上 下
11 / 140
第一章  不可思議な現実?

10

しおりを挟む


 確かアルお兄様とジークヴァルト様は同い年で、王都にある学院の卒業生だった筈。
 ただ友人と言う認識はない。
 とは言えこれはあくまでも16歳のエルネスティーネの記憶、それとも……昨日目覚めてからずっと感じる違和感。
 
 私の知っている未来は16歳のエルネスティーネが死ぬまでのたった二日だけ。
 過去についての記憶もウロだけれども、ただし直接的なものは不確かだけれど私に関わる人達との記憶はあるわ。
 然も未来よりも過去の方が何だかしっくりとくる。
 
 それが何であるのか、その辺りの理由はわからないけれど私は……。

「エルどうしたの?」
「……あ、だ、何も、だ、大丈夫でしてよアルお兄様」

 心配そうに私を見つめるのは同じ菫色の瞳を持つアルフォンスお兄様。
 アルお兄様に心配させてはダメ。
 うん、深く考えるのは後にしよう。
 

 7歳年の離れたアルお兄様は剣よりも寧ろペンを愛する文官として、今は第一王子であり、もう直ぐ王太子へと立太子なされるクリスお兄様の側近の一人として毎日忙しく働いておられる。
 一方噂によればジークヴァルト様は名門シュターデン公爵家の若き当主であり、ペンよりも剣を握る事を選ばれた脳筋?
 
 いやいや文武両道的な?
 お兄様もだけれどお二人揃って顔よし、権力ありからのお金持ちってスペック高過ぎでしょ。
 ジークヴァルト様に至っては騎士として剣の腕前も凄いとか。
 ただ文官のアルお兄様とジークヴァルト様の接点って果たして今まであったのかしら。
 お兄様ってばお父様の朝練でさえも絶対に付き合わないくらい剣が大の苦手なのにね。

「エル、こちらは。学院時代はよく試験で順位を競い合っていたライバル関係だったのだけれどね。卒業してからはほら、勤め先が二人共王宮だろう。部署は違えどもお護りする相手は同じだから色々と仲良くなったのだよ。それに何と言っても僕達は親戚同士だからね」

 ほぉそうですか。
 それはそれは私は一向に存じ上げませんでしたよアル兄様。
 とは言え記憶がウロなのだから仕方がないか。
 ふむ、確かにジークヴァルト様は王妃陛下の弟君。
 一方私達のお母様は王妹。
 普通に親戚だよね……ってこれまで親戚付き合いして、いたかしら?


「こんにちは愛しき天使よ。私はジークヴァルト・アロイス・ラッツェルと申します」


 はい?
 今なんか物凄~く物騒なお言葉が?
 いえいえあの氷の様に冷たくも素っ気なかった御方の口より、まさかの使って私の耳は記憶同様本当に可笑しくなってしまったの⁉
 そして今、昨日の朝までは絶対にあり得なかったであろう出来事が私の身へと起こっている!?

 そうあの大きくもご立派なお身体を小さな私の視線へと合わすべく床に跪けばよ。
 ジークヴァルト様はゆっくりとお身体を屈め、私の様なお子様の手をそっと掬い、淑女と同じ様にキスを落とすお心算なのだろうかそれとも――――。

 視覚的に見えているのは、ジークヴァルト様のものよりも遥かに小さ過ぎる私の手をぎゅっと握り締められたまま何故なのか決して離そうとはせず、だからと言ってキスを落とす訳でもない。
 なのに私の手より20㎝程の所へ身体を前傾へ傾けられたままのジークヴァルト様のお顔があると言うちょっとした……いやいや今までの経験上私にしてみればこれはかなりな混沌カオス


 ジークヴァルト様はそのまま微動だにされず、はっきり言って理由は不明。
 何故かそのまま固まっておられるご様子。

 うーん、本当に皆目見当つかないのだけれど……。

 でもそこに助け舟は当然ある訳で。

「ねぇジーク、僕の大切な天使に何時まで、そして何をしているのかな?」

 それはもう清々しい程の魔王様宜しくと言った具合の真っ黒なオーラを全身に纏ったアルお兄様の壮絶な、凍れんばかりのお色気むんむんなる笑みを湛えたまま、私の腕を握り締めたままのジークヴァルト様の大きな腕と手ををがっちりとホールドされておりました。

 可笑しい、こんなシーンなんて前回はなかったのに……ってあれ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。  ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。  夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。  夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。   愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?  国の事業に絡んだ政略結婚だから?  早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。 『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』 『この子はあのひとの娘です』  自分と結婚する前に、夫には子供が居た……    王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。  個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……     *****  ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。 ⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。   具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。   自衛をお願いいたします。  8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。  他サイトでも公開中です

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...