか。取り敢えず俺の事はオスではなくと呼べ」

 頭を抱えつつ文句を垂れる人間の雄……いや、オズともこうして会うのは何度目であろう。
 最初こそは意見の食い違いもあり中々、今もなのか会話が思うように成立しない。

 だが妾の懐はこの世界の海よりも深い。
 オズの癇癪を受け入れる事は造作でもないぞ。
 そう妾が問題ではなくオズがわからず屋なだけなのだ。


 オズはこの辺り一帯を支配する部族の長。
 まだ人間としては若いけれどもオズには他の人間よりも秀でた力が備わっておった。
 外敵より仲間を護る力だけではなく、部族を纏め上げるカリスマ性を併せ持つ稀有な存在。
 この世界を育む者としては何とも頼もしい者と出会った事の奇跡、そしてこの世界は間違いなく真っ直ぐに育っていると実感する事が出来て妾は幸せを感じていた。
 
 ただ幸せと言うものは何時の世も長く続く事はない。

 幸せに頂点と言うものが存在するとすればだ。
 登り切った先は下るしかない。
 その下り方が垂直落下なのか、また緩やかに時間を掛けゆっくりと下っていくのかの何れかだ。

 妾にとって今が一番幸せだと思ってもいた。
 このままなだらかに、退屈を友として永遠に生きていくものだと思っていたのだが、神である妾ですら予想だにしなかった事が立て続けに起こる等とは想像だにしなかったのである。

 大きな悲しみとそれに勝る幸せによってまさか妾自身の生きる道を変えようとは……な。
 
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