上 下
24 / 140
第二章  干渉と発露する力

4

しおりを挟む
「御機嫌ようエルネスティ-ネ嬢。これは愛らしい貴女へのプレゼントだよ」
「ご、御機嫌よう……しゅわ。しゅ、シュターデン公爵様⁉」

 か、噛んだぁあああああ。
 物凄く恥ずかしい!!
 穴があったら、ううん穴がなくとも自ら進んで地底奥深くまで掘って穴の中へ引き籠りたい。




 風邪が完治してから数日間は自宅で安静を余儀なくされた。
 
 もう退屈過ぎて死んでしまう……って事はなかったわ。

 何故なら体調が戻ってからはまたテアの鬼畜なしごき……もとい礼儀作法を受けていたもの。
 まぁ常に比べれば少しはましだったのかもしれない。

 9歳になったからは言え日常が変わる訳でもなく、今は社交シーズンでもあるから身体の疲れが出ない程度にお茶会の招待を受けている感じかしら。
 
 子供にも子供のお付き合いってものがあるものね。
 
 でも正直に言ってた幾つ極まりなし。
 仲の良い友人だけならば楽しいけれども、そう中々思い通りにはいかない。

 それに私は暇人ではない。
 目下婚約まで三ヶ月を切っている。
 何か策を練り、それに向かって行動を起こさなければ私は人生を詰んでしまう。
 アレが現実の未来だとすれば……ね。


 
「シュターデン公爵ではなくそこは是非ともジークヴァルトと、いやと呼んで頂けると嬉しいよ」
「じ、じーくさまぁ?」

 一体何故こうなった。
 ジークヴァルト様と初めて出逢うのは確か婚約式の時でしょ!?
 そしてアルお兄様、お兄様の笑顔はとーっても凶悪に見えますわよ。
 出来れば妹の精神に支障をきたす前にその笑顔は止めて頂きたいわ。

「うん彼は僕の親友のジークだよ。でもエルは何も気にする必要はないからね」

 清々しい?いや物凄く禍々しい笑みを湛えられているお兄様の、まさかの親友ぶった切りってアリなのですか。

 でも今は胸が、そう何故か物凄く心臓が煩くて、挨拶の流れの際に頂いてしまった大きな兎の、とてもふわふわモコモコとして極上の触り心地の良いぬいぐるみへ掴まる形でしっかりと抱き締めてしまった。

 か、可愛い!!

 兎のぬいぐるみにノックアウトされた私の様子にジーク様はふわりと破顔一笑されたの。

 どきどき。

 あぁもう心臓が煩い!!
 本当にお優しくも穏やかなイケメン度が数百倍跳ね上がるのは勿論の事だけれど、16歳だったエルネスティーネは一度たりとも見た事はなかった。

 こんなに素敵に微笑まれられるジーク様を私は今初めて知ったわ。
 理由の分からない胸のどきどきは治まらないまま何故か胸の奥がちくりと、何とも言えない痛みがじわりと静かに広がっていく。
 それが余りにも切なくて、思わず泣き出しそうになってしまう。

 だから私は兎のぬいぐるみへぐっと強く自身の顔を押し当てる。

 だってそうでもしなければきっと私は泣いてしまうもの。
 
 
 何故今になって私へ気を遣って下さるの。
 16歳だった私は一体貴方の何だったのですかジーク……様。

 わからない。
 エルネスティーネは何もわからないのです。
 
 9歳で、貴方と再会するほんの少し前に目覚めたそれまでの記憶が酷く朧気で、最後のジーク様とのやり取りは覚えているものの9歳より以降の記憶がわからない。

 でもジーク様の今の行動は更にわからないと言うよりも、全く理解が出来ないと言ったところですけれどもね!!

 だ、大体ジーク様にあの方と言う恋人がいらっしゃる筈なのに、どうして婚約も交わしていないただの友人の妹でしかないモブの私へ態々わざわざ会いに来られたの?
 た、確かにそこは私達は全くの他人ではなく親戚関係ではありますわね。
 ウロな記憶の中で親戚付き合いをしていた記憶はありませんけれど。
 
 それよりも何よりもこれよ。
 こんなにも可愛い兎の、ずっと前より欲しいと思っていたものが形となって表れたのですもの。

 嬉しいと素直に思う気持ちと色々な理解しきれない複雑な想い。

 一体私はこれからどうなっていくのかしら。

 
 いやいやそこは少し冷静になろう私よ。
 ドストライクな贈り物に絆されてどうするの。
 
 先ずは最初に決めた通りジーク様との婚約をなかったものとして動かなくては……ね。
 とは言えこの兎さんはしっかりとモフらせて頂きます。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...