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第三章  別離

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『くっ!! 本当に何処までも忌々しい小娘!! お前が、お前が生きているだけで私の望みは永遠に叶う事はない。折角あの御方の力でお前の魂を滅する事が出来たと思えばだ。まさか魂の一欠けらしか滅する事が出来なかっただけでも腹立たしいのに、あろう事かお前があの御方の望みし魂だったとはとんだ誤算だわっ。あぁ本当に腹立たしい!! でも今度こそ失敗はしない。エルネスティーネっ、私の幸せの為に死ねぇぇぇぇええええええええええ!!」

 無数の触手と共に特大級の大きくて、禍々しいどす黒いオーラの塊が最初はゆっくりと、でも徐々に速度は加速され私と大神官長様へと向かってくる。
 それは何も出来ない私でもわかる。

 これを喰らえば本当の意味で死んでしまう!?

「安心なさい。エルネスティーネは決して死なせはしません。この娘は私達の最期の希望。そなたに、そして何よりもトルテリーゼに渡す訳にはいかぬ!!」


 大神官長様はそう化け物へ毅然と言い放てば、私を半ば強引に大神官長様が作り出した光の珠の中へと押し込める。

「待って、こんな事をすれば――――⁉」

 ダメ!!
 逃げるのならば大神官長様も……。

「私はここで果てるのが運命。元々私達代々の大神官長はイルメントルートの残影でしかなかったのです。人の子を愛しいと思い、その行く末を思うが故に現世へ干渉したのが始まり」
「何を、言って……」
「しがない、力なき残影が私なのです。ですがエルネスティーネ貴女は違う。貴女は私達全てが望む最期の希望。また貴女は何も力がない訳ではない。貴女の力は。それこそが力の根源でありこの世界を突き動かすもの。さぁもうお行きなさい。元の世界へ戻るのです。ここはこの私が最期の力で食い止めてみせます」

 お日様の様な優しくも温かい大神官長様の微笑み。
 全身血だらけなのに、それでも何時もの様に凛とした白百合の様に立たれるお姿はより一層神々しい。

「何時如何なる時も見守っていますよ……」

 そっと、大神官長様は私が包まれている光の珠を上へと押し出した。

 ほんの少しの力だと思う。
 なのに物凄いスピードで私は化け物より、ううん大神官長様より離れて行く。


 駄目っ、待って、待ってよ。
 こんなの嫌!!
 大神官長様も一緒でなければ嫌だよぉぉぉぉぉぉ。
 こ、こんな別れ方ってない!!


『誰が逃がすかぁぁぁあああああああああああ!!』

 物凄い勢いで触手とどす黒いオーラが空へと、私へと向かって伸びてくる。

「邪魔はさせません」
『お前等に何がわかる。この私の悲しさや惨めさに口惜しさ!! 小娘だけが恵まれ、全てを持っている等この私が許しはしない!!』

 血を吐く様な悲痛な叫びが、離れて行く私の心を捕らえてしまう。
 一体私は何をしたのだろう。
 どうしてこんなにも憎まれなければいけないの。

「その理不尽な憎しみに付け込まれたのですね。憐れと思いますよ」
『お前に何がわかる。何もわからぬ女神の残影よ。さっさと消えてしまうがよい!!』
「何を言うのかと思えば……。そなたもまた私の愛しい人の子。今からでも遅くはない。どうか少しでも人の心を取り戻すのです」
『煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!』




 もう二人が何を話しているのか聞こえなくなる程に遠く、そしてその存在は小さくなっていく。
 それでも必死に私は大神官長様へ向かって無事でいて欲しいと願うのみ。
 涙は枯れる事なく流れ続け視界は霞み、遠くのものが良く見えないと思った時だった。

 遠くで、つい今し方までいたであろう場所で思わず目を閉じてしまうくらいに眩くも強大過ぎる光と、対照的に深淵の闇の様に黒くも禍々しいこれまた大きな塊がバンと大きな爆発音と共にぶつかり爆発した。

 離れている私にも伝わるくらいの振動、そして私は一際眩く輝きを放つ光に意識が吸い込まれる様にして意識を失った。


『……己が身に起こった全てが真実ではありませんよ』


 遠い意識の狭間の中で最後に、そう囁かれる大神官長様の声が聞こえた様な気がしたの。
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