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第一章  不可思議な現実?

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 魔王と化したアルお兄様のお陰でその後は比較的友好的な?
 いやいや果たしてあれは本当に友好的だったのだろうか。


 気付けば私は私を溺愛し過ぎるアルお兄様のお膝の上でお茶を、焼き菓子やケーキをそれはもう雛鳥の様にせっせと食べさせられていた。
 然も対面にはジーク様の生暖かいからの何故か突き刺さる様な眼差しの中でゆっくりと、何時もより時間の流れが遅く感じるのは気のせい?

 とは言えこの状態の私は何と言うか、とてもではないけれど居た堪れないし居心地も最悪よ。

 当然私は何度もお膝より下ろして欲しいと、お行儀が悪いからと、一番はお客様の前で恥ずかしいからと何度もアルお兄様へ抗議はしたの。

 何故かアルお兄様ってばそれはもう満面の、イケメンの笑顔の破壊力とは血の繋がっている妹でさえも思わず見惚れてしまう程に強烈だわ。
 私はまるで巨大な砂糖壺の中へ、頭の天辺から足の指先まで完全に漬け込まれている様な錯覚を覚えてしまう程に溺愛されている……ってこれは過去の記憶とそう大差ないわね。
 
 そう私をここまで溺愛するのはアルお兄様だけではないのだもの。
 ただここで問題なのは、ジークヴァルト様の前で恥ずかしいと騒ぎつつも、この現状に馴染んでしまっている私も相当ヤバいのかもしれない。


「いいの、これはの出来なかった愚かな駄犬への罰ゲームだよ。だからね僕の可愛らしいエルは何も気にしなくてもいいの。さぁ今度はお前の好きな木の実のタルトを……焼きたてだから香ばしくて美味しいよ。ほら、可愛いお口をあーんと開けてご覧」
「んンっ、お兄……あふぁ」

 口の中のものを咀嚼し終えれば絶妙なタイミングで紅茶をって私は、本当に雛鳥の様にせっせと食べさせられ次第に麗しいお兄様のお顔がどんどんこちらへ近づい――――⁉
 
「ストップです。それは流石にやり過ぎですわアルフォンス様」

 グッジョブテア!!

 そうだよ兄妹での口移しはにアウトでしてよお兄様!!

「はぁテアに注意されると仕方がないな。でもこれで丁度いいお仕置きになったみたいだから僕はとても満足しているよ」

 だからぁ一体誰に、そして何に対してのお仕置きなの?
 

 最初は素直に私なのかなって思ったけれども違った。
 第一私はアルお兄様にお仕置きをされる様な事をした覚えはないもの。
 ではジークヴァルト様……ってそれは本当にあり得ない。

 抑々ジークヴァルト様にしてみれば私何て存在しないのも同然。
 こうして今日みたいにイレギュラー的なイベントは多分、先日のアレの様にバグ若しくは単なる気紛れだと思う。
 
 ではテア?
 それも違うでしょ。
 この時のテアはまだ12歳。
 位置づけとしては一応私の専従侍女的な存在。

 でも正式には我がキルヒホフ侯爵家へ養女として、男爵家より既に籍は抜いてはいるけれどね。
 お互いに様子を見てから…・・・だったと思われる養女の件は何時の間にかお母様とテアとの談合の結果、テアが侯爵家へ越してきた時だったみたい。
 またその談合での条件として挙げられたのは、テアの岩石よりも堅い意志の許において、野猿令嬢である私を侍女目線で一から躾け直すだなんて、物凄く恐ろしいシチュエーションにがっつりと嵌っているらしい。

 まぁお母様にしてみれば可愛らしくも優秀過ぎるテアが義理とは言え娘となるだけでなく、長年手を焼いている実の娘の私が野猿から無事に卒業してくれるのであればよ。
 少々斜め上を突き抜けたテアの侍女目線と言う方法も結果オーライならば何をしてもいいと言った具合でするっと了承されてしまった。


 そうして常にテアの後ろ手に隠されているだろう見えない鞭は、当時何も知らない幼かった私を何度恐怖の底へと叩き落とした事だろう。
 
 あぁ目を閉じると過去の記憶が少し思い出されていく。
 私は何時もテアの半端ない扱きによって毎日泣き暮らしていた……ってテアがきてまだそんなに時間は経っていないけれどね。
 
 えーっと話が少し逸れたわね。
 うーん私でもジークヴァルト様にテアでもなければお仕置きは一体誰目的?


 結局何もわからないままお茶会は無事に終了したわ。
 気掛かりだったのは何処か魂の抜けた様なお姿へと変わられたジークヴァルト様。
 最後はアルお兄様へ馬車に押し込まれるようにして静かに帰宅されたわね。
 一方アルお兄様は至って満足そうに『百年早いわ!!』とか謎の言葉を漏らしておいでだったし、テアはと言えば『まだまだアルフォンス様もお子様ですわね』と何処か達観した感じの物言いに、理解の出来ない私の頭の中ではてなマークで一杯だ。

 まぁ何れにせよ私にはもう関係ないからいいわ。

 この時はもうジークヴァルト様との接点は暫くないものだと思っていたのだけれどね。
 
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