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第三章  別離

11  Sideジーク

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 現在俺はかれこれ一時間以上国の表と裏トップ二人の痴話喧嘩に付き合わされている。
 
 いや正しくは俺だけではない。
 国王の執務室だけに護衛の騎士や側近数名、また宰相側の側近……だがその中にアルフォンスはいない。
 宰相の息子と言う親の七光りだけではなく、あいつ自身文官としての能力は高い。
 文官として王宮入りをして約半年でアルは次代の宰相候補と周囲に認めさせていた。

 俺も負けてはいられない。
 一応これでも副団長補佐を務めている。
 何も己が実力に満足をしていると言う訳ではない。
 俺自身が公爵と言う身分、また王族の外戚と言う色眼鏡で見られたくはないと幼い頃より日々研鑽を積んでいるのもあるだろう。

 だが俺の実力からすれば今の地位は過ぎたるもの。

 此度の件と言い俺はもっと強くならなければいけない。
 エルを護る為にも強い男にならなければ……。

 アルとは働く部署は違えどもいい意味でライバルであり親友でもある。
 今頃宰相府ではアルが率先し宰相の要決済以外の雑務を粛々とこなしているのだろう。

 本当ならばエルの傍についていたい筈なのにな。

 視線をサイドへ向ければ国王の侍従達は通常運転。
 この二人のやり取りを見ても慣れているのかそれとも呆れているのだろうか、我関せずとした涼しい顔……いや冷ややかな面持ちでじっと経過を見つめている。

 一方宰相の側近はと言えば顔を真っ青にして今にも倒れそうになっている。
 まぁ普通に自分の直属の上司が国王へ喧嘩を売っているのだからな。
 下手をすれば何時自分にも何時火の粉が振ってくるかもしれない……って本当に火の粉で済めばいいのだが。

 抑々国王と宰相の関係を知らない様子からするとあの側近はかなり下っ端若しくは新人なのか。
 アルの事だから実践向きでない者を父親と伯父の喧嘩でも見物していろと体のいい厄介払いなのだろう。
 
 だが俺もどちらかと言えば暇ではない。
 オヤジ同士の喧嘩を見ているくらいならばエルの見舞いも行きたい……と思いを巡らせれば新たな人物が執務室へと訪れた。


「失礼します父上。ただ今大神官ち……はぁ、また相も変わらずですか。お互い仲がいい癖に直ぐ口喧嘩をするのはいい加減やめませんか……って父上そして叔父上。あ、ジークもいたのだね。君は私より年下だけれど正確には私の叔父上だね」
「いえ、今は私達の関係性はどうでもよいのです。ただ出来れば速やかに陛下と宰相閣下の口論を止めて頂けませんか王太子殿下」
「王太子……ね。その様に堅苦しい呼び方でなく幼い頃の様にと呼んで欲しいのだけれどね」


 冗談ではない。
 抑々その呼び名もエルくらいの年齢までの話だろうが。
 少なくとも10歳以降は一度も殿下をクリス兄上とは呼んではいない。
 いや、呼ぶ事が出来なくなっただけだ。

「昔ならば兎も角現在は決してあり得ませんよ」
「それはとても寂しいね」

 両肩を軽く竦めくつくつと、実に愉しげに笑っておられるのは第四王子のライン殿下とそして目の前におられる王陛下と同じ髪と瞳だけではなく容姿もご兄妹の中で一番よく似ておられる。
 だが違うのは王族の中でも飛びぬけて眉目秀麗な容姿だけでなくその性格は怜悧冷徹、また四王子の中で一番王の器を持っておられる第一王子のクリストハルト殿下だ。

「また悪い顔をして私を見ているねジーク。大丈夫だよ私は基本家族や愛する者には寛大だからね」
「……はい」

 そう彼もまたファーレンホルスト家の男。

「私達の大切な姫を害なす者は何があろうと決して許さない。そう誰であろうとも……ね」

 そう呟くクリス殿下の温度を一切感じさせない黄金の双眸に、俺は一瞬悪寒が走ってしまった。
 
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