20 / 140
第一章 不可思議な現実?
19
しおりを挟む誰?
『私は貴女よエルネスティーネ』
眩い光がゆっくりと、中心へと集まればそれはやがて人の形へと成していく。
そうして現れたのは私の知る16歳のエルネスティーネだった。
『……っ、お、おのれまた私の邪魔をするのか!!』
先程までの異質なエルネスティーネの地を這う様な恐ろしい怒声に身が竦む。
『お黙りなさい。貴女は私達とは違うのです。さぁ還るべき場所へ帰りなさい』
16歳のエルネスティーネは私を自身の後ろへと隠し私を護る様に前に立つ。
『わ、私のいるべき場所はここだ。私はエルネスティーネ!! そしてあの人は永遠に私のものだ!!』
何を言っているのか意味が分からない。
ただ血を吐く様に叫ぶ声が物凄く辛くて悲しい。
胸が締め付けられ……。
『同情してはダメよ。今ここであの者と共感すれば貴女は元の世界へ永遠に戻れない』
元の世界?
『えぇここは貴女のいる世界ではないわ』
「何故私は自分の世界にいないって、ううん、どうして私の心に思った事がわかるの?」
私は素直に思った通りの事はを告げる。
そんな私にエルネスティーネはほんの少しだけ悲しそうな笑みを浮かべている。
『私は、私達は貴女なの。貴女は私達。これから出会うかもしれないし、もしかしたら永遠に出会わないのかもしれない。でもほんの少しでも覚えていてくれたのであればとても嬉しい。私達は貴女を軸とした世界とほんの少しだけ異なる世界にいるエルネスティーネ』
「異なる世界?」
「そうよ。それは貴女にとって現実でもあり夢なのかもしれない。若しくは全く関係ないのかもしれないわね。でも沢山のエルネスティーネは貴女を愛している』
「わた、しを……?」
『えぇ貴女をね。そしてアレは異質なる者。エルネスティーネではないもの』
指で指し示すのは先程のエルネスティ―……ってあれ?
『真似てはいけない存在に焦がれた余りに化けの皮が剥がれかけてきたのね』
「こ、これは……」
『うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお⁉』
地を這う様な叫びと共にシューシューと蒸気の漏れる音。
勿論蒸気の発するものなんてない……いや、あろう事か蒸気ではないけれども彼女の身体より白い煙の様なものが噴き出していた。
『わ、わたじはぁぁぁぁぁぁぁぁ』
嘘⁉
先程まで私と同じ赤毛交じりの金色の髪の色が変わっている。
ううん、まだ変わる途中なのかもしれない。
また彼女より発せられる煙?蒸気ではっきりとしないけれども色は赤。
然もくすんだ、いえ血が渇いて固まった様な赤黒さも混じっている。
その髪を両手で抑え込み何かの苦しみに耐えている様に見えた。
『さぁ貴女はもう元の世界へお戻りさない』
「元の世界って……」
元の世界へ戻ると言うか、どうしてきたのかさえ分からないのにどうやって?
『私が手助けをするわ。今ならばアレを抑えつつ貴女を無事に元の世界へ戻す事が出来る』
「で、でもそんな事をすれば――――」
エルネスティーネへ危険が及ぶのでは……と二の句を告げかけた。
『心配してくれてありがとう。大丈夫、貴女が無事であれば私達の存在は消える事はないわ』
そんなものなの?
何故そうなのか理由はわからない。
『今はわからなくてもいいし覚えていなくてもいいの。そう貴女はまだ目覚めてはいない』
いや、起きてますけれど。
『そこは敢えてスルーするわ。ただ何時の日か貴女は本当の意味で目覚めるわ。その時に全てを理解するの』
本当の意味の目覚め?
『えぇ全てを理解した時に貴女の選んだ決断に私達は従う』
何か凄い事を言われている感じがする。
でも悲しいかな今の私には何も理解出来ていない。
『焦らなくてもいいの。貴女の時間の中でゆっくり考えればいいわ。さぁもう戻りなさい。お父様やお母様の待つ貴方の世界へ……』
眩い光が私を包む。
ふわふわと仄かな温かさのある光に私の意識はゆっくりと微睡んでいく。
次第に意識だけでなく全身も軽くなり、自分でももう帰るのだと認識した。
消えゆく意識の中でエルネスティーネの少し悲し気な声音が聞こえてきた。
『どうかジーク様をほんの少しだけでもいいから許してあげて。何故なら彼は……』
その先は何を話しているのかはもうわからなかった。
一体16歳のエルネスティーネは何を言おうとしたのかしら。
また彼女は大丈夫だった、のかな。
どう、か無事で……。
62
お気に入りに追加
2,693
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える
Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。
ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。
夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。
夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。
愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?
国の事業に絡んだ政略結婚だから?
早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。
『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』
『この子はあのひとの娘です』
自分と結婚する前に、夫には子供が居た……
王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。
個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……
*****
ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。
⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。
具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。
自衛をお願いいたします。
8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。
他サイトでも公開中です
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる