【改稿版】旦那様、どうやら御子がおデキになられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉ 

Hinaki

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第五章  拗らせとすれ違いの先は……

【10】

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 悪い予感程よく当たる。


 陛下よりリーヴァイアレとの婚姻を交わす願いではなく、こちらが覆せない様わざを下してきた。

 だがそう命じられ、はい承りましたと了承すれば貴女の未来は確実に不幸が待っている。俺は愛する貴女を何としても守りたい。たとえ皇帝の怒りを買い爵位降格または剥奪されようが構わない。それで領地すらも没収され平民堕ちとなったとしてもだ。

 このまま指をくわえおめおめと貴女が苦しむ様を傍観する訳にはいかない!!

「陛下誠に申し訳ありませんが幾ら勅命とは申せ、我が娘とリーヴァイ様との年齢差は大きく、夫婦となるには些か問題が御座いましょう。それに娘も既に34歳。公爵家いや、大公家の世継ぎを無事に生せるかどうかは甚だ問題もあり過ぎます。ここは敢えて我が娘でなくとも若く子を儲けられる令嬢の方が大公家の、引いては皇室……いや帝国の安泰へと繋がりますでしょう」

 俺は淡々と事実を述べていく。実際問題として34歳で子を生せない訳ではないと思うがだ。然も大勢の者の前で愛する貴女を貶め傷つける言葉ばかり吐いてしまう私に許し等はいらない。だが今は貴女を敢えて貶める事でしかこの難局を乗り越えられない。
 
 後で貴女に沢山謝るから、あぁ何なら俺の顔を幾らでも気の済むまで殴ってもいい。それで貴女の心が、未来が安泰となるのであれば俺は何でもしてみせよう。そうして陛下の勅命を無視した物言いに処罰される事を一切恐れず俺はただ貴女の未来を守りたいが為に戦ったが結果――――。



「お父様、お母様そしてお兄様。長らくお世話になりました。わたくしはこれよりリーヴァイ様の許へ嫁ぎますね」

 今にも、そう今にも泣きそうな表情かおで貴女は、それでも精一杯に笑顔を浮かべれば俺達へ別れの挨拶をしてくれる。

「む、無理はしなくともいい。だから、だから何時でもだな。ほんの少しでも辛いと感じたならば……我が家は何時までもヴィヴィアン・ローズ、ここは貴女の家なのだから遠慮なく帰ってきなさい」

 それだけが精一杯だった。
 俺はこれより不幸になるだろう貴女へ結局のところ何も出来なかったのだ。
 
 一年前勅命を覆そうとした罪により半年の謹慎を申し渡されはしたものの、結局貴女はアレとの婚姻が覆る事はなかった。そして一年後の今日、貴女はこの家を後にしプライステッド公爵家へと嫁していく。また今となっては確かに……皇帝側の事情も全く分からなくもない。


 男系男子皇族のみに皇位継承権を与えられている帝国にとって今はある意味危機的状況なのだ。

 いや、今だけではない。

 先々代の皇帝までは后妃一人、皇妃二人と側妃愛妾はそれこそ好きなだけ娶る事が出来たのだからな。それこそ貴族間の均衡を保つべくそれぞれの派閥に見合った令嬢をその地位へ付けると同時に令嬢達は皇帝の子を順番に産んでいく。

 言い方は悪いのかもしれないが、数打てば鉄砲も当たるとばかりに生まれてくる御子に皇女が続いたとしてもだ。
 何発かの内には皇子も生まれてくる……と言う訳なのだ。

 おまけに皇族だけは近親婚も認めていたのだからな。

 これまで皇位継承に関して何ら困る事もなかったのだがしかし、先々代の皇帝は后妃を殊の外寵愛するが故に何と法律まで変えてしまった。
 
 皇帝の伴侶たる后妃一人と皇妃ではなく側妃は三人まで……と。


 この法律が執行されてよりどの様な例外も認めないとされた。
 先々代の皇帝と后妃にしてみればとても有意義な法律改正だった事だろう。また側妃を娶らずとも皇帝夫妻は二男二女を無難に儲ける事が出来たしな。

 だが、先代はどうだ。
 后妃一人と側妃三人娶って二男四女。

 当代に至っては一男二女。

 現在男子皇族は陛下を除いて皇太子と皇弟であられる大公とその息子の公爵を含め三人しか存在しない。
 故に現状帝国では女系、女王制は認めない派と女王、女系を容認派……それから若者達による帝国制そのものを撤廃し共和制の導入派まで存在しているのだ。
 
 どの派閥も今のところは武力行使にまで至ってはいない。
 だが何も講じなければそれも時間の問題なのである。
 そこで白羽の矢が刺さったのは我が侯爵家だった。

 どの派閥にも属さずとは言えある程度の権力と信頼を持つ、所謂面倒だが厄介事の調停役をしている家に目をつけられてしまった。

 我が家、いや何より副産物として祝福を齎す貴女の存在が国にとって何よりも必要とされてしまったのだ!!


 貴女が将来の大公妃となり、万が一に后妃となったとしても誰も文句は言わないし言えないだろう。それに皇太子が皇帝となり何処の派閥の令嬢を妃へと迎えてもだ。貴女が大公妃となり、我が侯爵家が後見とするのであらば他の貴族達も余り不平を唱えはしないだろう。

 まさに人身御供としか言いようがない!!

 だが現実では貴女は大公妃となる前にこの世を去ってしまう。
 
 何としても最悪な展開を回避する為に俺は手を尽くせる限り貴女とアレの行動を監視する事にした。
 万が一アレが浮気をした時点で貴女を侯爵家へと連れ帰る心算だったのだ。

 なのにどうしてなのだろうか。
 浮気疑惑の知らせを受け貴女へ連絡し直ぐにでも連れ帰ろうとしたのに何故か貴女の姿を見た者が何処にもいないのか。俺は必死になって国中をっ、プライステッド領は勿論、あと頼りになるのは過去の記憶とは言っても所詮はなのだ。

 また蛾の行動範囲も高が知れている。

 それでも何としても俺は貴女をっ、あの惨たらしい最期を迎えさせたくはなかった。
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