67 / 140
第三章 別離
20
しおりを挟む私は重防御結界の中であるのも拘らず、必死に大神官長様へと手を伸ばした。
何も出来ないのはわかっている。
それでも何か、大神官長様のお力になりたい!!
強く、願った。
『ぎゃああああああああああああああ⁉』
苦しみ藻掻く化け物の恐ろしい断末魔の叫びが周囲一帯へ轟いていく。
私は恐怖の余り目を固く閉じてしまう。
化け物の長い断末魔の叫びが終わって少ししてから、私はゆっくりと瞳を開ると少し離れた所に化け物はいた。
そして化け物はまだ生きている。
でも怪我を負っていたわ。
特に左眼の怪我が酷く、まるで物凄く熱いもので焼け爛れた様になっていて、化け物は両手で左眼を覆いながら激痛に悶え苦しんでいた。
一体この短時間で何が起こったの?
まさかこれも大神官長様の御力なの⁉
「エルネスティーネ……」
「大神官長様大丈夫ですかっ。は、早く、直ぐに傷の手当てをしなければ!!」
何時の間にか結界は消えていた。
私の傍へ近づいてこられた大神官長様の、大小様々な傷だらけの御姿を目の当たりにして思わず涙が溢れ出てしまう。
オフホワイトの法衣を自らの血で染められている御姿がとても痛ましくて、怖くて悲しい。
こんなにも傷を負われるだなんて、この傷の全ては私がここにいる所為だ。
ただでさえとてもお年を召しておられるのに、それなのに全身に傷を負われる程の戦い迄されたりすれば本当の意味で大神官長様が往生されてしまわれたら私――――。
ゴン!!
「い、痛い……」
「私の身体を心配してくれるのはとても嬉しいと思いますが後半は明らかに違いますよね。この私をその辺りにいる年寄りと同じ扱いだけではなく、私が往……まぁその話は聞かなかった事にしましょう」
「はい、すみませんでした」
地獄耳……と言うかよ。
心まで読める大神官長様ってもしかしなくとも神様なの!?
「はぁ、貴女って娘は……。宜しいですかエルネスティーネ。最早時間はありません。今直ぐ元の世界へお戻りなさい」
時間が、ない?
うんそうよね。
一週間も眠っていれば時間もなくなると言うのか、体力だってなくなるものね。
食事も摂っていないのもあるけれどでも……。
「大神官長様も一緒ですよね!!」
何となく一抹の不安みたいなものを感じれば、何も考える事なく言葉としてそれを発していた。
おまけに不安だからと言って怪我を負われている大神官長様の手まで握ってしまった。
なのに大神官長様は怒る訳でもなく、ただ何とも言えない悲しみの中に優しい眼差しを私へ向けられる。
そうして握っていた私の手をそっと優しく離される。
まるで拒否されるかの様、に……。
「……元の世界へ還るのはエルネスティーネ、貴女だけです」
「嘘。え、あ、そんな!? 何故? どうしてっ!! 嫌、嫌です!! 大神官長様がお戻りにならないなんて、何故、何故一緒に元の世界へ還れないのですか!!」
「エルネスティーネ……」
「おね、お願いします大神官長様。お願いだから一緒に元のっ、こんな状態の大神官長様を置いてひ、一人で還るだなんて出来ないっ!!」
「エルネスティーネ」
「う、あっ、い、嫌です。こんな所に大神官長様だけ残して私だけってそんなの嫌!! ねぇおね、がい、一緒に……!?」
もしかして?
もしかしなくても大神官長様が一緒に還れないのは――――。
「わた、私が原因なのですか!! 何か私はとんでもない事をしてしま――――っっ」
ポロポロと、こんな時に泣くなんて卑怯だと思っている。
そうただ大神官長様を困らせるだけだとわかっているのに、それでも涙は止まってはくれない。
「ふ、何を言うかと思えば……。これは貴女の所為ではないのですよ。ただこれは仕方のない事なのです。そして今全ての真実を貴女へ告げるのはまだ時期尚早。とは言え私自身が貴女へ話をする時間はもう残されてはいないのです」
「時間? 真実って……」
大神官長様は私の両肩を抱え込む様に優しく抱き締められる。
「今から告げる事は決して忘れてはいけません。元の世界へ戻れば私の聖遺物。何れの神殿にもそれは祀られてはいません。よいですか。最初に私の身体が納められし霊廟を訪ねなさい。そこで霊廟を守護せし最後の残影が貴女へ全てを語ってくれるでしょう」
「あ、あのっ、仰る意味が分かりません」
正直に言えばわかりたくないが正解。
何故なら大神官長様の口調はまるで、まるでもう――――。
43
お気に入りに追加
2,698
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる