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第三章 別離
13 Sideクリス
しおりを挟む「父上に叔父上お二人共いい加減にして下さい」
「何じゃクリスではないか。何用か」
「これは王太子殿下御機嫌麗しく……」
「上辺だけの言葉等全く必要はありませんよ叔父上」
「これはこれは相変わらず手厳しい」
ほんの微かでさえも目が笑ってはいませんよ師匠。
まぁそれは私も同じですがしかし今はその様な些事等どうでもよい。
私は陛下へ手短に報告をする。
「大神官長がお越しになられました」
「おおそうか待ちかねたぞ!! さすれば直ぐにエルの許へ行くぞ宰相」
「はい、王太子殿下誠に有難う御座います」
「いえ当然の事なので何も気になさらないで下さい」
そうエルに関してだけは私達に垣根は存在しない。
我がファーレンホルスト家の血を受け継ぐ姫の存在こそが国の最優先事項であり秘匿されし存在。
いや我が国だけではない、引いては世界の安寧にも拘るもの。
この九年間私はずっと心の中で思っていた。
なれるものならば私がエルの番う相手になりたいとね。
それだけあの小さくて華奢な姫の背負う十字架は重い。
またこれまで時間を掛けて調べ上げた情報に間違いがなければ、恐らく……はエルで最期となるのだろう。
前回のティーネ叔母上が施したものよりまだ時間は経ってはいない。
それにも拘らずエルネスティーネがこの世に誕生しなければいけない理由はつまりそういう事なのだろう。
ティーネ叔母上の力が弱い訳ではない。
ただ単にアレの力が強まっただけ。
その証拠にエルの症状は過去に存在したであろう姫達の何れの状況とも違う。
余談だがジークに関してだけ綺麗に記憶が抜け落ちる意味はまだ何も分からない。
我が家の抱える秘匿されし何かであるか若しくはエルとジークの二人の間に共通する何かしらの関わりしものが存在するのであろうか。
その何かを知る切っ掛けを求め弟のベルンは今も大陸を旅している。
ふ、アレも相当エルへ入れ込んでいるからな。
そうファーレンホルストの男は基本姫を護る為に存在する。
兄妹として生まれれば家族愛と言う大きな括りの中で姫を大切に護っていく。
だが現状の私達の様に従兄妹と言う関係で誕生した場合は何故か姫を護る上に愛情いや、執着にも似た恋情と言う想いがそこへ追加される。
しかし断じてこれば呪いではない。
自分の身を挺して護ると言う事は家族愛よりも更に濃密な関係性の構築を求めた結果なのであろう。
現在はそれぞれに婚約者がおり、私は婚約者であるビアンカをエルとは別の意味で愛している。
ただ弟達……エーベルは兎も角、ベルンとラインは未だその辺りの感情が割り切れてはいない。
恐らくジークをまだ認めたくはないのだろうね。
私も出来れば認めたくはない。
だからエルのジークにだけ徹底して記憶を失う理由が是が非とも知りたいと思う。
それを知る事が出来れば恐らく私達は前へと踏み出せる筈だ。
「失礼します。陛下と宰相が来られましたよ」
エルとティーネ叔母上の秘密を知り尚且つ私の考えが正しければ、目の前にいる大神官長は恐らくこの中で誰よりも私達が知りたい事実を知っている。
「お久しぶりです陛下」
恭しく頭を垂れる大神官長。
齢80歳と言うには年齢以上に若々しい容姿だけでなく、また矍鑠とした様子だけではない。
年齢以上に頑固な性格に、時には国王でさえも手玉に取り揶揄うのが好きだと公言する悪趣味な婆様だ。
恐らくこちらの欲しい情報はそう簡単には教えてくれまい。
叶う事ならば手っ取り早く拷問し欲しい情報を得る事が出来ればこれ以上簡単なものはない。
ただ我が国の大神官長は周辺国のそれらよりも尊敬と象徴的な存在でもある故に現実に拷問云々は得策とは言えない。
下手をすれば王家に対し民だけでなく貴族達からも不振を抱いてしまう。
おまけに周辺国からの非難も否めないだろうね。
だがそれよりも何よりも大神官長へ絶対に無体を働いてはいけないと、頭の奥で特大の警鐘が鳴るのは一体何故なのか。
これはもう少し慎重且つ今まで集めた資料と共に、大神官長に関する情報をもっと細部に至るまで精査する必要があるな。
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