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第三章 別離
14 Sideクリス
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「……状況は先程伺いました内容で変わりは御座いませんか」
「あぁ此度は先日の森での一件もじゃが、かれこれ一週間眠り続けておる。侍医にも診察はさせたが今までと同じ様に眠っているらしい。だがわしは今までと何かが違うと思うのじゃ」
「一体何が違うと……」
「それがわかれば苦労はせぬ」
そうこの違和感を感じるのはファーレンフォルストの血を受け継ぐ者のみ。
私達男だけではなく王妹であられるティーネ叔母上もこの微妙な違和感を感じ取られている。
恐らく普通の者には何も視えないのだろう。
エル達を森の中で発見したラインがエルの身体より発せられる余りの眩さと神々しさに驚愕したと、いや恭しく彼女を横抱きにしたラインまでもだった。
神々しい光に包まれた状態の二人を見た私達もライン同様に驚愕したよ。
そしてエルの身体を包む光は未だ消える事はなく、この部屋全体を慈愛に満ちた眩い光で満たしている。
侍医はエルが発光している事を知らない。
ティーネ叔母上の頃より奇病について研究を続けているとは言え所詮彼は我が一族の者ではない。
また視えない相手に説明するのも骨が折れると言うのか、抑々面倒でしかない。
ただしこの状況を視えていると思われし者が一人存在する。
いや、この様子だと二人……か。
全くジークだけでもエルとの関係性についてわからない事だらけなのにここへきて大神官長までもか。
大神官長である彼女の生家は確か伯爵家だったな。
だとすれば我が一族の血を受け継いではいない筈。
それなのに一体何故エルの放つ光が視えているのかを是が非とも大神官長へ問い質したいのだが、父上の、あの藁をも縋る気持ちは私自身わからなくもない。
女神イルメントルートを祭り信仰する場所が神殿。
我がファーレンホルスト家もイルメントルートとは繋がりのある家系。
この事実は秘匿されしもの。
決して我が家以外の者には話してはならぬと代々伝承されてきた。
実際何処までが本当なのかと正直疑った時期もある。
しかしエルが誕生し、彼女の満1歳の誕生日以降はその事実を信じるしかなかった。
またエルが目覚めた日に私達兄弟四人は、愛すべき大切な従妹姫を護ろうと誓ったのだから……。
「では私がエルネスティーネを連れ戻しましょう」
大神官長はエルの手を優しく握り静かに告げた。
「連れ戻す……とは?」
まぁ普通にそこは突っ込むだろう。
私も連れ戻すと言う意味を是非聞いてみたいしね。
「エルネスティーネは未だ大魔女に囚われております。正確には大魔女とその遺志を受け継ぐ者の思念に御座います」
「何じゃと⁉」
「陛下、このままではエルネスティーネは記憶だけではなく命までも奪われるでしょう。一刻も猶予はありません。今はどうかこの私を信じて下さいませ。そして何があろうともエルネスティーネを、私の希望の光を連れ戻してみせます」
「大神官長その、希望の光……とは?」
「おや聞こえてしまいましたかのう。ほほ」
父上だけではなく普通にこの部屋にいる者は聞こえていたと思うが今は何も言うまい。
そんな私達の心を悟ったのか、大神官長はこの張り詰めた空気の中一人慈愛に満ちた笑みを湛えている。
「……妾の選びし道は間違えてはおらんかったようだな」
「大、神官長?」
何と言うのか一瞬、そうほんの瞬きの間だけだ。
あろう事か大神官長自身の身体よりエルと同じ光が視えたのは……。
「一つお願いがあります。私がエルネスティーネの心へ入っている間は決して、えぇ譬え何が起ころうとも私とこの娘に触れないで頂きたい。万が一第三者が触れれば、私とエルネスティーネを繋ぐ糸が切れてしまいます。故に絶対に触れて下さいますな。宜しいですか」
微笑みを湛えたまま話していると言うのに何故か私達の身体は動く事も出来ず、恐ろしいまでの強大な圧で呼吸をするのがやっとだった。
だが不思議と大神官長から不快な感覚はなく、敢えてそう譬えるならば尊い存在に畏怖や畏敬の念を抱くと言ったものと酷似している。
そうして私達はただ首を縦に頷けば大神官長は安心した様にぱたりと、エルの傍で意識を失う様に倒れていく。
「「「だ、大神官長!?」」」
父上達が倒れていく彼女へ触れようと傍へ駆け寄る。
「父上っ、大神官長の言葉を忘れられたのですか!!」
私は全力でそれを阻止した。
もし大神官長の言葉が正しいならば、父上が触れた時点でエルは二度と目覚めない。
「あ、あぁそうであったな。じゃが老人が倒れておるのだぞ」
まぁ言われてみれば……ね。
ここには私達家族……いや、ジークもいたな。
一見にして血や涙の一滴すらもない冷血集団と後ろ指を指されたとしても言い訳は出来まい。
「ですが約束は約束です。私達は大神官長との約束を守らねばいけないのです」
何としてもエルを目覚めさせる為に!!
また再びあの弾けんばかりの笑顔を見たいが故に。
女神の血を受け継ぐ一族とは言え、所詮は只人と変わらない私達の不甲斐なさややり切れなさ、力のなさに腹が立つ。
大事な時に大切な存在を護る事が出来ないとは……な。
どうかエル、お願いだから無事でいてくれ!!
