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第五章 拗らせとすれ違いの先は……
【1】
しおりを挟む◇ ☆ ◇
僕は、俺は……に出逢う為だけに今を生きていると言ってもいい。
これまで俺は……へ出逢いそして共に同じ時を生き、叶うのであらばもう一度始まりの時へと戻り今度こそ何の柵もなく愛し愛されたい!!
だが俺達は中々思う様に巡り合える事はなかった。いや抑々俺自身の記憶を取り戻したのはごく最近だったのだからな。でもある意味運命だったのかもしれない。俺の記憶が戻る切っ掛けとなったのは愛しい貴女との再会だったのだから……。
どの様な時でも一目逢った瞬間に恋に堕ちてしまう。
貴女への想いだけは何があろうとも決して忘れやしない。とは言え記憶を解き戻した当初は酷く曖昧で、どれも断片的なものばかり。
我が事ながら本当に情けないと思うよ。
でもそこはやはり運命の歯車によるところなのだろう。
何しろ今の俺には昔の様な力はもうないのだからね。
俺は色々と時間を掛け策を弄する事で漸く愛する貴女をこの腕の中へ抱く事が出来たと言うのにだ!!
愛する貴女が俺の目の前より逃げてしまった瞬間に再び襲い掛かる焦燥感と喪失感に絶望感。
いや、まだ完全には絶望してはいない。
何しろ貴女は私の前よりほんの少し逃げただけでまだこの世で生きているのだからね。
俺はまだ貴女を再び失ってはいない。
ねぇ、一体貴女は俺の事をどのくらい覚えているのだろうか。
俺が覚えている限りで言えば貴女と再会した時に何と俺が犬だった時もあるのだよ。
然もこの屋敷で、リーヴァイがまだ幼い頃に飼われていたラブと言う真っ白な犬だったかな。
母上であったプライステッド大公妃がお茶会を催した時に、何故か犬である俺は問答無用とばかりに会場へと連れて行かれればだよ。まだ成人もしていない子供達に『可愛い』と言っては揉みくちゃにされるだけかと思えば、キラッキラに着飾った女共に触られるだけならばまだ我慢は出来たのだ。
でも流石に人間よりも何倍も嗅覚の優れた犬である俺にしてみればだよ。
彼女達の身体より放つ香水の香りのお蔭で鼻が馬鹿になると、何日もクシャミが止まらなかったのさ。
そんな俺を憐れんだ大公家は獣医師を呼んだのだ。診察の結果アレルギー性の鼻炎だと診断され、そこで下らないお茶会へ参加をしなくともよくなったのだと教えられた瞬間はとても嬉しいかったよ。
でもその反面偶にお茶会へ参加をしていた貴女に逢えないのはとても悲しかったな。
所詮犬と人間ではどうする事も出来ないと言うのにね。
次は辺境の寂れた町で何とこの俺は羽虫だったのだよ。
然も薄汚れた明かりに群がる蛾だったね。
あの日も明かりへ誘われる様に、そこは蛾の習性に抗えないのは否めないけれども止まった先の窓から見えたのは――――っ⁉
苦痛にいや、もう全てを諦めきった表情のまま汚らわしい男共にっ、組み敷かれ抱かれているなんて可愛らしい表現ではない。
最早あやつらにとって貴女は女性としての尊厳どころか人間としても扱われてはいなかったのだ!!
汚らわしいものばかりの中、世界で最も清らかな貴女を何処までも穢していく男共に俺は苛立ちそして狂わんばかりの激しい嫉妬に駆られはしたけれども結局は何も出来なかった。
単なる虫であった俺には何も出来ず、また俺に見られたくはないのだろうとわかっていてもだ。
俺はあの窓よりほんの少しでも離れる事が出来なかった。
だが所詮はただの羽虫。
貴女を救う事も何一つ出来ずそのまま数日も経てば呆気なくその生を終えてしまったのだよ。
そうして生を終える中で俺は願ったのだよ。
今度こそは絶対に何があっても貴女を助けられる者でいたい――――とね。
まあ次の転生で俺は人間へと生まれ変わる事が出来たのは正直に言って嬉しかったよ。
これで貴女の傍にいられると同時に貴女を命を懸けて守る事が出来るのだと……。
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