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第三章  別離

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「ここは一体何処なの?」

 気づけば自分の身体すら見る事の出来ない真っ暗闇の中。
 まさかとは思うけれど、もしかして私は既に死んでしまっている……の?

 確かにあの瞬間ジーク様を助けたくてガゼボの柱より手を離したわ。

 で、では今頃私はあのお化けそのものと言った青い花の胃袋の中……って、先ず普通に花に胃袋は存在しないわね。
 だとすれば花の中で美味しく食べられ若しくは花の栄養となる為に、現在進行形で身体が消化液に溶かされているの。

 今の私は差し詰め幽体って事?


 はぁ享年9歳かぁ。
 こんなに早く死んでしまうならば、夢か時間の巻き戻りなんてものに振り回されるのではなかった。
 ジーク様との婚約回避何てものにも奔走しなければよかった。
 もっと、もっと時間を有意義に、お父様やお母様と、皆と一緒に過ごせばよかった。
 一日でも長く皆と楽しい思い出を――――って、抑々今日王宮へ来なければ私は死ななかった?
 お母様やテアにも内緒にした行動によって死んじゃうだなんて!!

 もう二度とおかあ、さまにお会い出来ないの?

 おかあ、さま?
 おとうさ、まにもう二度と会えない。

 い、や。
 嫌よ。
 もうお会い出来ないなんてそんなの嫌!!
 テアにも、ついでにアルお兄様にもお会い出来ない、なんて……やだよぉ。

 おかあ、さま。
 エルは、エルネスティーネはお母様にもう一度お会いしたいです。
 でも、でも、もう死んじゃって、うぅ、ねぇ私はどうすればいいのぉぉぉぉ?


 私は唐突にもう家族へ二度と会えないのだと、その事が何よりも悲しくて泣いてしまった。
 何も見えない、一条の光すらない、何も見えない暗闇が不安を尚一層駆り立てる。
 
 更に私以外の存在は何もない。
 暗闇の上に全くの無音。
 その状況がストレスとなり、息をするのさえ苦しいと感じてしまう。
 でも死んでいるのに苦しいって、死んでも苦しみはあるのかと思うとまた泣いてしまったわ。




 
 一頻ひとしきり泣くと気持ちが少し落ち着てきたみたい。
 そうして次に感じたのは怒りだった。

 勿論相手はジーク様!!

 そうよ!!
 元はと言えば婚約回避何て、ジーク様に関わらなければ私は今日死ななくても、お父様やお母様、アルお兄様にテア……みんなとお別れしなくてもよかったのかもしれない。
 それにどうせ生きていたとしても結局はあの方とジーク様が恋に堕ちる設定は変わらないのでしょう。

 やさぐれている。
 子供ながらに自分が今思いっきりやさぐれているのだと痛感してしまう。
 そんな事が分かったとしても現状は何も解決はしないと言うのに……ね。
 

『御機嫌ようエルネスティーネ嬢』
『エルと呼んでもいいですか。私の事はどうぞジークと呼んで下さい』


 何も想って等いない私に、ただの親友の妹Aに対してあの優しい笑顔は不要なの!!
 普通にジーク様はイケメンなのだから、あの様な笑顔なんてされればっ、無駄に優しくされれば……。


 ダメ!!
 私はもう悲しい想いを繰り返したくはないの。
 そうよエル、ジーク様を好きになればまた死んでしま……ってどうして死んでしまうの?

 わからない、何もわからないわ。

 でも何となくここから離れなきゃいけないと思うのは何故?
 それにもし本当に死んだのであれば天上国で幸せになってもいいと思うの。
 お転婆だったのは認めるけれど、流石に犯罪には手を染めていないわ。
 だから私は天上国へ行けるものだと思って……いるのだけれどね。
 昔語りで聞いた天上国はそこにいるだけで皆幸せになれる素晴らしい場所だと言っていたけれど、間違ってもこの様な暗闇一色なこの場所が天上国とは思えない。
 
 だとすれば本当にここは何処?

 私は周囲をぐるりと見回すけれども何も見えない。
 ただわかる事は地面に立っているのではなくふわりと浮かんでいる感覚。
 だから幽体と言う考えに至ったのでけれどね。

 さてこれからどうしよう。
 沢山泣いて叫んだから気分が少しマシだわ。

 それにこの空間に浮いているなら飛んで移動出来るわよね。
 でも何処へ向かえばいい?
 
 地図でもあればと思うけれど、在ったところでこの暗さでは地図を見る事も出来ない。
 また見えないだけでなく時間の経過すらわからないのだもの。
 本当の意味で途方に暮れている時だった。


『エルネスティーネ、エルここにいたのね』

 暗闇の中で私を呼ぶ声が聞こえたの。
 そして私はこの声の主を知っていると言うか知り過ぎている。

 そう暗闇の中で姿を現したのは16歳のエルネスティーネ――――だった。
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