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第四章  指し示される道

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 シュタ。

 トントンと目の前に出来上がったばかりの氷像へ、氷で覆われた化け物の身体の要所要所を軽やかに、ステップをするかの様に駆け上がられているのはエーベルお兄様。
 
 目も止まらぬ……と言う訳ではないけれど、それでもあっと言う間に氷像の頭の上へと辿り着いたわ。
 そうして化け物の頭を踏み台にした瞬間、思い切り高くジャンプをされたの。
 すると何時も背負われている大振りの大剣をすらりと抜刀されればよ。
 化け物の頭部へ渾身の力を込めて突き立てられたわ。


 ガキン!!

 ピシっ⁉


 大剣を突き立てられた所よりピシッ、ビシッと音と共に氷像は至る所へと大きいものから小さいものまでひびが入っていく。
 全身へひびが入る頃には上からガラガラと大きな音を立てて化け物だった氷像は崩れ落ちていく。
 崩れる瞬間私は飛び散る瓦礫が当たらない様にと、ジークヴァルト様に抱かれたままラインお兄様の背後へと移動していた。

「え、ちょっとこれは可笑しくない? 普通にジークは俺の部下だからさ、そこは俺へエルを託せばよ。お前が俺とエルの為に盾となるのが騎士としての正しい心構えなのではないかな」

 少しむすっとした物言いで文句を言いつつもラインお兄様は、左手で剣を握り飛んできた欠片と呼ぶには少し大きな塊をズサッ、ガキンと言う音と立てながら切り落とされている。
 
 まるで塊に八つ当たりしているみたいで、これはこれで少し面白い。

 でもラインお兄様の仰る事も当然なのよね。
 何と言ってもお兄様は王子様なのだもの。
 そしていい加減に私を地上へ降ろして下さいジークヴァルト様。

「おいライン、塊を全てこちらへ飛ばしてくるな」

 そう何気に、いや物凄く起用にラインお兄様ってば飛んできた塊のほぼ全てを木っ端微塵にされておられるのだけれどね。
 何故なのかその残骸をエーベルお兄様の方へとちゃっかり飛ばしていらっしゃるのよ。

「えー、だってコレを壊したのはエーベルでしょ。壊すならばもっと静かに壊せばいいのにさ。自分だけエルにいい所を見せたくてカッコよく決めた癖に一体何を言っているのだか~」

 自分の後始末くらいちゃんとしてよね~と言わんばかりに今も絶賛塊を飛ばしていらっしゃるラインお兄様。

「だったらお前が壊せばよかっただろう」

 何時になくエーベルお兄様が反撃したわ。

「残念ながら俺の剣はお前のより細いから無理だね」

 そうラインお兄様の剣は一般的な騎士の持つ剣と同じもの。
 因みにジークヴァルト様の剣もラインお兄様と同じサイズ。
 エーベルお兄様の様な大剣を振り回す騎士の方が珍しいと思う。

「だったら文句を言うなと言うかだ。この至近距離で起用に塊を飛ばすな。万が一エルに当たればどうする」
「そこは心配しないで。エルには重防御結界を展開させているのは勿論だけれど、大前提に俺はそんなへまはしない」
「その慢心が怪我の許とも言うぞ」
「ったく足の大きさだけの癖に兄貴面をしないでほしいね。然も新生児の足の大きさだけで順番を決める親にも問題があるとも言えるけれ――――⁉」

 突然私達に緊張が走った。
 まさかまた?

 ううん違う。
 化け物がいなくなった砂漠に現れたのは一人の女性。
 腰よりも長く、風に棚引くのは赤毛交じりの金色ストロベリーブロンドよりも金色がより白金に近い色合いの髪と黄金色の瞳を持つとても美しい……譬えるなら人ならざるものが持つ神々しいばかりの美しさ。

 思わず、そう自然に頭を垂れてしまいそうな圧倒的なカリスマ性とでも言うのかしら。
 私は恐怖?それとも畏怖や畏敬の対象ともなる女性の存在に驚けば、自然とジークヴァルト様の胸元の服をぎゅっと握ってしまう。

 そしてジークヴァルト様はそんな私の心を理解されビクつく私を護る様に、または安心させるかの様に強く抱き締めてくれた。
 
 一方ラインお兄様とエーベルお兄様はその場を微動だにする事も出来ず、ただただその女性を凝視するばかり。

 女性はそんな私達へゆっくりと視線を合わせれば――――。

「よくここまで辿り着ついたの。待っておったぞエルネスティーネ、妾達の希望の子よ。妾は女神イルメントルートの最初で最期の影。もう残された時間は僅かじゃ。さてこちらへ来るとよい」

 亡くなられた大神官長様とよく似た優しい微笑みを湛えながら私達へ手招きされたわ。
 そこで緊張の糸が切れた様にほっとすると同時に世界がまた変わっていったの。
 
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