36 / 140
第二章 干渉と発露する力
15 Sideユリアン
しおりを挟む「何か、微々たるものでもいいのです。大神官長どうか娘の為に私に出来る事はないのでしょうか」
そう少しでも、何ならエルの為にこの命を差し出せと乞われれば、私は喜んでこの命を差し出してもいい。
ティーネは怒る、いやきっと彼女ならば『困った人ね』と、呆れと悲しみを含んだ愛らしい表情で私を許してくれるだろう。
息子のアルフォンスも成人を迎えたからね。
まだまだ頼りない所はあるだろうが、私と愛するティーネの息子なのだ。
国と侯爵家、そしてエルネスティーネを全力で護ってくれるだろうだから――――。
「貴方方の命を差し出されても状況は変わりませんよ。先ず第一に大の大人の男性がそないにオロオロするのではない!!」
「「大神官長」」
「あぁ本当に鬱陶しい。そなたら二人は昔から何一つ変わらぬとは一体どういう事です。この国の王と宰相が赤子の時と変わらぬままとは何とも情けない事」
あーそう言えば私だけでなくレオンも大神官長が昔から苦手だったな。
何が苦手かと言えば……。
「もっと建設的な事を考えなさいな。本当にエルネスティーネを大切だと思うなら今大人の、国のトップに立つ貴方方にしか出来ない事をするのです」
この九年間色々考え試してきましたよ。
でもどの方法も的確ではない。
譬えるならば対症療法。
その時その場の状況に合わせ、思いついたものを行っていただけ。
直接的な解決に未だ至ってはいない。
「全てはあの娘を思っての行動なのでしょう」
「それは勿論!!」
愛しく大切な我が子だからこそ、家族である私達が何とかしたいと強く願う。
「今はそれでよいのです。大丈夫、ちゃんとエルネスティーネの心には届いております」
「そうなのか大神官長」
「はい、確かに不安も抱えているでしょう。ですが貴方方のあの娘への愛は伝わっております」
「ならばよいのだが……」
しかし伝わるだけでは……。
「当代の大神官長として申し上げる事は、今は耐える時です」
「本当にそれだけなのですか」
他にもっと!!
「娘の呪いは何時か溶けるのでしょうか」
一刻も早く不安を取り除いてやりたい。
幾らその場を取り繕っているとは言え、微妙な綻びや違和感をエルは感じ取っている筈。
何時までも今の現状を続けるには無理がある。
また大神官長はこの件に関して私達の知らない情報を握っている。
それを感じたのはどうやら私だけではないようだな。
「王家の女児に関し大神官長は我らの知らぬ事を知っておるのだな。でなければ今が耐える時という言葉は恐らく出ぬだろう。違うか大神官長」
「……確かに。ですがそれを言の葉として発する事は禁じられております」
「一体誰にだ!! 少なくとも王家は禁じて等いない。神殿かとも思うたがその長は貴女だ大神官長。イルメントルート神を崇めるこの世界にある神殿の最高位でもある貴女へ圧を掛けられる存在は一体何者なのだ」
そうこの世界の神はいる女神イルメントルート一柱のみ。
それ以上も以下もいない。
彼の神がこの世界を創り護っている。
その神殿の長に圧を掛ける者がいるとすれば……いや、それはないだろう。
流石に――――ない。
私は今一瞬脳裏へ過ったある考えを振り払う様に左右へ頭を振ったがしかし、その考えはもしかしたら外れてはいなかったのかもしれない。
何故なら……。
「……私は見守る者とだけ申しておきましょう」
「「見守る、者?」」
「ある件に関してだけは直接関与せずただその状況を見守るのです。ですが既に私は決まりを犯しております。聖務局へ手を回し、エルネスティーネに関する動きを強引に封じました」
「確かに。金の玉を引き当てたにしては聖務局が大人しいと思っていました。まぁ向こうがわが家へ来たとしても、この私直々に追い払っていたでしょうがね」
そうこれ以上エルの負担になるものは確実に取り除かねばいけない。
「だがクレメンティーネの時は銀色だった。過去多くの王女達の引き当てた玉の色は金よりも銀色が多かったのは何故なのだ。そして何故今回エルは金の色を引き当てたその違いを教え――――」
「これ以上は無理です」
有無を言わせない力強い声音。
「しかし……」
それでも何とか食い下がろうとすればだ。
「人の子が知る範疇を超えております。私は何も語りません。もしそれでも何かを知りたいと願うならば己が自身の力でその秘密を突き止めるかそれとも、これより先エルネスティーネが選ぶ答えを待つがよいでしょう。私が申しあげるのはそれだけです。本来ならばこれさえも人の子である貴方方に告げてはならぬもの。神の血を受け継ぎし王よ、そなたは見届ける者となるでしょう」
そう言い終えると大神官長はその場より姿を消した。
大神殿へと帰ったのだ。
「見届けし者。イルメントルート神の血を引く者……か」
ファーレンホルストは女神イルメントルートが人間の男と婚姻を結びその子孫が受け継いでいる。
今まではその外見的特徴だけを重視していたのだが……。
「何か口伝若しくは記録なんてものはないのか。何でもいい、何かヒントが欲しい」
「あぁいいぞ……と言ってやりたいのはやまやまだ。わしもエルを助けたい。だが何もないのだ。これまで本当に平和すぎ……いや、百五十年前に金色の女児が誕生した」
「もう一度その頃の記録を読み返そう」
「あぁそうだ。あと並行してエルの番となる者を何としても探し出す。ティーネにお前がいた様に、エルにもお前の様な相手が絶対にいる筈だ」
「……そう、だな」
確かに成人を迎えるまでに番う相手が現れればこの病は無効化される。
それが一番手っ取り早いのかもしれない。
しかし……父親としてはどうしても素直に賛成したくはないのだ。
とは言えエルの成人まで後七年。
余りにも時間が短すぎる。
70
お気に入りに追加
2,698
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える
Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。
ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。
夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。
夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。
愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?
国の事業に絡んだ政略結婚だから?
早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。
『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』
『この子はあのひとの娘です』
自分と結婚する前に、夫には子供が居た……
王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。
個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……
*****
ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。
⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。
具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。
自衛をお願いいたします。
8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。
他サイトでも公開中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる