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第四章  指し示される道

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「あ、あのジークヴァルト様、では私を降ろして下さい」
「何故?」

 えーっとどうして音速級に疑問符が返ってくるの?
 そこは普通に貴方もこの戦闘へ参加されるのです。
 私をお姫様抱っこしたままでの戦闘なんて、9歳児の私でもそれが非常識且つ無理な事だとわかります!!

 抑々化け物と戦うのに私を抱っこしていれば防御の一つも取れないでしょ。
 第一私が嫌なのよ。
 死ぬ瞬間に好きでもない男性と……はいいとして、化け物にぺろりと美味しく?食べられるのがね!!

 だから私は諸々の意味を込めてジークヴァルト様を睨んでしまう。
 それなのにジークヴァルト様ってば変なの。
 一瞬とても驚かれた表情をなさったのかと思えば直ぐに、然も物凄く嬉しそうに破顔一笑されたの。
 でも次の瞬間にはほんの少しだけ困ったお顔をされれば、何故なのかプイっと私より視線を逸らされてしまったの。

 全く以って理解不能。

 この一瞬で一体何が起こったのかとこちらが問いたい。
 ただ私は何もしていないわよ。
 勿論ジークヴァルト様も……ではどうして?
 いやいや今はどうでもいい事を考えている場合ではない筈!!

「と、兎に角戦われるならば私を降ろして下さいませ」
「駄目」
「はあ? あのっ、意味が分からないのですけれど!?」
「意味が分からなくていいですよ。今はね。エル貴女を護るのは俺の役目であり他の人間ではない。ただそれだけもいいから覚えておいて。他の事は忘れてもいい。貴女を護る男は俺だけなのだと覚えておいて欲しい」

 言われるまでもなく意味が分からないと言うか、私の理解が全く追い付かない。
 ただ目の前のジークヴァルト様がとても切なげで苦しそうな表情で、まるで大きなワンコの様な眼差しでお願いをされれば……。

「し、仕方がないですね。か、可哀想なので覚えて差し上げますわ。で、でも私は病気なので直ぐに忘れる、か……もです。そして絶対私に怪我を負わせる事は許しません!!」

 自分自身でもなんて横柄でめちゃくちゃな事を言っているのだと思う。
 別に横柄な物言いをする心算なんてなかったわ。
 だけどお姫様抱っこされたままで、先程までとは明らかにジークヴァルト様との距離も何気に近いし、更に耳元で大人の男性特有の低い声なのに何処か甘やかな声音で囁く様に仰られるのは心臓に物凄く悪いしと、兎に角色々と反則なの!!

 す、好きでもないのに変に意識をしてしまう。

「了解です姫君。必ずお約束致しましょうエル。貴女に擦り傷一つ負わす事は致しません」

 ジークヴァルト様へとても失礼な物言いをしたというのに、どうして貴方はこんなにも嬉しそうなお顔をされているの?

 公爵閣下で、私よりも年上で大人なのに、たった9歳の子供の言葉を嬉しそうに反応をされるって本当に――――ナノデスネ。


「おーい、いい加減にしてくれって言うか本気でエルを抱いたままやるのか」

 ラインお兄様ナイス突込みです。
 そして私を助け出し……。

「エル、余計な事は考えない様にしましょうね」

 ひぃぃ、お顔は笑っていらっしゃるのに瞳が一切笑ってはいない!?

「……はい」

 これは逆らわない方が身の為かもしれないわ。

「勿論本気ですが殿下」
「はぁ、ただしエルを危険な目に合わせれば俺は一生許さないからな!!」
「望むところです」
「…………」

 エーベルお兄様は無言を貫いておられる。

「さぁエル、しっかりと私にしがみ付いておいて下さいね。少し飛びますので――――」
「え、きゃあああああああああああああ⁉」

 トンと言う音もなく、軽やかに上空高くジークヴァルト様と彼にお姫様抱っこをされている私達が飛び上がる。

 出来れば飛び上がる数分前くらいに声を掛けて欲しい。
 私にだって心の準備と言うものがあるの!!


 化け物の身体よりも尚一層高く飛びあがった私達、いやジークヴァルト様は飛んでいる途中私を左腕一本で抱えればよ。
 右手で剣を構えると同時に化け物へ向けて勢いよく剣を振り下ろした。

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ」

 化け物の雄叫びと共に剣より放たれた氷の結晶が一斉にその大きな巨体をカチコチに凍らせていく。
 そうしてゆっくりとお姫様抱っこへと戻された私とジークヴァルト様が地上へ降りる頃には、砂漠の大地に一つの大き過ぎる氷像が出来上がっていたわ。
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