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第二章 干渉と発露する力
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しおりを挟む「……気分、悪い」
私は今絶賛青い花との睨み合いになっていた。
当然ジーク様の優しい笑顔云々なるものは遠い彼方へと消えていった。
そしてあっと言う間にだったわ。
瞬く間に私がいるガゼボを青い花がすっぽり取り囲んでしまったの。
一つ一つは小さな花なのに、ぐるりと360度見事なまでに死角なし。
それから小さな青い花々の何処と睨み合っているのかと言う突っ込みはしないで絶対に欲しいわ。
何故ならそれらはニュアンス的なものであって、一々小さな花の特定までしたくはないし今は構う暇なんてないもの。
ただ私を囲む様に存在する花全体放たれる異様なまでの殺気に、ゴリゴリと私の精神は削られながらもギリギリの所で想像以上の恐怖と闘っている。
有難い事?に物理的な攻撃はまだない。
でもそれも時間の問題なのかもしれない。
実際に小さな花がどの様な攻撃を仕掛けてくるかは謎だけれど。
兎に角今は青い花へ可能な限り全体的に意識を集中させている。
多分、いえ恐らく少しでも私の集中力が欠ければ、問答無用で花達は私へ襲い掛かってくると言う確信!!
何故それがわかるのかって?
理由なんてわからないわ。
何となくその様な感じがするだけ。
でも問題はこの青い花々が一斉に攻撃を仕掛けてきた際に、私がきちんと対応出来るのかと問われれば、即答で否と言う悲し過ぎる現実。
何故なら私は本当に何処にでもいる普通の貴族令嬢。
ほんの少し活発でお転婆なだけで、大魔法師や賢者様でもなければ力のある聖女でもない。
9歳の、何の力もまだ持ってはいない非力な存在。
でもだからと言って簡単には死にたくはない。
攻撃されたら死に物狂いで抵抗してやるわ。
物凄く怖いけれどやられっぱなしで死にたくないもの!!
はぁそれにしても暑い。
今はまだ春……って、あぁお誕生日会が催される三日前だからもう初夏、なのね。
なんか変なの。
自分の知らない所で時間が流れている感じ……だわ。
そう、言えば以前もこんな風に時間のズレを感じた様な気がする。
あれは何時だったのかし、ら。
そして何時まで私はここにいなければいけないの?
本当に何故私は勝手に森へ来てしまったの?
どうしてお父様やお母様の言う事を大人しく聞く事が出来ないの?
もしかして私は悪い子供なの?
悪い子供だからここにいるの?
悪い子供はお父様とお母様の言う事を聞かないわ。
だから悪い子供は森へ捨てられる。
そうして悪い子供は青いお花に食べられちゃうの。
ぱくん――――とお花に食べられちゃうのよ。
あぁそうなんだ。
私は悪い子供だから青いお花に食べられちゃうのね。
『ソウ、オ前ヲ食ベル為ニココヘ来タ』
青い花が一斉に左右へゆらゆらと揺れる。
まるでそんな風に答えているみたいだわ。
あれ?
霧が出てきたみたい。
視界が徐々に霞んでいく、わ。
青紫色、の霧……なのね。
不思議な感じ、だわ。
こんな色の、霧を見たのは初めて。
でも霧ってこの様な色をしていたかしら。
うーんどうでもいいわ。
どうでもいい。
何だか考えるのがとても、疲れる……もの。
だからもう何も考えたくは、ない。
それに青い花と何処となく似ていてとてもいい感じだもの。
うふふ、何となく愉しくもなってき、たわ。
先程迄物凄く不安を抱いていたのに、今は不思議なくらいに愉しい。
今なら夜通しダンスのステップも踏めるくらいだ……わ。
今まで抱いていた恐怖感から瞬く間に愉しい気分へと似り替えられる。
恐怖でガチガチに固まっていた身体は自然と柔らかくなればよ。
今にもガゼボより抜け出し、習ったばかりのステップを軽やかにと思った瞬間だった。
『サア、我の許ヘ来ルノダ』
静かに、燃える青白い炎の様な髪。
真っ赤な鮮血の様な赤い瞳をした者が私へと手を伸ばし立っていた。
『我ハズット待ッテイタ』
私を、待っていた?
何故……あぁ身体が、頭の奥が怠くて眠い。
何か考えようとしたけれど……。
『何モ考エル必要ハナイ』
でも……。
自分の中で疑問に思うけれども、その疑問を持つ事さえもが煩わしい。
『ソウ、何モ考エズ、タダアルガママヲ受ケ入レレバヨイ』
心の奥の、更に奥の方より何かが必死に訴える。
訴え掛けられるけれども私は、私の身体は声のする方へ、求められるままにゆっくりと前へと進み……。
『サア今コソ積年ノ望ミガ叶エラレシ――――』
「目を覚ますんだエルネスティーネ!!」
徐々に意識が霞んでいく中で聞こえた第三の声は、出来得る事ならば余り会いたくはない人のものだったわ。
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