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第二章 干渉と発露する力
閑話 愛する娘 Sideクレメンティーネ
しおりを挟む「先程は色々と失礼致しましたわ。私はアルフォンスとエルネスティーネの母キルヒホフ侯爵が妻、クレメンティーネ・ザシャ・アポロニア・ファーレンホルスト・イェーリスと申します。以後見知りおき下さいませね」
まぁ堅苦しい挨拶はこれでお終い。
当然私の名にファーレンホルストが入っている事で既にご存じだとは思いますが、このファーベルク王国を統べる現国王の妹なのです。
実家のファーレンホルスト家は男系で、何故か女児が誕生するのはほぼ百年に一度あるかないかの確率ですの。
男児にしか継承させないどこぞの王族にしてみれば、大層羨ましい出生率でもありますわね。
なので王家に連なる女児が誕生した際は国を挙げてのお祭り状態……とここまではあくまで一般的なもの。
しかし内情を知るファーレンホルストの人間にしてみればある意味苦悩を強いられているとも言えますわ。
先ず王族の血を受け継ぐ女児の特徴と致しまして、直系ならば赤毛交じりの金色の髪と黄金に輝く瞳を、私の様に降下した先で誕生した者でも髪色だけは王家の色を受け継ぐものと伝えられております。
私は王族として生を受けましたので赤毛交じりの金色の髪と金の瞳を、娘のエルネスティーネは史実通り髪の色のみを受け継いで生まれましたわ。
身体的特徴は特に気にしてはおりません。
血縁なのですもの。
受け継がれても可笑しくはないのです。
ですが出来得る事ならば受け継いで欲しくないものはありますの。
それこそが――――。
ファーレンホルストの娘のみ発症する呪い。
呪いと申しましても死を齎す……いえ、ある意味それに近いものなのかもしれませんわね。
一応身体的には健康に成長しますのよ。
私もですが特に娘は野猿と周囲よりそう称される程とても元気ですわ。
ただ母親としてその件に関しましては少々手を焼いている事は否めません。
ですがその事よりも何よりもある一定の年齢になると私達は突如意識を失うのです。
何の前触れもなく突然です。
そうして数日間意識を失い、次に目覚めた時には記憶を失っているのです。
失う記憶の期間は実に様々。
数時間の時もあれば一日や数日単位。
でも次第に失う期間は何かのきっかけで突然長期へと渡る事になる可能性もあるのです。
私の場合一度の記憶の喪失は最長半年でしたわ。
頻度も娘に比べれば少なかったと思います。
なので記憶の混乱も然程大きくはなかったのを覚えています。
しかし娘の、エルネスティーネは私の、いえ今までの記録に照らしてみましたが何故かかなり異なっています。
先ず第一に私の次に誕生する女児は予定ではどれ程早くても九十五年後の筈がです。
それが僅か三十四年後だったは私のみでなく周囲を激しく動揺させましたわ。
でも何よりも愛らしく私の腕の中の娘が本当に愛おしくて、この先何があろうとも絶対に護ってみせると、それは私だけでなく夫は勿論の事兄夫婦に可愛い甥っ子達、お母様やイェーリス家の両親。
それからまだ何も事情を知らないだろう筈の、当時7歳だったアルフォンスまでもが賛同してくれたのです。
つい昨日まで甘えっこな息子が、突然お兄様になった事にとても感動致しましたわ。
皆で愛する娘を護りサポートしようと心に決めた丁度一年後、その時が始まったのです。
私の場合は5歳からだったと、母王太后より教えられました。
歴代の記録を読み解いても最初の発症は大体5~7歳頃。
それまでに対策を講じればいいと甘く捉えていた私達を嘲笑うかの様に、突然1歳のお誕生日にエルは意識を失ったのです。
最初は三日間意識を失いました。
そして記憶は……不明ですわね。
何故ならそこは普通に1歳児の記憶。
余り問題にはならないのかと思えばやはりそうでもなかった様です。
因みに母親の私とアルフォンスは毎日一緒にいたので問題は然してありません。
問題があったのは父親のユリアンでしたわ。
当時は宰相になったばかりで日々職務へ忙殺しておりましたでしょう。
屋敷へ帰ってくる日も二、三日に一度が関の山。
人見知りの時期も重なり、夫に抱っこされた瞬間娘はギャン泣きでした……わね。
ギャン泣きする娘を宥め、隣で酷く落ち込む夫を宥めるのが何とも大変でしたわ。
その後は一年前後に一度ずつ意識を失えば、数日の記憶を失っていく事を繰り返しました。
娘が7歳を迎えた頃より意識を失うのが顕著となり、また記憶を失う期間も徐々に長くなりましたわ。
現在無事9歳を迎えはしましたが、果たして本当に娘が覚えている記憶はどのくらいあるのでしょうか。
私達の目の届く範囲、当然王家もですが侯爵家でも常に娘へ影を数名つけております。
娘の身を護るのも勿論ですが中々に行動的な娘ですので、これより先私の知らない行動も徐々に増えて行く事でしょう。
記憶を失った際に精神が混乱しないよう家族を始め親族は勿論、今では娘の友人にもお願いをし記憶のサポートをして貰っていますの。
少しでも記憶のない事に不安を抱えない様にしてやりたい。
娘への親心……なのでしょうね。
また娘は人に良くも悪くも愛されておりますわ。
叶う事ならば成人までにどうか娘の番となる相手が見つかって欲しいと思います。
えぇこの呪いじみた病を治癒……と言うか、無効化させる条件はたった一つ。
成人を迎えるまでに運命の相手を見つけ出す。
こればかりは簡単な様で実に難しい問題ですわ。
私にユリアンが相手だった様に、エルにも運命の相手が現れる事を切実に願うばかりです。
あらあらお話が少し長くなりましたわね。
まだ色々とお話したい事は御座いますが今宵はこれまでと致しましょうか。
アルフォンスも語りたい事があると思いますので、また機会があればお会い致しましょう。
最後に最近気づいた事なのですが、娘の記憶喪失に関して特定の人物だけを忘れてしまうのです。
何度も会い、会話をを重ねるも何故かその人物の存在を忘れてしまう。
私の時にはなかった症状です。
これが何か解決へのヒントになればいいのですけれど……。
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