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第三章 別離
3 Sideジーク
しおりを挟む「…・・・ま、……様っ、旦那様お気を確かに!!」
薄らと瞳を開けば目の前には太陽の光とそして輪がシュターデン公爵家の家令のグスタフがいた。
常にポーカーフェイスと言うのか無症状……いや能面だな。
まぁそこはある意味俺と同じでもある。
一見にして何事にも全く動じる事もなく無表情で無感情に思える男、だが実はエルにだけはその相好を崩す。
当主の俺には塩対応なのにな。
普通には決してわからないレベル。
きっとエル自身すら気づいてはいないと言うかだ。
何時もエルは俺達を忘れてしまう。
厳密に言えば俺なのだ。
グスタフはそんな俺に関わる者。
言ってみればとばっちりみたいなものだな。
両親を事故で亡くした後は姉上が何度も王宮へ伺候する様に声を掛けてくれた。
王妃と言う立場上公平であらねばいけないと言うのに、周囲の反感を買いながらも幼くして当主となった俺へ義兄である国王陛下と共に色々と心を砕いて下さった。
グスタフは幼い俺へ群がる魑魅魍魎達より護る為に、共に王宮へ伺候してくれたのだ。
そして俺達は交流を深めたのだ。
エル、ネスティ―……?
そう俺は今エルと共にバルコニーより――――⁉
「おいグスタフ、エルはっ、エルネスティーネは!!」
ぐっと気力と腹筋だけで起き上がれば、目の前のグスタフの胸倉をむんずと掴んで問い質す。
だがグスタフは何故か困った表情のまま俺へ二の句を告げた。
「本日はと申しますか、旦那様が問われるのはキルヒホフ侯爵家のご令嬢であられるエルネスティーネ様でしょうか? 彼のご令嬢は今日に限らず当家には今までに一度もおいでになられてはおりません」
何をすっ呆けて……と俺は尚も食い気味にグスタフへ問いかけようとしたのだのだが……。
「ですが旦那様あのドレスは、私の目より拝見させて頂きましてもアレはウェディングドレスにしか見えないのです。然もあの生地は一般に出回っているものではなく、王室限定の絹地とお見受け致しますがどうしてこの様な所に……」
俺は庭で倒れている所を発見された。
その場所は俺の執務室のあるバルコニーの真下。
俺が倒れていた場所よりほんの少し離れた所の地面には、先程までエルネスティーネが着ていた筈のドレスのみだけが、まるで蝉の抜け殻の様な形で置いてあったと言う。
「エルネスティーネ⁉」
俺はズキズキと激しく痛む頭と身体の痛みに構わず、彼女の着ていたであろうウェディングドレスへと飛びついた。
恐る恐るドレスへ触れれば先程まで感じていたあの柔らかくも優しい温もりは何処にもなく、触り心地は王室限定の絹地だけあり心地は良い。
だがそれよりも何よりも温度を全く感じない、そのドレスに触れれば触れる程に俺の心はどうしようもなく焦燥感に駆られてしまう。
またエルを失ってしまったのだと確実に、不思議にも失ってしまったと言う言葉と喪失感がストンと俺の中に落ちていく。
しかし頭の中で考えられるのはそれまでだった。
エルについて考えようとすればする程に俺は今まで感じた事のないくらいの割れる様な頭痛と眩暈からの吐き気へと襲われれば、そのまま多分意識を失ってしまったと思う。
エル、今貴女は何処にいる!!
俺はここにいる。
ずっと貴女を、貴女だけを愛している。
貴女を腕の中で抱き締めながら落下している途中、気づけばあの青紫の靄から解放されていた。
それと同時に徐々にクリアとなる記憶。
俺は貴女に伝えなければいけない事がある。
許してくれとは言えない。
ただこのままずっと俺を忘れたままではいて欲しくはない。
愛しいエル、俺の長きに渡る貴女への想いは一体何処に行けば真っ直ぐに伝わるのだろう。
貴女を見つけ出せば今度こそ、俺は貴女の記憶に残り……たい。
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