58 / 140
第三章 別離
11 Sideジーク
しおりを挟む現在俺はかれこれ一時間以上国の表と裏トップ二人の痴話喧嘩に付き合わされている。
いや正しくは俺だけではない。
国王の執務室だけに護衛の騎士や側近数名、また宰相側の側近……だがその中にアルフォンスはいない。
宰相の息子と言う親の七光りだけではなく、あいつ自身文官としての能力は高い。
文官として王宮入りをして約半年でアルは次代の宰相候補と周囲に認めさせていた。
俺も負けてはいられない。
一応これでも副団長補佐を務めている。
何も己が実力に満足をしていると言う訳ではない。
俺自身が公爵と言う身分、また王族の外戚と言う色眼鏡で見られたくはないと幼い頃より日々研鑽を積んでいるのもあるだろう。
だが俺の実力からすれば今の地位は過ぎたるもの。
此度の件と言い俺はもっと強くならなければいけない。
エルを護る為にも強い男にならなければ……。
アルとは働く部署は違えどもいい意味でライバルであり親友でもある。
今頃宰相府ではアルが率先し宰相の要決済以外の雑務を粛々とこなしているのだろう。
本当ならばエルの傍についていたい筈なのにな。
視線をサイドへ向ければ国王の侍従達は通常運転。
この二人のやり取りを見ても慣れているのかそれとも呆れているのだろうか、我関せずとした涼しい顔……いや冷ややかな面持ちでじっと経過を見つめている。
一方宰相の側近はと言えば顔を真っ青にして今にも倒れそうになっている。
まぁ普通に自分の直属の上司が国王へ喧嘩を売っているのだからな。
下手をすれば何時自分にも何時火の粉が振ってくるかもしれない……って本当に火の粉で済めばいいのだが。
抑々国王と宰相の関係を知らない様子からするとあの側近はかなり下っ端若しくは新人なのか。
アルの事だから実践向きでない者を父親と伯父の喧嘩でも見物していろと体のいい厄介払いなのだろう。
だが俺もどちらかと言えば暇ではない。
オヤジ同士の喧嘩を見ているくらいならばエルの見舞いも行きたい……と思いを巡らせれば新たな人物が執務室へと訪れた。
「失礼します父上。ただ今大神官ち……はぁ、また相も変わらずですか。お互い仲がいい癖に直ぐ口喧嘩をするのはいい加減やめませんか……って父上そして叔父上。あ、ジークもいたのだね。君は私より年下だけれど正確には私の叔父上だね」
「いえ、今は私達の関係性はどうでもよいのです。ただ出来れば速やかに陛下と宰相閣下の口論を止めて頂けませんか王太子殿下」
「王太子……ね。その様に堅苦しい呼び方でなく幼い頃の様にクリス兄上と呼んで欲しいのだけれどね」
冗談ではない。
抑々その呼び名もエルくらいの年齢までの話だろうが。
少なくとも10歳以降は一度も殿下をクリス兄上とは呼んではいない。
いや、呼ぶ事が出来なくなっただけだ。
「昔ならば兎も角現在は決してあり得ませんよ」
「それはとても寂しいね」
両肩を軽く竦めくつくつと、実に愉しげに笑っておられるのは第四王子のライン殿下とそして目の前におられる王陛下と同じ髪と瞳だけではなく容姿もご兄妹の中で一番よく似ておられる。
だが違うのは王族の中でも飛びぬけて眉目秀麗な容姿だけでなくその性格は怜悧冷徹、また四王子の中で一番王の器を持っておられる第一王子のクリストハルト殿下だ。
「また悪い顔をして私を見ているねジーク。大丈夫だよ私は基本家族や愛する者には寛大だからね」
「……はい」
そう彼もまたファーレンホルスト家の男。
「私達の大切な姫を害なす者は何があろうと決して許さない。そう誰であろうとも……ね」
そう呟くクリス殿下の温度を一切感じさせない黄金の双眸に、俺は一瞬悪寒が走ってしまった。
45
お気に入りに追加
2,685
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる