上 下
63 / 140
第三章  別離

16

しおりを挟む
 何故ここに16歳のエルネスティーネがここにいる!?

 肉体が亡くなったが故に幽体や過去のエルネスティーネの幽体?
 果たして彼女は、私自身幽体の括りで正解なのかしら。

 それとも幽体でのドッペルゲンガー?

 ここにきて私一体何を考えているの。

 でもどうして16歳の私の顔だけではないわ。
 姿形がくっきりはっきりと見えているのは何故?
 
 そうここは自分の手さえ見えない闇の中。

 それなのに彼女?それとも私……ってややこしいわ。
 9歳の私がエルで、16歳はエルネスティーネと呼ぶ事にしようっと。

「ねぇどうして私は貴女の姿が見えているのかしら?」

 疑問に思った事をそのまま私は伝えたわ。
 でもエルネスティーネは何も語らず静かに微笑むのみ。

「何故お話をしてくれないの?」

『…………』

 あ、もしかしてあの日のジーク様の執務室での事は現実で、だとすれば目の前のエルネスティーネはバルコニーより身を投げた?
 だとすれば怪我をしてお話も出来なくなってしまったって事?
 
 いやいやそれは少し違う……様な?
 そう目の前のエルネスティーネは掠り傷はおろか何処にも怪我と言うのか、包帯一つ巻いてはいない。

 ではどうしてお話をしてくれないの?

 それともエルネスティーネは幻覚?
 暗闇の中で恐怖の余り私が作りだした――――とか?

 ないない。
 それはあり得ない。
 魔法だってまだ使えない私が錬金術を行使するなんて出来ないでしょ。

 何を馬鹿な……と言う様に私はふるふると左右にかぶりを振った時だったわ。

『何も深く考えなくてもいいの。えぇそう、もう貴女は何も考えなくてもいいの。ただあるがまま、今の現実を受け入れればそれでいいのです』

 エルネスティーネは朗らかに微笑むながら話し始めたの。

 よかったわ。
 これで大丈夫。
 エルネスティーネとこれからについて話し合えばきっと……って、え?

「現実を受け入れれば、いい……?」
『その通りよ。もう何も考えず、静かにこの常闇の中へ身を委ねればいいのです』
「この常、闇へ?」

 えーっと何を言っているのかしら。
 どう考えても余りいい提案には思えない。
 出来ればその常闇ではなく、眩い光に満ち溢れると言う天上国の方がいいと思うのだけれど。

 自分自身に対して危険な事を提案する自分……あぁ頭が痛くなるわ。

『ほらその様に深くは考えないの。悩み過ぎれば頭が痛くなるでしょ』
「言われてみればそう、かもしれない」

 確かに少し頭痛がするわ。

『何事も小さな事に囚われてはいけないわ。もっと大局を見極めなければね。えぇあの御方が仰る通り……』
「大局……ね」


 大局何て初めて聞いた話ね。
 何時何処で言われたのだろう。
 それにしても私は時々自分の事がわからない時が余りにも、多過ぎる。
 今に始まった事ではないけれ……ど。
 
『では何時から――――?』

 あらそう言えば何時からかしら。
 でも気づけば……って感じなのよね。
 うーん、私が知らないのに16歳のエルネスティーネは知っている。
 それって何か少し違和感を感じるのは気の所為なの?
 そして――――。

「ねぇあの御方ってもしかしてジーク様の事?」

 あの御方呼びをするのは多分家族ではない。
 両陛下や王子殿下達ならば普通に言えばいいだけ。
 
『っ、じ、ジーク……様よ。どうしたの急に、ふふ、エルらしくなくてよ。それよりもこちらへいらっしゃい』

 先程と同じ笑みを湛えたまま、でも何故か私へ話し掛ける口調は何処までも冷たく、そこに一切の温度を感じさせない。

 そしてこれは私の勘だけれど、


 これはあくまでも私の野生の勘ならぬ野猿令嬢の勘でしかない。
 然も今物凄く危機的状況なのだと、頭の中で警鐘が鳴り響いている。
 とは言えエルネスティーネは私なのにどうして危険なのかなんてわからな……ってアレは⁉

 エルネスティーネの髪には見覚えのある、うん物凄く見覚えのあり過ぎる花が綺麗に飾られていた。

「な、何故その花を髪に飾っているの!! それはとっても危険な――――」

 そう絶対に忘れる事なんて無理。
 何故ならこの小さな幾つもの青い花々達は恐ろしい捕食植物なのだもの!!
 私もつい少し前現実に食べられそうになったからこそ、その危険性は十分理解している。

「危ないから早く外しなさ……」
『危険、この花が? ふふ、これは少しも危険ではないわ。これらは全てあの御方が私に与えて下さった貴重なるもの。それよりも早く向こうへ行きましょう』

 うっとりとした口調で、まるで夢見る様な眼差しで話すエルネスティーネ。
 そうして優し気な笑みを湛え私へと手を差し伸べてくる。
 
「……行かない」

 だけど私はその手を取る事が出来なかった。

『あら何故? 貴女がそう言うのであればこのままここにいてもいいけれど。でも出来れば大人しく私についてきて欲しいわ』
「行かないって言ったでしょ。それにあの御方って誰なの。どうしてその花を、それは恐ろしい捕食植物なのよ!!」

 だから早く捨てて……と言いたかった。
 でも言えなかった。



 つい今し方までの優し気な微笑みではなく、妖しく、子供の私でもわかるくらい大人の女性の持つ色香?を含んだ笑みを浮かべながら左手を、青い花へとエルネスティーネがそっと触れればよ。
 しゅるりと幾つもの細い触手が彼女の手へと巻きついていく。

「な、何!?」
『はぁ出来れば手荒な事をせずに貴女を殺したかったわエルネスティーネ』


 ドキドキが止まらない。
 一体エルネスティーネ彼女は何を言っているの。
 
 わからない。
 ううん、分かりたくないのかもしれない。
 
『何処までもお馬鹿で愚かなエルネスティーネ。このまま何も気づかずそして何も知らず、あの御方の為に死ぬのよ』

 その言葉が放たれると同時に無数の触手が一斉に私へと飛んできた。
 一体何が起こりそして私はどうなってしまうのだろう。
 まさか自分自身に裏切られるだなんて、そんな展開なんて予想していなかったわよ!!


 ※何時も拙作を応援して下さり有難う御座います。

  本日誕生日を迎え、〇〇歳となりました。💦

  今年の誕生日はめっちゃ嬉しいです。
  何と言っても20日間Hotランキングからまだ外れてはいない。
  だけでなく、皆様の応援のおかげで現在ファンタジー大賞第8位!!
  本当に、本当にありがとう御座います。
  (*・。゚ァリガトゥ゚。・*)○Oo(人´∀`*)

  これからも頑張っていきますのでどうか見捨てないで下さいね。

                       Hinaki
  
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...