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第四章  指し示される道

10  Sideアーデルトラウト

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 ああ私は心の底からエルネスティーネ彼女になりたい!!


 没落寸前の子爵令嬢だって騎士団へ所属していれば自ずと話は漏れ聞こえてくる。
 

 三十四年ぶり、王妹殿下以来の王家の血筋を受け継ぐ侯爵令嬢奇跡の子


 男系家系の王族にしてみれば女児が誕生するだけで国を挙げてのお祭り騒ぎ。
 然もエルネスティーネは両親や家族だけじゃない。
 国王夫妻に四人の王子様達や多くの者より大切に、そして大層愛しまれていると聞く。

 ふん、団長のライト殿下の会話の様子からでもわかる。
 殿下ご自身もエルネスティーネへ特別な感情を抱いている……と。
 

 第一騎士団団長のエーベルハルト殿下は真面目で堅物、おまけに女性に限らず同性に対しても軽口なんて一切仰らない無口で面白味の欠片すらない男。
 王子の身分と騎士団長でなければ誰も……って普通に令嬢達からの人気はない。
 だから殿下がエルネスティーネをどう思っているのかなんてわからないし特に興味もない。

 でもあれは何時だっただろう。
 王城内を巡回していればだ。
 丁度エーベルハルト殿下が回廊を一人で歩いていると――――。


『エーベルお兄様!!』

 殿下達と同じ髪色に菫色の瞳をキラキラと輝かせながら猛ダッシュで駆けていく小さな女の子がいた。
 
『どうしたエル、一人では危ないだろう』
『だってお庭の小鳥達が私を呼んでいるのですもの。だからお庭へ行こうと思った時にエーベルお兄様の御姿が見えたの』
『そうか。でも一人では駄目だ。俺を含め皆が心配する』
『ごめんなさいお兄様』


 何処にでもある他愛のない会話と光景。
 でもエーベルハルト殿下を知る者が見ればこればかなりレアな場面。
 彼の腕の中で甘えて抱かれている少女へ優しい眼差しに物言いはアレだが、それでも溢れる愛情に優しい声音。
 不器用で有名な王子を一瞬で変えてしまうその存在に驚愕が隠せなかった。

 あの時はまだ私も新人でジークの事を好きでもなかった。
 いや、毎日を必死に生きていく事だけしか考えられなかったわ。
 でも後にあの時の少女がエルネスティーネだと知った時は、そうこれは逆恨みだとわかっている。
 幼い彼女を恨んだところで何も解決はしない。
 
 だけど同じ女として生を受けてこの差は一体何?

 ジークを好きになって尚一層エルネスティーネが憎くて仕方がない。
 殺しても殺しても殺し足りないくらいに恨んでもいる半面、心の奥底より焦がれる様に羨ましくて、何時しかエルネスティーネ彼女になりたいと願った。


 出口が決してない堂々巡りな日々。
 自分の不満をぶつける様に他の男との情事に耽り鬱憤を晴らしていたわ。
 そうして気づけばあの大魔女の一件より数ヶ月の時間が流れ私自身気にも留めていなかった頃の事。

 愛人の一人、そうジークの側近で乳兄弟の男より齎されたわ。
 公爵家の当主でもあるジークは優しいけれども口はとても堅い。
 でもたった一度だけ。
 エルネスティーネの奇病により何時も自分だけが忘れられてしまうと、乳兄弟と酒を飲み明かした夜に苦悶に満ちた表情で吐露したらしい。

 私はその乳兄弟へ今まで培った手練手管を使い、好きな男の情報をそれとなく小出しに、決して怪しまれない程度に感情を昂らせた時に強請る様に聞き出していた。 
 譬え一緒にはなれないとわかってはいてもそこは好きな男の秘密や行動は、どんな小さな事でも知りたいと思う女の切ない恋心。

 まさか王家が秘匿していた奇病まで知る事が出来るとは流石に思わなかったわ。
 それと同時に私ならばジークを決して悲しませやしない。
 まだ絶対に何があろうともジークを忘れたりはしない。
 私なら、そう私ならジーク貴方を……。

 先日の事だったわ。
 ジークがその乳兄弟へ告げたのよ。

『もう少し彼女が大きくなれば、俺は正式に婚約を申し込もうと思う』


 婚約?
 結婚⁉
 
「痛っ!! おい、何人のモノを握り潰す程って、そんなに強く握るなよって聞いているのか、おい」

 はっ、男の声なんて聞こえないしどうでもいい。
 それよりも何よりも今私の心が一瞬で凍りついてしまう。

 ジークが婚約!?

 そ、そりゃ何時かは、そう何故ならジークは公爵家の当主だから絶対に跡継ぎは必要。
 決して私ではない、良家の令嬢が彼の正妻になる事もわかっていた現実。
 とは言えこれはかなりの衝撃だった。

 私に残っていただろうなけなしの良心が消えてしまう程に……ね。

『フフフ、待ッテイタ甲斐ガアッタ。コノ短期間デ妾ノ好ム色ヘト魂モ染マリツツアル。アーデル、オ前ノ望ミハ完璧ニ叶エテヤロウ。ソノ代ワリニワカッテオルナ』

「えぇ、私の望みをちゃんと叶えてくれればこの身体を自由にしていいわ。その代わり絶対に完璧によ。エルネスティーネが今後味わう全てのモノ、何もかも全てを私に頂戴!!」

『良カロウ約束ジャ』


 その夜私は大魔女トルテリーゼへ魂だけではなくこの身体までを彼女へ売り渡した。
 これでジークだけじゃない。
 エルネスティーネも私のもの。
 
 あぁ大魔女を開放すれば世界?
 私にとって世界なんてどうでもいいわ。
 それにこの世界が一度でも私に優しかった事はない。

 私にとって世界とはジークかそれ以外。

 イルメントルートが愛したであろうこの世界。
 でもその彼女が私の領地へ大魔女を封じたからこそ私は回り回って不幸へ陥ったの。

 だから今度は私が幸せになる番。
 この世界もエルネスティーネも全てが私以上に不幸となるがいいわ!!
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