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第四章  指し示される道

7  Sideアーデルトラウト

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 あの頃付き合っていた既婚者との関係もマンネリ化となりもう潮時だと思っていたのよね。

 そこへ颯爽と登場したのがジークだった。
 一目見てジークは他の男達とは違うと確信したわ。
 何時も付き合っている男達とは違い、これこそが巷で囁かれているスパダリなのかって思わず納得してしまったわ。
 他の女性騎士や事務の子達まで色めき立ち、ジークへあからさまな視線や過度なボディータッチなんてしてくるものだから、気づけば私もらしくなく焦りを感じていた。

 何とか周囲に群がる獣と化した女達よりも先にジークの心を掴み、自分のモノにさえすれば後はこの身体で幾らでもお金を搾り取り、行く行くは愛人へ収まってみせようと柄にもなくまぁ色々頑張ったのよ。
 なのに当のジークとくれば口を開けば馬鹿の一つ覚えの様に……。

『親戚に可愛い子がいる』
『エルは天使だ』
『天使過ぎて可愛いが止まらない!!』
『何回忘れられてもいい。絶対に何時か覚えて貰えるまで、いや覚えられなくともエルに会いに行く!!』

 エルエルエルエルエルエルエルエル!!

 正直に言って鬱陶しいったらありゃしない。
 そうして手を拱いている間に気づけばよ。
 ジークと私は話の合う友人になっていた。
 いやいやただ単にエルネスティーネ本人には絶対に伝えられない胸に秘めた想いの捌け口が私?
 欲望の捌け口なら喜んで……と言いたいのだけれども、生憎と彼が吐くのは彼女への切ない愛の言葉。
 聞いていて誰が喜ぶと思うのよ。

 本当に何処までも鈍感な――――男。

 とは言えお偉い公爵様の癖に傲慢な所は少しもなく日々の鍛錬は熱心だし、それで顔も良くて頭もいいって化け物か!!

 まぁ一緒に任務を行えば自然に、そこはこれまでの経験を活かしせば絶対に誑し込む事が出来ると思ったのが間違いのもと。

 言葉巧みにエルの話から私の事へと何度もすり替えてもみた。
 時には態と胸元を、そこはさり気なさをしっかりと装い自慢の谷間をチラ見せもしたわよ。
 周囲の男達の視線はくぎ付けに出来たけれども――――。

『コホン、アーデル少々服装が乱れている。騎士としての前に君は女性だから身だしなみはきちんとした方がいい。ここは男が多いからな。変な目で見られ誤解を招いてはいけない』

 お前は聖人君子か!?
 
 あの時は眩暈を覚えたと同時に大人の女としての自信も著しく傷つけられたわ。
 本当にジークが神官だったら納得も出来るのだけれど、残念ながら彼は神官ではなく騎士で公爵閣下。
 
 おまけにお堅い事ばかり言うかと思えば口を開くと彼女の話ばかり。
 然もよく聞けば相手は7歳も年下――――って完全に子供じゃん。
 お前涼しい顔して中身は幼児大好きなロリコン野郎?
 だからこそこの豊満な美ボディーの私の身体へほんの少しもぐらつかないのねって無理に自分自身へ納得させたわ。

 でもねその頃には既にカモへ恋に堕ちてしまっていた自分がいたのよ。


 最初から想いを寄せても報われないのはわかっていた。
 住む世界が違い過ぎる事も……。

 なのにせめて愛人でもいいって思った時点で既に私はジークへ恋に堕ちていたのだと思う。
 自分自身へ納得させる為の言い訳をあれこれ考えるだなんて本当に愚かだわ。

 それと同時にエルと言う名の子供へ醜い嫉妬心を抱いてしまう。

 何故私はしがない子爵家の娘なのだろう。
 どうしてもっとジークに釣り合う……違う!!

 私はエルネスティーネエルになりたかったの。
 ただそれだけ。
 簡単でとても難しい……。


『……ソノ願イヲ叶エテヤロウカ』

 久しぶりの休暇で実家へ帰った時だった。
 小さな領地だけれど見回りがてら散歩をしていれば、突如頭の中へ直接語り掛ける様な声が聞こえたのは……。
 

 *もう少しだけアーデルの愚痴と言う名のこれまでの人生が続きます。
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