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第三章 別離
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しおりを挟む私は重防御結界の中であるのも拘らず、必死に大神官長様へと手を伸ばした。
何も出来ないのはわかっている。
それでも何か、大神官長様のお力になりたい!!
強く、願った。
『ぎゃああああああああああああああ⁉』
苦しみ藻掻く化け物の恐ろしい断末魔の叫びが周囲一帯へ轟いていく。
私は恐怖の余り目を固く閉じてしまう。
化け物の長い断末魔の叫びが終わって少ししてから、私はゆっくりと瞳を開ると少し離れた所に化け物はいた。
そして化け物はまだ生きている。
でも怪我を負っていたわ。
特に左眼の怪我が酷く、まるで物凄く熱いもので焼け爛れた様になっていて、化け物は両手で左眼を覆いながら激痛に悶え苦しんでいた。
一体この短時間で何が起こったの?
まさかこれも大神官長様の御力なの⁉
「エルネスティーネ……」
「大神官長様大丈夫ですかっ。は、早く、直ぐに傷の手当てをしなければ!!」
何時の間にか結界は消えていた。
私の傍へ近づいてこられた大神官長様の、大小様々な傷だらけの御姿を目の当たりにして思わず涙が溢れ出てしまう。
オフホワイトの法衣を自らの血で染められている御姿がとても痛ましくて、怖くて悲しい。
こんなにも傷を負われるだなんて、この傷の全ては私がここにいる所為だ。
ただでさえとてもお年を召しておられるのに、それなのに全身に傷を負われる程の戦い迄されたりすれば本当の意味で大神官長様が往生されてしまわれたら私――――。
ゴン!!
「い、痛い……」
「私の身体を心配してくれるのはとても嬉しいと思いますが後半は明らかに違いますよね。この私をその辺りにいる年寄りと同じ扱いだけではなく、私が往……まぁその話は聞かなかった事にしましょう」
「はい、すみませんでした」
地獄耳……と言うかよ。
心まで読める大神官長様ってもしかしなくとも神様なの!?
「はぁ、貴女って娘は……。宜しいですかエルネスティーネ。最早時間はありません。今直ぐ元の世界へお戻りなさい」
時間が、ない?
うんそうよね。
一週間も眠っていれば時間もなくなると言うのか、体力だってなくなるものね。
食事も摂っていないのもあるけれどでも……。
「大神官長様も一緒ですよね!!」
何となく一抹の不安みたいなものを感じれば、何も考える事なく言葉としてそれを発していた。
おまけに不安だからと言って怪我を負われている大神官長様の手まで握ってしまった。
なのに大神官長様は怒る訳でもなく、ただ何とも言えない悲しみの中に優しい眼差しを私へ向けられる。
そうして握っていた私の手をそっと優しく離される。
まるで拒否されるかの様、に……。
「……元の世界へ還るのはエルネスティーネ、貴女だけです」
「嘘。え、あ、そんな!? 何故? どうしてっ!! 嫌、嫌です!! 大神官長様がお戻りにならないなんて、何故、何故一緒に元の世界へ還れないのですか!!」
「エルネスティーネ……」
「おね、お願いします大神官長様。お願いだから一緒に元のっ、こんな状態の大神官長様を置いてひ、一人で還るだなんて出来ないっ!!」
「エルネスティーネ」
「う、あっ、い、嫌です。こんな所に大神官長様だけ残して私だけってそんなの嫌!! ねぇおね、がい、一緒に……!?」
もしかして?
もしかしなくても大神官長様が一緒に還れないのは――――。
「わた、私が原因なのですか!! 何か私はとんでもない事をしてしま――――っっ」
ポロポロと、こんな時に泣くなんて卑怯だと思っている。
そうただ大神官長様を困らせるだけだとわかっているのに、それでも涙は止まってはくれない。
「ふ、何を言うかと思えば……。これは貴女の所為ではないのですよ。ただこれは仕方のない事なのです。そして今全ての真実を貴女へ告げるのはまだ時期尚早。とは言え私自身が貴女へ話をする時間はもう残されてはいないのです」
「時間? 真実って……」
大神官長様は私の両肩を抱え込む様に優しく抱き締められる。
「今から告げる事は決して忘れてはいけません。元の世界へ戻れば私の聖遺物。何れの神殿にもそれは祀られてはいません。よいですか。最初に私の身体が納められし霊廟を訪ねなさい。そこで霊廟を守護せし最後の残影が貴女へ全てを語ってくれるでしょう」
「あ、あのっ、仰る意味が分かりません」
正直に言えばわかりたくないが正解。
何故なら大神官長様の口調はまるで、まるでもう――――。
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