18 / 140
第一章 不可思議な現実?
17
しおりを挟む『さようなら、どうぞお幸せに……』
その言葉を最期に私はふわりとした浮遊感を身体に感じた刹那――――地面へと、凄まじいスピードで地上に向かって一人堕ちていく。
叶うならば死を迎えた後も笑顔で、ジークヴァルト様の瞳に映る最期の私は笑顔でありたいと思っていた。
何故なら初めて好きになった御方だからこそ、ほんの少しでも私の嫌な部分は見せたくはない。
えぇそう私はジークヴァルト様に笑顔の私だけを覚えておいて欲しいの。
ジークヴァルト様の御心のほんの片隅でもいいのです。
ジークヴァルト様、貴方を慕っていた娘がいたと言う事を……。
これは夢?
でも今9歳のエルネスティーネの前には16歳の、あの日バルコニーよりダイブしたままの姿。
真っ白なウェディングドレスを纏うエルネスティーネが悲しそうに佇んでいた。
『私はエルネスティーネ。私は貴女の……。貴女はまだ何も思い出してはいないし覚えてもいない』
「な、にを?」
何かを忘れているって事?
『……てはいけない。一刻も早くこの場より立ち去りなさい』
そうエルネスティーネは静かに告げると踵を返し何処かへ向かおうとしていた。
「待って。私は何を忘れているのか、どうしてここにいてはいけないのかを教えて!!」
私はすーっと、音も立てず静かに床を滑るように進むエルネスティーネの後を追い掛けようと駆けだしていたわ。
でも何故か一向にエルネスティーネに追いつかない。
こちらは全力で駆けていると言うのによ。
私と16歳のエルネスティーネの間には常に一定の距離が保たれていた。
「待ってぇ、どうして追いつかないのよぉ」
どれだけ走った事だろう。
はあはあ、息をするのも苦しくて、でもここで止まればもうエルネスティーネに会えない。
何故そう思ったのか何てわからない。
ただ私は諦めずに彼女を追い掛け続ける。
とは言え幾ら何でも子供の体力にも限界と言うものはある。
果たして時間にしてどのくらい走っただろう。
ううん、初めから時間なんてものすらわからない。
抑々ここは一体何処なの?
タウンハウスの庭でもなければ王宮の森でもない。
郊外の領地でもこんな場所は知らない。
いやいや最初は……って何?
私は一体何処からここへ来たの⁉
私の中で一つの疑問が生まれた。
また当然一生懸命駆けていた足も疲れている。
確かに疲れているけれども、自分が何処にいるのかって気になってしまうと同時にその場で立ち尽くしてしまった。
ここは見た事も来た事すらない場所。
周囲にあるのは今にも崩れ落ちそうな廃墟ばかり。
その廃墟も所々だしね。
草木は枯れ落ち、荒廃した大地に人の気配はない。
空を見上げれば青空何てものは何処にもない。
どんよりとした重く、紫混じりの暗い雲にすっぽりと覆われている。
まるで陽の光を暗い雲が拒絶しているかのよう。
なのにとある一角へ目を向ければ一面に咲き乱れているのは禍々しい色の青い花。
生まれて初めて見る花だった。
一見にして普通の花とは何かが違う。
青いのに何故か鮮烈且つ赤黒さを連想させる様な花と、その異質な色合いを持つ花より放たれる気配に恐怖を覚える。
花が怖いって何なの。
でも本当に怖いって感じるもの。
何だかあの花に今にも殺されそう……って、いやいや流石にあり得ない。
何を考えているの私!!
きっと見知らぬ場所と変わった花を見たから心細くなっているのね。
おまけにこんなに霞がかっているのもあって、当然視界は物凄く悪い。
よくもまぁこんな所を全力疾走出来たものだと我ながら感心する……って、そこ感心する所ではないでしょ。
兎に角この場所から一刻も早く逃げなきゃ!!
理由はわからない。
でも何気に肌で感じる危険な予感。
まさか16歳のエルネスティーネが態とこの場所へ連れてきた?
それこそあり得ない。
夢若しくは時間が巻き戻ると仮定をしたとしてもよ。
二人のエルネスティーネが出会う事はないでしょ。
あ、夢ならあり得るのか。
私は頬を軽く抓ってみる。
痛くなければこれは夢。
そうはっきり言って悪夢ね。
悪夢ならば直ぐにでも目覚めなけれ――――。
「……痛い」
夢だと思ったから軽くではなく思い切り抓ってしまった。
余りの痛さにじわりと涙が滲んでしまう。
『ふふふ、可笑しな子ね』
「エルネスティーネ!!」
頬を擦っていると目の前にエルネスティーネが立っていた。
先程まで絶対に追いつかなかったのに……。
『心配しなくてもいいわ。間違いなく私は貴女よ、エルネスティーネ。貴女の夢や愛そして幸せ、そうこれより先の未来の全ては私のもの。えぇジークは貴女には渡さないわ。クク、彼は永遠に私のものよ』
58
お気に入りに追加
2,680
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】この胸に抱えたものは
Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。
時系列は前後します
元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。
申し訳ありません🙇♀️
どうぞよろしくお願い致します。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる