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第二章  干渉と発露する力

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 今回テアはお留守番。
 勿論一緒に行くとかなりしぶとく食い下がられたわ。
 だけど両陛下へ可愛くお願いする様子は何となく見られたくはなかったのよね。
 それにテアが同行すれば絶対に今日の目論見は即お母様のお耳に入ってしまう。

 お母様に知られればきっと物凄く怒られてしまうわ。
 何故なら私達は貴族。
 貴族の結婚に私情は禁物と言いますか、抑々結婚は一種の契約だったりする。
 領地領民の生活を守る為に結婚は成されるのであり、そこに愛や恋等と言う感情はほぼほぼ許されない。

 貴族へ生を受けた者は皆幼い頃よりそう教えられているわ。
 私達が豊かに暮らしていられるのは全て領民あっての事。
 その領民を護る為に私達は私情を犠牲にする……とね。

 稀に恋愛結婚をする貴族も存在する。
 私のお父様とお母様の様にね。
 また結婚若しくは婚約期間に良好な関係を構築出来れば幸せな生涯を送る貴族もいるわ。
 でもその関係が上手く構築出来なくて最悪婚約破棄をされるか、正当な血筋を受け継ぐ子供だけを儲けると後は仮面夫婦で、結婚をしているのに住む場所も別と言う貴族も少なくはない……って何時だったかしら。

 そうそう先日のお茶会の時アンネが興奮気味に話してくれていたっけ。
 ルートにテアと私は沈黙したままその場で固まって聞いていたのだけれどね。

 だからこれから王陛下へお願いする事は貴族令嬢としてしてはいけない事。
 でも未来、それとも夢なのかそこがややウロなのだけれども、兎に角16歳のエルネスティーネは幸せではなかった。

 然もジークヴァルト様婚約者の前で死を選んでしまう程って何なのよ。

 幾ら貴族だからって、政略だからって死を望む程の辛い未来何てそんなのは絶対に嫌!!

 悲しい未来しか待っていないのであれば少しだけ我儘を言ってもいいでしょ。
 その代わり自分に出来る事、キルヒホフの領地で人に役立つ事を考えて沢山努力をするわ。
 ただ一方で貴族をやめて完全自由って道も……まだまだ諦めていないのも事実。
 兎に角先ずはお母様がいらっしゃる前に王陛下とお会いして婚約云々はしない方向……ってあれ?

 そこで私は立ち止まり周囲をぐるりと見回した。 

 一応ここは森と呼ばれてはいるものの実際は庭園の一部であり、その規模も周囲1㎞あるかないかの小さなもの。
 また幼い頃より何度も歩き……う、まぁそこは走り回っていただろうよく知る場所。
 森の中心には小さな天使像の噴水とガゼボがあるだけなのにどうして⁉

 先程より色々考えながら歩いてはいたわ。
 そう森の入口より少なくとも既に30分は歩いている。
 何時もならば10分もかからない先にある筈の噴水はおろかガゼボの姿すら見当たらない!?

 なのに周囲はどんどん緑が濃くなり、きっと中心近くにはいる筈なのに、何処か何時もの森と何かが違う。
 そんな森の異変を感じたと同時に私の心は何とも言いようのない不安へと駆られればだ。
 何とか落ち着こうと深呼吸をしてみるけれども胸のどきどきは一向に止まる気配はない。

「で、出口。そ、そうね。兎に角森を出て部屋へ……お部屋へ戻らなきゃ」

 ピリピリと肌に感じる異質な感じ。
 ここは私の良く知る森ではない。
 突然の事態に思わず泣き出したくなる。
 急速に心細くなっていく自分へ何とか叱咤激励するかの様に言い聞かせ、少しでも心を奮い立たせようとするのだけれども発した声は余りにも情けなく、蚊の鳴く様な声となってしまう。

 それでもここに立ち止まって何か解決するとは思えなかった。
 だから私は勇気を奮い立たせ、直ぐに回れ右をして元来た道へと歩いていく。
 最初は普通に、でも徐々に不安が増す毎に自然と急ぎ足から駆け足へ、最終的には全力疾走しながら思う事は――――。

 私には影のお兄さん達がいるから何かあった時は絶対に護ってくれる!!


 お父様が常に付けてくれている影のお兄さん達。
 貴族の子供あるあるで誘拐や人身売買が未だなくならない昨今、高位貴族の子息や令嬢には影と呼ばれる隠密が常に警護をしてくれている。

 我が家は特にお母様が王妹だからこそ狙われる確率も一般の貴族以上に跳ね上がるらしい。
 アルお兄様も然り。
 幼い頃の猿として駆けずり回っていた私に唯一追いつけたのは影のお兄さん達だけだった。
 だから今も……⁉

 そう思った刹那私は悟ってしまったとほぼ同時に駆けていた足も徐々に緩やかへとスピードを落とせば、何時の間にか歩みを止めて立ち尽くす。

 何時も何気に感じていた影達の気配。

 それは生きている人間の発する音。
 息遣いから始まり、ありとあらゆる動作に至るまでの、幾ら影とは言え生きている限り決して消す事の出来ない気配を私は何時の頃よりか感じると共に安堵感に包まれていたもの。

 つい先程までよ。
 用意された部屋を出て木を伝って降りる時に『おいおい』なんて毎度ながらに呆れる様な溜息や、『はらはら』と心配そうな面持ちで見つめている視線を感じていたわ。
 どんなに呆れられようと心配されても最早慣れっこな私は特に気にも留めなかった。
 庭園の中を歩いている間にも相手の息遣いや足音も感じていたわ。

 では森に入ってからは?
 森の入り口から今この瞬間まで彼らの気配は?

 も、もしかしなくても今っ、この森の中にいるのはなの⁉
 
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