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第五章 拗らせとすれ違いの先は……
【8】
しおりを挟む「クリスティアン、いい子にしていたかな?」
俺の祖父、プライステッド大公が落ちてきただろう孫の俺を笑顔で抱き留めていた。
「済まない、もっと早くに気づかなんで悪かったな」
「…………」
「クリス、お前は何も悪くはないぞ。悪いのは全て親であるわしじゃ。気づいてやれなんだ娘のヴィヴィアンの為にもな、お前をビシバシ鍛えてちゃんと幸せに、なろうな」
「あぶわぁ、じーじ……」
でもじいさん、俺はもう取り返しのつかない事を、俺は両親だけでなく多くの……。
『罪を犯しておらぬ者をお前は害してはおらぬ』
「――――っ⁉」
「「「クリスティアン様っ、ご、ご無事に御座いましょうかっ」」」
「おお、大事ないぞ。我が孫はほれ、この通り元気そのものじゃ」
「「「ああ、神様っ、有難う御座いますっ!!」」」
皆、あの部屋にいた乳母や侍女達は不思議と無事だった。
そうしてあの部屋にいた者達が泣きながら俺のじいさんの元へと駆けてくる。
「実に不思議で御座いましたのよ。急に目の前が真っ暗な闇夜へと包まれれば、私共は不安で胸が押し潰されかけました時なのです。えぇ美しい深い緋色の花弁が……確かあれはそうですわね。先の奥方様であられたヴィヴィアン様が最後まで大切になさっておられた薔薇の花弁の様に御座いました」
ヴィヴィアン!!
あぁ貴女は死してまでもその優しさで以って皆を幸福へ導かれるのか。
どの様な汚辱に塗れようともその魂までは決して穢される事なく気高くまた清廉なまま。
俺は自身の愚かさに声を上げて泣いていた。
まあそこはまだ幼い子供で良かったと安堵もしたのだが……。
ひらり
幼い俺の掌へ深くも色鮮やかな緋色の薔薇の花弁が一枚舞い落ちてきた。
『大丈夫ですよ、きっとまたお逢いしましょう』
俺の願望なのだろうか。
それとも……本当に愛しい貴女だったのだろうか。
俺は花弁をぎゅっと握りしめたまま暫くじいさんに抱かれたまま泣き続けたのだ。
もっと早くに生まれてこなくてごめんね。
貴女を守れなくてごめんね。
でも今度こそは絶対に貴女を守り切るからっ、それまでどうか待っていてっ。
その後俺は厳しく養育してくれた祖父である大公の養子となり彼の後を継いだ。
だが皇族故に残念ながら生涯独身は許されず。
俺は従兄で新しく即位した皇帝の命により妻を迎えた。
勿論そこへ愛情はなんてものはない。
貴族としての政略婚だからな。
確かに相手の、妻となった女性には大変申し訳ないが、それでも俺の魂は今もずっと貴女を愛し求めているのだから仕方がないだろう。その代わりというのか、元よりそんな気もないので浮気をする事もなく世継ぎとなる子も儲け、夫としての責は無事全うした心算だ。
こうして年を重ね四度目の生涯を終えていく。
次こそはっ、ああ本当に次こそは……愛する貴女と出逢い、何があろうとも愛し守りたい!!
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