上 下
22 / 140
第二章  干渉と発露する力

2

しおりを挟む

 
 温か、い。
 ぽかぽかと温かな陽の光を感じるわ。
 肌に感じる温かさに沈んでいただろう意識がぐんぐん上昇して……。


「あ……」

 そうして目覚めればそこは今までと変わりのない朝。
 ゆっくりと周囲を見回せば見慣れた可愛らしい感じの調度品に、白と金を基調とした可愛らしい天蓋の付いた女の子心を擽る可愛らしい寝台。
 天蓋には真っ白なカーテン、それには小さな小花の刺繍が幾つも施されている。

 全て私のお気に入り。
 
 あぁ無事に元へ戻って?
 
 はい?何が無事に戻ってなのかしら?
 普通に朝が来たから目を覚ましただけでしょ。

 何だか変なの。
 さぁ朝が来たなら起きなきゃね。
 何時までも寝ているとテアが般若様に変身しちゃうわ。
 そうなると私のおやつの量が減ってしま……。

 つらつらとそんな事を思いながら上体を起こそうとしたの。
 すると――――⁉


 な、に?
 何だか物凄く身体が重怠い。
 重怠いなんて生易しいものではないわ。
 何だか身体に頑丈な鎧を着せられているかと思う程、自分の身体なのに思い通りに動かせない。
 
 ううん、全く動かせないのではないわ。
 ただ起き上がるのが凄く辛いだけ。
 身軽が自慢のエルネスティーネ様なのに……。

 これはちょっと、ううんかなりショックだ。

 そんな私がもぞもぞと寝台の上で足掻いているのを察したのはやはりテアだった。

「エル様⁉」

「あ、おは、よう、テア!?」

 な、何このガラガラの声?
 おまけに喉が物凄くカラカラで、言葉が上手く発する事が出来ない。

 一体一晩でどれだけ私干乾びたの⁉

 一晩でこれでは一週間も眠った状態になれば間違いなく私はミイラと化しているわ。
 あぁ生きたミイラ。
 いやいや今はミイラではない!!
 ただ単に喉が渇いているだけ!!
 断じてミイラにはならない。

「だ、大丈夫ですかエル様」

 そう言って私の状態を支えつつ、背に幾つものクッションを差し込み身体のバランスを整えてくれたの。

「喉が渇いているのですね」
「う、ん、冷た、いお、水、飲み、たい」

 出来れば氷沢山入れて欲しい。

「白湯にしましょう」
「冷た、いお水、は?」
「それは後でです。今は身体に優しい白湯にしましょう」

 うぅ残念。
 でもなんだろう何時になくテアが物凄く優しい。
 何時もならもっとそう、お布団と仲良くしている私にはもっと厳しい態度だった筈。
 リリーと一緒に嫌がる私を見て、笑いながら寝台より引き摺り下ろしていた鬼軍曹様なのに。
 
「……エル様。今良からぬ事を考えておられませんでした?」

 考えてない!!
 そんな恐ろしい事を考えたら殺される!!

 重怠い身体を酷使し、ぶんぶんと音が鳴るかと思う程に左右へと、否定の意味を込めてかぶりを振ったわ。
 
「はぁ、今のはなかった事にします。それよりも……」

 テアは頭を無理に振った事で上体のバランスの崩れた私をそっと抱き締める。
 
「……せないで下さい」

「テ、ア?」

 ……の身体が小刻みに震えている?
 どうしたの?
 寒いの?
 今の季節は初夏なんだけれど……。

「ふふ、相変わらず失礼な事ばかり」

 あれ、心の中読まれている!?

「そこがエル様の良い所であり悪い所でもあるのですけれどね」

 ちょっと何気に失礼過ぎよテア。
 白湯を飲んで落ち着いたら思いっきり文句を言うわよ。
 勿論テアが怒らない程度……だけれどね。

 私の身体の位置を整えるとテアは白湯を持ってくると部屋を後にした。
 何時もならリリーか他の誰かがするだろう仕事なのに、テアは私の自称専属侍女だけれど私のお義姉様なのに……。
 
 
 ぽつんと一人になると何だか心細い。
 ううん、それだけではないわ。

 何だろう、何か心の中が変な感じ。
 上手く考えが纏まらないけれど、何かがすっぽりとなくなっている感じが否めない。

 こんな事初め……て?
 うーん初めて、なのかな?
 初めてにしては何となく既視感みたいな感じだわ。
 
 変なの。
 私が変なのか、それとも周りが変なのかそれすらもわからない。
 何時の日かこの感じがすっきりするのかしら。
 だとすればなるべく早くなって欲しい、な。


 自分の中にある不可解な感覚を持て余していたらテアの持ってきた白湯と一緒にお父様とお母様、アル兄様まで何だろう。

 物凄く感極まった表情をされて部屋の中へ入ってこられたわ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

AK
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」 私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。 ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。 でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。 私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。 だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...