【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ～彼女の選んだ決断

第二章 干渉と発露する力

1

『エルネスティーネぇぇぇぇええええええええええ!!』

　そう強く叫ぶのは誰？
　必死に、悲痛な心からの叫びの様に聞こえる貴方は一体……。

　
『どうかジーク様を少しだけでも……』


　ジーク、様？
　知らない。
　私の知っているにはい、ない筈。
　
　なのにとても不思議なの。
　知らない名前なのに何故か胸の奥がぎゅうっと締め付けられてしまう。
　それと同時にジークと言う名前を思い浮かべるだけで胸の奥がほわほわと温かくも擽ったい。
　まるで昔から知っているかの様……だわ。

　そして今私は何処にいるのかしら。
　ううん、何処でもいい。
　だってここはこんなにもふわふわで温かく、優しい何かで私をそっと包んでくれている。
　
　こんなにも気持ちのいい感覚を私は知らない。
　何時までも、ふふ、ずっとこのまま包まれたまま眠っていたいな。

　こうして何も考える事なく穏やかに時間の流れに身を任せてい、たい。



『……』

『…………っい!!』
　
　ん？
　何、かしら。

『……な!!　こ……こい!!』

　よく聞こえ、ない。
　それよりも何よりも今はここで安らかに眠――――⁉

『死ぬなああああああああああああ!!』

　え？
　な、何!?
　堕ちてる。
　物凄いスピードで下へ向かって堕ちてってどういう事なの⁉

　何処までも何処までも、まるで昔本で読んだ奈落の底へ向かって堕ちていくみたい。
　少なくとも二階や三階と言った建物からの落下には到底思えないと言うか、飛び降りるとかしていない……筈？

　では私は直前まで何をしていた、の？

　わからない、思い出せない。
　ほんの少し前の筈なのに自分の行動を思い出す事が出来ない。
　突然下へ向かって落下する事態に恐怖でどうすればいいのかわからなかった。

　そんな時だったわ。
　急に落下するスピードが緩やかになっていくの。

　理由なんてわからない。

　ただそれと共に恐怖でガチガチに固まっている私の身体を何か優しくも温かなもので包まれている感覚が伝わってきた。

　何だろう。
　お父様？
　ううん、アルお兄様かしら。
　んー、この感覚はお兄様でも違うかしら。

　でも私は覚えている。

　この逞しくも温かな腕だけではない。
　抱き締められる身体を私は忘れはしない。
　だって貴方は私の……。

　
　護られている事に安堵したのか、私はそっと下を見た。
　地上より微かに見えるのは一面に広がり咲き乱れる禍々しい色の青い花。
　それは今まで一度たりとも見た事のない花。
　青いのに何故か鮮烈且つ赤黒さを連想させる様な花と、そのあまりな色に恐怖を覚える。

『大丈夫。貴女は何があろうと私が護る』

　力強くも優しい声音でそっと囁かれる。
　それだけで心が温かくも満たされていく。
　
　ふわふわと心地の良い感覚に私は静かに身を任せたわ。