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第三章 別離
12 Sideジーク
しおりを挟む姫はこの国にとっていや、ファーレンホルスト家の者にしてみれば自分達の命よりも大切なる存在だ。
因みに俺は親戚とは言え王妃の弟、つまりは外戚。
ファーレンホルストの血を受け継がない者。
確かに過去を遡れば多少なりとも流れている程度……だな。
また他の貴族と比べれば王家の秘密を知る数少ない者。
だが秘密の全容は知らないし、そこまで詳しくは教えてくれてはいない。
何故外戚の俺がほんの少しでも王家の秘匿されしものを教えられたかと言えば、それはエルが俺の存在を綺麗に忘れるからである。
毎日会おうが、日を置いて対面しようとも決してそれはブレる事はなく、この九年間俺は見事なまでにエルに俺と言う存在を忘れられてしまう。
まぁ正直気になる子にここまで綺麗に忘れられれば地味に傷ついてもいる。
そう気になる……だ。
最初はただ単に素直な好奇心だった。
男系の王家に続いて生まれた女児の誕生に対してだ。
何しろエルが誕生した時は国中で数日間お祭り騒ぎだったからな。
王宮で、エルの百日の祝いで初めて対面した瞬間、俺は繋がれた指先より溢れ返る様なある想いと……でその場を忘れ泣きそうになってしまった。
切なくも愛おしい想い。
全てを思い出した訳ではない。
そしてこれより待ち受けているだろう呪いにも似た試練。
エルと触れ合う度に甘く満ち足りた想いの半面、己が存在を完全に忘れてしまう事への苦い想い。
今回こそは――――と俺はエルに逢う度に好印象を持って欲しくて、ほんの少しでも覚えて、思い出して欲しくて俺は必死に足掻く。
彼女の好きな大きな兎や熊、アヒルにイルカと言った様々なぬいぐるみ。
毎回少しでも記憶に残って欲しいと願を掛けつつプレゼントをするのだが、結局何かの切っ掛けで意識を失えば、次に目覚めた時には俺に関する記憶は綺麗さっぱりとなくなってしまう。
最初に目覚めたエルはどうして突然大きな兎のぬいぐるみがあるの……と酷く混乱したらしい。
俺の想いとは別に記憶の混乱による弊害を回避したい侯爵家全員、そこは使用人も含めてだな。
エルが意識を失うとそれまでに送っただろうぬいぐるみ達は邸内にあるぬいぐるみ部屋なる場所へ現在も保管されているらしい。
そうして何時もエルが目覚めれば振り出しへと戻る。
ただ同じ人間の記憶だけをなくす事に何か意味があるのでは……と誰かが指摘をした訳でもない。
しかし気づけば俺も仲間として受け入れられていたのである。
でも完全ではない。
特にエルの父親である宰相は――――。
娘にとって不必要だから記憶が消去されるのです。
本当に何処までも容赦がない。
今も陛下と口論をしつつ視線だけは俺をどうにかしてやろう感が満載の殺気の籠った……って一国の宰相が本当にそれでいいのか!?
少しは成長しろ……とは流石に言葉として発する事は出来ない。
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