「あぁ此度は先日の森での一件もじゃが、かれこれ一週間眠り続けておる。侍医にも診察はさせたが今までと同じ様に眠っているらしい。だがわしは今までと何かが違うと思うのじゃ」
「一体何が違うと……」
「それがわかれば苦労はせぬ」
そうこの違和感を感じるのはファーレンフォルストの血を受け継ぐ者のみ。
私達男だけではなく王妹であられるティーネ叔母上もこの微妙な違和感を感じ取られている。
恐らく普通の者には何も視えないのだろう。
エル達を森の中で発見したラインがエルの身体より発せられる余りの眩さと神々しさに驚愕したと、いや恭しく彼女を横抱きにしたラインまでもだった。
神々しい光に包まれた状態の二人を見た私達もライン同様に驚愕したよ。
そしてエルの身体を包む光は未だ消える事はなく、この部屋全体を慈愛に満ちた眩い光で満たしている。
侍医はエルが発光している事を知らない。
ティーネ叔母上の頃より奇病について研究を続けているとは言え所詮彼は我が一族の者ではない。
また視えない相手に説明するのも骨が折れると言うのか、抑々面倒でしかない。
ただしこの状況を視えていると思われし者が一人存在する。
いや、この様子だと二人……か。
全くジークだけでもエルとの関係性についてわからない事だらけなのにここへきて大神官長までもか。
大神官長である彼女の生家は確か伯爵家だったな。
だとすれば我が一族の血を受け継いではいない筈。
それなのに一体何故エルの放つ光が視えているのかを是が非とも大神官長へ問い質したいのだが、父上の、あの藁をも縋る気持ちは私自身わからなくもない。
女神イルメントルートを祭り信仰する場所が神殿。
我がファーレンホルスト家もイルメントルートとは繋がりのある家系。
この事実は秘匿されしもの。
決して我が家以外の者には話してはならぬと代々伝承されてきた。
実際何処までが本当なのかと正直疑った時期もある。
しかしエルが誕生し、彼女の満1歳の誕生日以降はその事実を信じるしかなかった。
またエルが目覚めた日に私達兄弟四人は、愛すべき大切な従妹姫を護ろうと誓ったのだから……。
「では私がエルネスティーネを連れ戻しましょう」
大神官長はエルの手を優しく握り静かに告げた。
「連れ戻す……とは?」
まぁ普通にそこは突っ込むだろう。
私も連れ戻すと言う意味を是非聞いてみたいしね。
「エルネスティーネは未だ大魔女に囚われております。正確には大魔女とその遺志を受け継ぐ者の思念に御座います」
「何じゃと⁉」
「陛下、このままではエルネスティーネは記憶だけではなく命までも奪われるでしょう。一刻も猶予はありません。今はどうかこの私を信じて下さいませ。そして何があろうともエルネスティーネを、私の希望の光を連れ戻してみせます」
「大神官長その、希望の光……とは?」
「おや聞こえてしまいましたかのう。ほほ」
父上だけではなく普通にこの部屋にいる者は聞こえていたと思うが今は何も言うまい。
そんな私達の心を悟ったのか、大神官長はこの張り詰めた空気の中一人慈愛に満ちた笑みを湛えている。
「……妾の選びし道は間違えてはおらんかったようだな」
「大、神官長?」
何と言うのか一瞬、そうほんの瞬きの間だけだ。
あろう事か大神官長自身の身体よりエルと同じ光が視えたのは……。
「一つお願いがあります。私がエルネスティーネの心へ入っている間は決して、えぇ譬え何が起ころうとも私とこの娘に触れないで頂きたい。万が一第三者が触れれば、私とエルネスティーネを繋ぐ糸が切れてしまいます。故に絶対に触れて下さいますな。宜しいですか」
微笑みを湛えたまま話していると言うのに何故か私達の身体は動く事も出来ず、恐ろしいまでの強大な圧で呼吸をするのがやっとだった。
だが不思議と大神官長から不快な感覚はなく、敢えてそう譬えるならば尊い存在に畏怖や畏敬の念を抱くと言ったものと酷似している。
そうして私達はただ首を縦に頷けば大神官長は安心した様にぱたりと、エルの傍で意識を失う様に倒れていく。
「「「だ、大神官長!?」」」
父上達が倒れていく彼女へ触れようと傍へ駆け寄る。
「父上っ、大神官長の言葉を忘れられたのですか!!」
私は全力でそれを阻止した。
もし大神官長の言葉が正しいならば、父上が触れた時点でエルは二度と目覚めない。
「あ、あぁそうであったな。じゃが老人が倒れておるのだぞ」
まぁ言われてみれば……ね。
ここには私達家族……いや、ジークもいたな。
一見にして血や涙の一滴すらもない冷血集団と後ろ指を指されたとしても言い訳は出来まい。
「ですが約束は約束です。私達は大神官長との約束を守らねばいけないのです」
何としてもエルを目覚めさせる為に!!
また再びあの弾けんばかりの笑顔を見たいが故に。
女神の血を受け継ぐ一族とは言え、所詮は只人と変わらない私達の不甲斐なさややり切れなさ、力のなさに腹が立つ。
大事な時に大切な存在を護る事が出来ないとは……な。
どうかエル、お願いだから無事でいてくれ!!
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